021 武器製造に伴い
次の日。
昨日、ゴンザレスにタカって夕食を済ませ帰宅した俺を待っていたのはドミニカによる作詞作曲『おかえりの歌』だった。
俺という存在が認知されていたことに少なからず驚いた訳なのだけれど、その後もドミニカは唄い続けて俺が布団に潜りこんでからもそれは変わらず、果てには朝になっても歌い続けているドミニカクオリティ。
しかも便利なドミニカアラーム。
曲はまたもドミニカ作詞作曲『おはようの歌』。
NHKを思わせるタイトルでありながら素晴らしきメロディを奏でるドミニカはもう少しネーミングセンスをつけた方が良いと思う。
……いや、俺が勝手に思ってるだけだから実はもっといい名前なのかな。
兎にも角にも手間の掛からないペットで何よりな訳で、欲を言えば夜中も歌い続けるのは止めて欲しいところだけれど贅沢は言うまい。
殺されたくはないしね。
そんな訳で、目覚めは快調。
休暇を終えた今日はすぐにでもダンジョンへ、と行きたかったのだけれど今日はその前にするべきことがあったりする。
敵は北区に有り。
そんな訳で北区へやって来た俺は、真面に砂浜も存在しない海へと足を運んでいた。
俺はここで、『チキチキ! キャタピラー対策大作戦』を実行に移したいと思う。
「……相も変わらず汚い海だな」
この場所のせいで海全体が大変なことになったらどう落とし前をつけて貰おうか。
なんて、今そんなことはどうでも良かったり。
そして俺は物を漁る孤児達に仲間入りした。
ちなみにこれは孤児達と知り合った、というニュアンスから来る言葉では無く、単純に同じ行動を取ったという意味を込めての仲間入りである。
彼らの目は完全に来るものを拒んでいる。
歳の近い子供であったならまだ可能性もあったんだろうけど、十九歳のオッサンじゃ『受け入れ難し!』とか言われても仕方が無いだろう。
その辺は正直どうでも良い。
そんなことよりも、だ。
俺は何とか砂に足をつけることに成功すると、目の前にある二メートル前後の瓦礫に手を翳す。
そして俺はまず、その瓦礫を圧縮、BB弾のサイズまで小さくし、その手に乗せる。
その重さ、次元が違った。
一見BB弾にしか見えないそれは体積からは想像もよらぬ重量感を持ち、とても片手では持っていられる両手で押さえてギリギリのところで持ちこたえる。
……これじゃ駄目だな。
重すぎる。
というかよく持ちこたえられたな俺。
俺は手に多大な重圧を掛けつづける圧縮物質を手放す。
そして次の瞬間、手放された圧縮物質はそのサイズからは考えられない程の轟音と共に、小さなクレーターを作り出した。
……よく持っていられたな俺!
これ圧縮するもの考えないと絶対駄目だ。
自分の筋力で振り回せる範囲の物でないと、意味が無い。
俺は剣を作る為にここへ来たのだから。
アロンダイトやヴァナルガンドがあるのに何故、と思う奴も居るだろう。
しかし思い出して欲しい、相手が巨大芋虫であることを。
なんかぶにょぶにょした、緑色の動く塊であることを。
そんなものを斬った、いや、斬ってしまった武器を俺は今後も使い続けられるだろうか、いや無理だ。反語。
幸いにも魔物からは体液が排出されることが無く、斬っても異色の血が剣に付着することは無いだろう。
しかし、だからといって、聖剣や魔剣でアレを斬ろうとは微塵も思わない。
今後もお世話になるだろう相棒だからこそ、大切に扱っていかねば。
正直、その全てをリットゥで焼き尽くせればと思わなくも無いが、魔力切れを起こした時の対処手段が無いのは辛い。
だからこその剣作り。
昨日のドミニカプライベート空間を作った時に知ったのだが、変形というのは完全なまでの自由自在。
本来は不可能であろう造形も、俺の物質変形なら平然とやってのける。
そんな奇妙な確証がこの久遠にはあった。
本来は鍛冶を必要とするであろう折れ難い鉄の柔軟性を圧縮による鉄の質量変化によって再現するのは容易く、また重さは増えるが頑丈さも兼ね備えることも可能。
正に鍛冶場要らずの一人工房。
材料はその辺のものを使ってやればいいとすれば経費も掛からない。
……というか今の俺に経費は掛けられない!
変わらずの所持金ゼロ、歪みなし。
というか、よく考えたらセメント主体の瓦礫を素材にしても石の剣しか出来ない。
ただ重いだけで、鉄のように鍛えることも叶わない斬ると言うより割るに近いものしか生まれようのない石の剣なんて、石器時代じゃあるまいし普通使わない。
……刃を薄くしたらどんなに圧縮を重ねようとも絶対に折れるだろうし、俺に斧を使えとでも?
…………? 使える気がするな。
というか、巨大なアックスを振り回してキャタピラーを薙ぎ払う構図が容易に想像出来てしまうのだけれど。
……アロンダイトとヴァナルガンドを扱うにしても筋力は必要だ。
今の俺は明らかにそれが不足している。
…………重い武器を使って慣れておくか?
別に剣に固執する必要なんか微塵も無いし、そう考えたらなんかアロンダイトやヴァナルガンド顔負けの装飾が施された煌びやかなアックスを振り回して戦ってみたいという思考が俺の中を廻る。
まあ兎にも角にも今は材料集め。
俺は鉄屑を集めたり瓦礫を変形させて中に入っている鉄を摘出する作業を開始する。
まず俺がしたのは、瓦礫を変形させてその中に入った歪みに歪んだ鉄を取り出すことだった。
まるで粘土から異物を取り出すような感覚で瓦礫を変形させ、元々は接合していたであろう鉄を排出、ゴムボールくらいの大きさまで圧縮し、まだ問題無く持てることを確認すると、別の瓦礫を漁る。
途中、鉄屑などを見付ければそれも変形、合体を繰り返す。
尚、本当に便利なことだが変形に伴って錆の排出も容易に行うことが出来た。
超高純度鉄 ☆2
ただの圧縮物質ではなく問う高純度鉄へと名を変えているが、これは凄い。
不純物の全く含まれないコレは伸縮自在だ。それは一般の鉄を凌駕する。
俺は今からコレで武器を作るのかと思うとテンションが上がってしょうがない。
鉄は圧縮と変形による不純物取り除きにより鍛え直す必要が無くなっている。
変形によって粘土のように捏ね繰り回されシェイクされていることは言わずもかな、どんな武器を作り上げるか楽しみで仕方が無い。
しかも、よく考えたら一つに絞る必要は無かったり。
材料がここに山ほどあるのはさて置いても、俺自身が工具である以上、ダンジョン内ですらその形状を変化させることが可能なのだ。
それだけでなく、この超高純度鉄を鞄に入れて持っておけば武器を増やすことだって出来るだろう。
超便利、物質圧縮・変形。
何故制約らしい制約が存在しないのか、全く分からない能力である。
その後も鉄漁りを続けた結果、俺がギリギリで持つことが可能な重量の超高純度鉄が四個出来上がり、三個を鞄の中へと収め、一個を両手で持っている。
この鞄、重さを遮断する効果も持っているのか、持つこともギリギリだった鉄の塊を難なく飲み込んで行った。
ある意味この鞄が一番実用的かもしれない。
戦う人間なんて極少数なんだし、アロンダイトとこの鞄、どっちが欲しいかと聞かれれば結構分かれることになるだろう。
さて、そろそろ実行に移そうか。
正直、剣を細身にする必要性は全くない。
重さが変わらない為に機動性を特化させることは叶わず、盾替わりにもなろう大剣を作った方が余程便利だったりする。
まあ、風の抵抗とかを考えれば少しは変わるのかもしれないが、一番は大剣を片手で振りまわせるようになることだと思う。
……俺は戦士にしてみれば小柄だ。
そんな俺が片手で大剣を振り回す姿は随分とシュールだろうな。
それらを踏まえて今回は、長剣を作ってみようかと思う。
大剣より風の抵抗が少なく、レイピアより攻撃範囲の広い。
圧縮の度合いも大剣より多いことからかなり丈夫なモノに仕上がるだろう。
デザインは……形に特徴を持たせることにしようか。
グリップと刃を別々に作っていないから炎系の攻撃を受けた時には手が大惨事になる事間違い無しだが相手はキャタピラー、芋虫だ。問題無いだろう。
そんな思考の元俺は、超高純度鉄の変形を開始する。
ちなみに、コレの重さは約六〇キロ位あったりする。
五〇キロでも十分すぎる程辛いのだけれど、六〇キロも持つことが出来てしまったからこれで行こうと考えたのだ。
……正直、アロンダイトとヴァナルガンドが羽かと思える程の重さだ。
コレを振り回せるようになった時、俺は聖剣と魔剣を同時に振り回すことも可能になっているだろう。
それはさて置き、刃だけでなく、グリップも長めに造らねばならない。
その理由は十割思いからというものだが、正直テコの原理が加わってしまうと持てるかも微妙である。
ダンジョンへ潜る他に、特訓とかも必要だろうな。
まあ腕立て伏せするよりコレ振り回してた方がよっぽど筋力つくだろうな。
球体であった超高純度鉄の形状が目に見えて変化して行く。
淡く光りながらにその形状を棒へと変貌させていくそれはこの場所において悪目立ち。
我関せずを決め込んでいた孤児達の目を此方へ向ける結果となっていた。
そして光が収まった時手に収まっていたそれは、鈍い銀色に輝いていた。
錆一つ、傷一つ無いその輝く長剣はここに生まれた。
ハデス・アイアン ☆3
このネーミングは最早廃棄された鉄屑などを利用したからだろうか。……あの鉄、死者扱いか。
一歩間違えばリサイクル・アイアンとかになってそうだ。
さて置き、まさか現在のアロンダイトやヴァナルガンドのレア度を越す剣だ。初っ端からこんなものが造れるとは。
……しかし、おっもい。
鞘を造り忘れてしまったとか、それ以前に鞘を足したら持てなくなりそうだ。
ハデス・アイアン。持つだけで手が震えてしまう。
振ってみた。
結果、風圧で尋常じゃない量の砂が舞い、小さな瓦礫も宙を舞う。
……何、ハデスへ連れて行くって意味でもあんの?
しかも、それだけじゃない。
目の前にあった大きめの瓦礫が真っ二つだ。
薙ぎ払うことを可能とし、尚且つこの切れ味。一撃では刃こぼれもした様子がない。
……肩に刃乗せたら肩無くなるな。マジで。
洒落になっていない。
俺はハデス・アイアンを鞄へ押し込み、不安を感じながらダンジョンの方へ走り出したのだった。




