024 貯蓄に価値
最早馴染みとなりつつあるギルドへとやって来た俺は、早速窓口にてドロップアイテムの売却へ身を投じている。
ダンジョンから出た時、辺りはもう既に暗くなっており、ギルドがまだやっているか不安ではあったが無事開いていることに安心を覚えた。
職員も提示したドロップアイテムの量に驚いている様子だったが、多分気を失っているうちに得ていたなんていう現象に直面した俺の方が驚いたことだろう。
「合計二九三〇〇〇円となります」
明細書。
キャタピラ ☆1 9000円
サナギXの欠片 ☆1 10000円
アゲハのカラクリ ☆1 20000円
ヤママユガのカラクリ ☆1 20000円
以上。
現在所持金293000円
約三十万。こんなにも疲れたかいあって、今までで最も高収入という結果になった。
あ、武器をまだ売ってなかったか。
……いやそもそもここで武器とか売れるのか?
「規定金額の無い物の売却も出来るか?」
「可能ですが、その場合はお時間を頂くことになるかと」
「どの位だ?」
「物によってはお預かりから二時間ほど掛かります」
成程ね。
ギルドはあくまで売却の仲介。
規定金額の無い物を買いとる場合にはジャンルに合わせた店への連絡なども必須となって来るだろう。
それに加えてその物の鑑定、か。
俺の創作物がどの程度の評価を得られるか興味がある。
……キャタピラーとか斬っちまってるけど、一応不純物が混じったりしてないからそれで値段下がったりとかはしないよな?
物質変形に伴って刃毀れとかあってもすぐ治っちまうからその辺も問題無いよな?
まあ問題があるとすれば重さ位か。
兎にも角にも俺は、試作品第一号たるハデス・アイアンと、後余りデザインを気にせず造ったもう一太刀の超高純度鉄製の剣。この二つをカウンターに乗せる。
カウンターはミシミシと音を立て、二本の剣の重さで蔵主する可能性がかなりあった。
無論、非戦闘員たる職員にコレを持つことは到底構わず、持ち運びからしてもう迷惑を掛けながら、鑑定をして貰っている間に夕食を済ませ、戻って着た俺だが鑑定は難航しているようだった。
「これは一体何処で手に入れたものなのですか?」
「内緒だ。盗品では無いぞ?」
「盗難マークがついていませんのでそれは分かります」
盗難マーク、というのは物を盗まれた時に何かするものなのだろうか。
というか、盗品が分かるとか随分便利な世界だな。
「誠に残念ですが、此方の商品を売却頂く事は出来ません」
「何……だと」
それは俺の造ったハデス・アイアンがナマクラだということか?
有り得ない。その切れ味は岩をも軽く両断するものであり、そんな物がナマクラである筈は無い。
「理由はまず第一に、此方の剣がオーダーメイドによるものであるからです」
「……明確な値段が決まっていないからか?」
「はい。言葉に確かな証拠が生まれない為、幾らでご購入したか調べる方法が無い物への値段をつけにくいというのが理由の一つです」
「二つ目は?」
「重過ぎる、という点になります。この剣、人によっては例え高レベルになろうとも扱えない次元のであり、そのせいで値段は完全に言い値。その人の感性の問題になってきますので、そうなるとギルドでの取引は不可能となります」
「成程な」
一定価格での取引を主としているココで、そんな物を売ろうと言うのがそもそもの間違いということか。
カウンターの上へと戻された二本の剣はカウンターを壊すべく重力を味方に攻撃し続けている。
俺がそれを回収し、鞄へ収めると心なしかカウンターが助かったと溜息を洩らしたようである。
「なら何処でなら売却出来るんだ?」
「お急ぎなのですか?」
「いや別に」
俺がハデス・アイアンを売る理由って虫斬ったからだし。
もしアレなら鞄の中で永眠して貰っても構わない。
「でしたら、必要な人間に直接売り渡す方が宜しいのでは無いでしょうか。他店でも適正価格での売却は難しいでしょうから、それが最前かと」
「そうなのか」
「またはオークションでしょうか。出展料は掛かりますが、その精度の剣であるなら買い手も着くでしょう」
ハデス・アイアンは、制作者たる俺が言う事ではないのかもしれないが、美しい剣だ。
刃毀れ一つ無く、鉄製であるのに煌びやかな銀色に輝いてすらある。
武器としての重量を除く機能性は勿論、これはインテリアとしても使えるだろう。
……今住んでる部屋には死っっぬ程似合わないっつーか見合わないけれど。
「分かった」
「……ちなみにそちらは御幾ら位のご予定でしたか?」
「さぁ? そっち系の交渉はする気無かったし」
というかそもそも、俺ってここの武器相場知らないんだよな。
一体幾らくらいだろう、まあピンキリだとは思うが。
「そうでしたか」
「それじゃあ」
「はい、またのおこしをお待ちしております」
社交辞令の挨拶に見送られてギルドを出た俺は、夕飯の買い出しをしてから電車に乗って家へ帰ることにする。
今回はいつも以上にでかい収入もあったし、そろそろ電化製品とかを揃えよう。
最低でも冷蔵庫は必須だし、服も全然足りてない。
特に理由も無いが、ドミニカにお土産も買いたいところだ。
気持ち的には仕事帰り土産片手に帰る新婚サラリーマンだが、プレゼントを贈る相手は子供である。
のど飴なんか買っても喜ばれそうにないし、服も来てない。
シャツと髪留めでも買って行こう。
そうと決まれば、と小町の服屋へ直行した俺を待っていたのはエンゼル無きレディースショップでの超アウェー感だったが、どうにかお目当ての物を買い、小町に見送られて店を出る。
気まずそうに服を選ぶ俺を終始笑いを堪えて見ていた小町には軽い殺意を覚えるが、いい仕事はしているから良しとするしかない。
というかあの店って身嗜みに関するものなら粗方揃うのな。
服だけじゃなくて髪留めもあったや。
……ちなみに、別の店を周るのは面倒という理由で俺の洋服もあそこで買った。
そのせいで時間が掛かり、尚の事視線は痛かった。
そんな訳で、今度は開店と同時等の人が少ない時に訪れることを心に決めながら、今度は食材を買いに行く。
この町での食材購入は、随分と親切である。
作りたい料理の必須食材がセット販売されており、店を周る必要が無いのだ。
無論、それだけで作っても普通の物しか出来上がらない為、自分で更に追加する訳だが、結構な時間短縮には変わりなかった。
ちなみに、そんなサービスが受けられるのは『スーパー』というカテゴリに収まっている店だけで、コンビニなどではそういうのをやっていない。
後やっぱり、スーパーの方が安い。
電気屋にも寄った。
正直、パソコンに引かれもしたが今はまだ駄目だ。
金が無くなるとかそれ以前に電話も持っていないのだ。
ネット接続も出来ないし、パソコンはまた何時かということになる。
そんな訳で買ったのは、当初の目的通り冷蔵庫。
後は洗濯機。コインランドリーを利用しようかとも思ったが、今後の事を考えれば早めに買って置いた方が良いだろうという結論だ。
余り良いものは買わず、一世代前の型落ちの物を買った。
どうにも俺は無駄使いが多いし、節約できるところで節約しなければならない。
家具屋ではタンスを購入。
服しまうところが無いしな。
……まあ正直な話鞄の中に全部突っ込んでも問題無いかなという気持ちも無くは無い。
だが最低限の家具位は手に入れとかないと。
本日の購入明細。
冷蔵庫 ☆1
洗濯機 ☆1
タンス ☆1
シャツ ☆1
髪留め ☆1
洋服一式 ☆1
パスタセット ☆1
ポトフセット ☆1
麻婆豆腐セット ☆1
チンジャオロースセット ☆1
米 ☆1
水 ☆1
肉まん ☆1
洗剤 ☆1
鏡 ☆1
現在所持金212720円
買い物はこんなものか。
……こんだけ買ってまだ必要な物あるとか。
こりゃあの部屋でるのにもまだまだ時間が掛かりそうだな。
…………土地さえあれば家は何とかなる気がすんだよな。
結構大規模なことをすることにはなるが、武器と同様に家だって物質圧縮・変形を利用すれば造れない事も無い。
俺には何と無くだが帰るべき家のイメージがある。
それを元に家を造りたいんだがな。
取り敢えず、今度ゴンザレス辺りにでも土地の相場を聞こうと思いつつ、俺は帰りの電車に揺られ、西区にある部屋へと向かうのだった。
ドミニカの声は、家の近くへ来ると歌として聞こえてくる。
俺はやはりその歌に聞き覚えがあるような気になりつつ玄関の扉を開ける。
ドミニカは俺が帰ってくると今迄唄っていた歌を中断し、『おかえりの歌』を唄いだす。
それは嬉しいことなんだろうが、わざわざ歌を中断させなくても、なんて考える俺がいる。
「ドミニカ、土産があったりするんだが」
「~~♪ ~~~♪」
ドミニカは唄う事を決して止めないが、此方を見ながらに首を傾げる。
その美しい顔は俺に『何?』と尋ねているようで、俺は早速買って来た服と髪留めをドミニカに見せる。
「ジャン。ドミニカの服と髪留めだ。俺チョイスだからセンスは求められても困るが」
俺がドミニカ用に買って来たシャツは一枚ではない。
別々のデザインの物を幾つも買ってきていて、俺的にはどれもドミニカに似合うと思うのだが。
……いや、逆にドミニカに合わないシャツの方が少ないか。
「~~~♪」
「えっと……着せて良いってことか?」
シャツを見せると、ドミニカは両腕を上げてバンザイしながらに此方をジッと見つめて来た。
決して歌う事を止めないが、意思疎通には全く問題無いらしい。
俺は一番気に入ったシャツから値札を切り取って、その後ドミニカにシャツを着せる。
下は魚であるが為にどうしようもない……いや、スカート位なら履けないこともないだろうか。
まあそれはさて置いて、シャツを着せた後は髪留めだ。
ドミニカのサラサラな髪を撫でながら、髪留めを着ける。
そんな着せ替え人形紛いの着替えを済ませたドミニカは手で自分の恰好の変化を確かめているようだった。
俺は若干笑みが乗っかった顔をしているドミニカに鏡を刺し出し、自分の姿を確認させる。
「~~♪ ~~~~♪!」
そのお蔭か更にテンションの上がったドミニカの唄うボリュームは1.5倍位大きくなった。
その後俺は、購入した家具等を部屋の中へ設置し、元々狭い家が更に狭くなったと苦笑しながらも料理へ移行。疲労困憊だった為に飯を食べた後は歯を磨く間もなく布団に倒れこみ、泥のように眠りに着いたのだった。
ちなみに、夕食のパスタはドミニカも一口手を付けた。




