022 剣圧と異形
2014/8/03 加筆しました。ストーリに変化は有りません。
ダンジョン入口。
「おはようマリー。愛してるよ」
「おはよう、私もなんだよ」
出会い頭の小粋なジョークに対し、笑いながらに答えることの出来るマリーに正直運命を感じずにはいられない。
一緒に漫才師目指そうって言ったらどんな反応をするだろうか。ただ、もし目指すなら『チャラいなこいつ』なんていう冷たいツッコミでもよかったんじゃないか? 漫才道には数多の路線があるんだからこの程度のやり取りで満足していたはいけないのかもしれない。
しかし、この時間帯にまだここで屯う連中が居るとは意外である。
そういえば始めて来た時もこの辺りはそこそこ賑わっていたが、皆ダンジョン攻略へ向かう気が無いのか?
「そういえばその鎧って仕事着なのか?」
「ココの制服なんだよ。改造しても良いことになってるんだけど……」
「けど?」
「私、不器用なの。他の子が羨ましくて一度挑戦したんだけど、一着駄目にしたんだよ」
つまり衣服の改造なんて出来ないって訳か。
いやそもそも、制服改造容認ってどんな職場なんだろう……それは最早自由服で良いのではないか? と普通に思ってしまう程本末転倒ではなかろうか。
だが正直、マリーの着ている鎧は格好良いとも格好悪いとも言えない、要はパッとしないのだ。改造して良いと言われれば改造したくなる気持ちは十分過ぎる程伝わってくるほどに。
うーん。
「じゃあ今度俺がやってやるよ」
「ホント?」
「あぁ、任せとけ」
記憶も無いくせに何安請け合いを……と思う奴もいるだろう。
安心しろ、なんか服飾系のことは出来る気がする。
「ありがとう。だいすきだよ、久遠」
「俺もだ」
……何かホームドラマみたいだな。
「「これでいってきますのチューとかしたら完全にホームドラマだ(なんだよ)」」
ナチュラルに同じことを考えていた。
無論そこから笑いは生まれたのだけれど、周囲の目が痛くなって来たので雑談はそこで終了となった。
そして、第三層へ入った俺はハデス・アイアンを鞄より取り出す。
重さに慣れる為、ダンジョン内では持ち歩くべきだと思った結果だ。
……例え、引き摺ったとしても。
俺は歩く度にダンジョンの床を傷付けながらに進んでいる。
千壌土 久遠 19歳
職業:魔王 Lv11
職業は、レベルの低い魔王にしておいた。
聖剣や魔剣のレベルが勇者や魔王のレベルに連動していることはこれまでの傾向を見ていれば十分すぎる程に分かる。
独立している可能性もまあ無くは無いが、それはこれから分かるだろう。
取り敢えず、相手の平均レベルが高くなっている中で未だ十台であるのは拙い。
ついでに魔王のレベル上げもしておこうという腹だ。
二頭追う者は二頭を得ずというが、この場合は一石二鳥が正しいと思う。
……しかし、正直言ってハデス・アイアンは重すぎる。
コレを長時間扱うのは辛いだろう。
キャタピラーLv26
とか考えていたらこんな時に限って魔物は結構簡単に出たりするんだから腹が立つ。
まあ、行くぞ。
俺は勢いをつけることで剣を振り上げ、そのままキャタピラーへ向けて振り下す。
ブチャッ。
蒔き散る肉片、飛び散る緑血、気色悪い擬音に着いて来たオマケが周囲へ飛び散るのは物理法則的に当然だった。
キャタピラーは一撃で屠る事が叶わず、それ故に砕け散る事もなかった為に飛び散った肉片は円を描くように周囲へ蒔き散って、当然近くに居た俺にもその余波が降りかかる。
それは、この剣を持っていなくとも防ぎようが無かっただろう量だった。
ベチャリと顔に何かが付着した感触。
そしてそれがウニョリと動いた感触が全身に走った瞬間、俺の目の前は真っ白になる。
重すぎる剣をジャイアントスイングよろしくな感じに振り回し、壁に飛んだ肉片を壁ごと抉り取ることでダメージを与えていくと言う常識では有り得ない状態に陥る。
そして、漸くゲージがゼロとなったところで俺は正気を取り戻す。
ドロップアイテムは無しか。
……肉体的にも精神的にも一気に体力を持っていかれた感じである。
俺は乱れた息を正常へ戻す努力をしながら、先へ進む。
ところで、虫というものは沢山居る事と相場が決まっているとは思わないだろうか。
黒光りのGなどは、一匹見たら一億匹居ると考えて周囲を焦土と化せと言う程だ。
それはその脆弱な体で自分より強い相手に対抗する為のものであり、弱者の知恵だ。
それが悪いことであるとは言えない。
むしろ賢い選択だと褒め称えなければならないだろう。
しかし、しかしだ。
キャタピラーLv25
キャタピラーLv27
キャタピラーLv26
キャタピラーLv25
テメェらはでかいだろうが!
先程、キャタピラーと簡単に遭遇したのは俺の運が悪かったからではない。
それはとても単純な話で、第三層に居るこのキャタピラーはゴブリンやコボルトよりも量が多いということだ。
正直、数が増えて更に気持ち悪くなった。
同じ轍は二度踏まない。
俺は剣を構え、そしてキャタピラー共がまだ剣の間合いに入っていない内に力一杯剣を振った。
先程砂浜で見た剣圧。
それは十分すぎる程強大で、攻撃に仕える筈なのだ。
その予想は的中した。
キャタピラー達はその風圧だけでゲージを五分の一程減らし、順当に行けば五回振り回すだけで一掃することが出来る計算だ。
しかも虫だけのその体重は重く無いのかキャタピラー達はいとも簡単に吹き飛び、裏返った。
……気持ち悪っ。
俺は続けて剣を振って行く。
一、二、三、四、五。その全てを全力で振った結果、レベル二十五の二匹は倒れ、レベル二十六、二十七の二匹は微かに持ちこたえていた。
だが六撃目を放つとどちらも倒れ、砕け散る。
キャタピラ ☆1
キャタピラ ☆1
ヴァナルガンドを使わないと、ドロップアイテムもそんなに出ない。
四匹で二個とか効率はよくなさそうである。
まあだけど、剣圧だけで相手を倒せるのは良い。
近づかなくても良いってことだからな。
この階層だけはレベルもお金も横に置いておこう。
そうしなければ主に俺の精神がもたない。
俺はドロップアイテムを回収すると、逸早く階段を見付けるべく、先を急ぐのだった。
ところで、筋力なんてのは一日じゃつかないなんてのはどうしようもない現実であるのだが、日々の積み重ねを裏切らない部位でもある。
どんな人間であっても、体を鍛えることが叶うのなら多かれ少なかれ筋肉をつけることは可能であり、それは障碍者にも言えることだ。
無論、脚が動かない人間であるのなら腕の筋肉が、という意味合いではあるものの、とにかく筋トレは体を裏切らない。
だから、この六〇キロもある剣を持って歩く事も積み重ねて行けば順当に筋肉をつけて行く事へ繋がるだろう。
……ただし、体が壊れなければだが。
ハデス・アイアンを振り回しているとどうにも腕の筋肉が悲鳴をあげているようなのだ。
まあ、当たり前といえば当たり前なのかもしれないが、筋断裂などという結果を招かないとも限らない。
もし間違って片手で振ろうものなら、最低でも脱臼という次元の話だ。
キャタピラーLv25
キャタピラーLv27
取り敢えず、剣を振る速度にスピードが乗り過ぎて止まれない場合は流れに逆らってはいけない。
俺は両手で剣を振り下し、先程と同じ様に剣圧でダメージを与える。
レベル二十五の方は五回で倒せたが、やはりレベル二十七の方は六回の攻撃を必要とする。
キャタピラ ☆1
やはりヴァナルガンドでなければドロップ率がかなり落ちる。
さっきも思ったことだが、金銭的余裕が無いどころか無一文たる俺は一円でも多く稼がねばならない。
……………………あれ? 俺って筋トレとか兼ねてる暇なくね?
ヴァナルガンドで虫斬りたくないとか言ってる場合じゃ無くね?
いや無理だけどね。
マジ無理だけどね。
正直マジ勘弁。虫斬った剣が腕輪になってるとか想像もしたくないわ。
真剣な話、俺それなら餓死選ぶわ。
昨日、飲み会の最後ら辺でチラッとゴンザレス達に相談したら笑われてしまったが。
『プースプスプス。お前虫なんて怖いの? ワロスッ!』
とかほざいた次の瞬間には良い値段したドンペリをボトルで頼んたけど。
ラッパ飲みしてやったぜ
……早くここを抜け出さないと、俺が餓死する日も近い。
第四層の敵が虫でないことを心の底から祈る訳だが、多分大丈夫だろ。
第一層はゴブリン、第二層はコボルトだった訳だし。
そして俺がハデス・アイアンの重さに負けたのはそれから二時間経ったか立ってないかという頃の事だった。
その間、何故か一度もキャタピラーに遭遇することが出来ずに歩き倒しだった訳だが、それが逆に仇となった。
重い物持ってただ永遠と歩き続ける作業というのは酷く退屈で、それが疲労に繋がったのだと思われる。
俺はハデス・アイアンを鞄へ仕舞うと、ステータスを確認する。
千壌土 久遠 19歳
職業:魔王 Lv14
……レベルが全っ然上がってない。
アロンダイトの経験値二倍が無いとここまで差が出るものなのか。
相手のレベルは十レベル以上差があるっていうのに三しか上がってないとか。
まあ、今それは良いだろう。
それよりもこれからどうするべきか考えるべきであるのは今現在手に武器が収まっていない時点で明らかな訳だが。
……あ。
そういえば俺は聖剣の他にもリットゥという武器を持っているではないか。
その形は短剣であれども、魔力を込めれば炎を生み出すコレは虫に対しても有効だ。
黒剣リットゥ ☆7
スキル 炎生成 炎操作 炎強化 魔装
リットゥを手に取ってみて思い出したのだが、そういえば『魔装』って何だろう。
見た感じ魔力を使う感じだが、俺は使ったことがないらしくどういうものか分かっていない。
使用方法は……不明か? 『装』ってことは何かしらの物を纏うものであるのだろうが。
不確定要素は多い、もしかしたら使ったことがないのは使ってはいけないからかもしれないのだ、だから深く知ろうとはしなかったしする必要も無かったから記憶に掠りもしていないのではないか。
黒剣リットゥは俺の持ち物であるが、俺の知る物ではない、それどころかこれが何なのか全く知らない未知の道具だ、例え使い方が分かっていてもやるべきではないんじゃないか?
別にただ燃やすだけなら問題ない様子だった、それはあの男を燃やした時に確認している。
しかしながら、コレが生み出した炎が異形であったことは明らかなのだ。
あんな……燃やすモノを選べる炎なんて、あり得る筈はないだろう。
何と無く、あり得る気がしていたが、本来はそんなこと無い筈なのだ。
────いや、逆に考えるとあり得ない道具だからこそソレを掌握する必要があるのではないか、もしもの時に命を預けられない武器程無意味な凶器は存在しない。
比較的脅威レベルの低いこの場で実験しておくことが今後に繋がる可能性は否定できない。
ただ炎を出すだけに用いるのはもうやった、ならば『魔装』とやらも試して置くのが良いんだろうな……。
俺は一度目を閉じ覚悟を決める、やると決めたなら即実行すべきだ。
幸いにして周囲に人の気配は無いしもしもの時に被害を被るのは俺とモンスターと、後はこのダンジョン位のものだ、もし巻き込まれる者が居たらもうご愁傷様としか言いようがない。
まあこの道具一つで世界が滅ぶなんて事態は無いだろう、精々一帯が火の海になるのが関の山か。
さて使うのは良いが次は使い方か、どう使うんだ? 普通に唱えるだけで良いのか?
「────【魔装】」
試しのつもりだった、まさかこんな単純なキーワードで容易に発現するものだとは思わなかったからだ、最低でも魔力を注ぐとか、何らかの魔法的干渉が必要であると踏んでいた。
だからどうせこの場で使うことは叶わないだろうと思っていた、俺にそんなことをする技能は備わっていないからだ。エンゼルにでも魔法の使い方を聞いてからやることになるんだろうなと、心の何処かで危険性のあるこの実験を先延ばしにしていた。
しかし、それは何もいらなかった。
俺の干渉をまるで必要としていない、言葉として発すれば贄を求めもしなかった。
いや、贄は既に徴収されているのか。
俺の身体は。
黒剣から、人一人焼く位容易な業炎が噴き出した、ただひたすらに真っ赤な炎だった。炎は腕を焼いた、腕から肩へ、そこから一気に全身に炎が広がったのは反射で目を閉じる間もない一瞬のことだった。
「ガッ……アァ!?」
人の身体なぞ、一瞬にして炭になるような高温が口を開いた瞬間にその喉を焼いた。
何時までも無くならない視界は視野だけがどんどん狭くなっている様に感じる。
全身が炎に焼かれ、今迄に感じた事のないような熱が全身を襲っている。
やるべきじゃなかった。
そう、自分の行動を悔いるのには十分過ぎる痛みが全身を巡る。
【ア゛ァ………ァァァァ゛ァァア゛アアア゛アア!!】
悲鳴にも似た何十にも重なって聞こえるように発せられる異形の声。
それは何処から声を出しているのか分からなかった、もしも全身を焼く痛みが無かったのなら、そもそもこれは俺か? 俺はこんな声だったか? そんな疑問が頭を過っただろう。
【ア゛……ァ゛マ……祭……ア゛…………】
炎から顔を出したのは【鬼】だった。
三メートルを軽く超える巨体に身にまとうのは、隙間すら見えぬ程黒くその身をも切り裂く刃で造られたような武者鎧。兜の中から顔を出すのは朱い鬼面、その表情から読み取れるのは恨みや辛みから生まれた如何様にもしようのない怨念憎悪の感情。刃から鍔から柄から黒で染め上げられた刀を携えてそこに立っていた。
しかしながら、全身を覆うようにして有る黒い武具は全て、灼熱の炎によって紅く染め上げられその姿は……そう、まるで────。
【ォォ……ォ゛ァアァア゛アァァ────!! …………まつり、マツリ、祭……祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭ィ゛!】
────赤鬼。
本当はその身に纏う鎧と同じ色を持つ黒鬼であろうか。しかしながらそれは関係ない。
何故ならコレを見た者全てがこう思うのだ、『奴は赤鬼だ』と。他者の認識こそが鬼の色を決める、故にコレは紛れもない赤鬼である。
【祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭 祭祭祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭 祭祭 祭 祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭 祭 祭祭 祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭 祭祭祭 祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭 祭祭祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭 祭祭 祭 祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭 祭祭祭祭祭 祭祭 祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭祭 祭祭祭祭 祭 祭祭 祭 祭祭祭祭祭祭────祭ィ゛?】
狂ったように叫ぶのは、『祭』という言葉。
何故『祭』なのか、俺はその答えを知り得なかった、この言葉が『黒剣リットゥ』の根源たる何かなのか。はたまた、ソレとは全く無縁で、その答えは俺の知り得ぬ内意識に関係するものなのか。
【…………祭ィ゛】
二十に聞こえるその声は俺の声色の面影があるのでは? と思ったのはそんな思考の後からだった。
もし口にしている言葉がこの黒剣とは無関係で、今の俺に思い当たることが無いだけで本当は俺の根源たる所にコレが発する言葉が関係するのだとしたら────。
【……楽ジィ祭りの始マりだァぁぁ゛アあ゛あ゛アアぁぁぁ゛ぁぁァあ!!】
────記憶を取り戻す手がかりになるまいか。




