020 遊戯の王様
「王様ゲェェェェム!」
「オウサマゲノム?」
「何その遺伝子怖い」
俺が性欲測定器をクラッシュしてから約十秒。
クラッシュされたことへのショックから頭を抱えていたゴンザレスが突然訳の分からないことを叫び、俺、Iコフ、Yランドの三人に冷たい目で見られる。
「つーかソレキャバでやるもんじゃなくね? 合コンとかの十八番じゃね?」
「ばかやろぃ! 俺にそんなこと出来ると思ってんのかぃ!」
「黙れよ。そして腐れよ財布」
「今財布って言った? ねぇ、今俺の事財布って言わなかった?」
下郎だな。
いや、財布っつったの俺だけど。
無論、決して、絶っ対に、命は賭けられないけれども、本音ではなく冗談の類である訳なのだけれど、未だゴンザレスの言葉の意味に答えがやってこない事実に俺はどう立ち向かえば良いのだろう。
Q.いったいどうすれば?
A.待てばいいと思うよ。
「で、キャッシュ。何だゲノムって」
「最早面影ゼロだね」
「唯一救なのは二文字合ってるってとこじゃなくわぁ?」
「お前ら分かってて行ってんだろゴラァ!」
いや分からんから尋ねてんだけど……。
自分の知識をあたかも常識であるかのように話すのは止めて欲しい。それは傲慢だ。
閑話休題。
「で、何」
「説明しよう! 王様ゲームとは」
「飲み会などで定番のレクリエーションゲームの一種。ランダムに決まった王様が出した命令を、ランダムに決まった参加者が行う遊び」
「知ってんじゃねぇかあああああああああああああああ!」
「お前、さっきオウサマゲノムって言っただろうが」
「マジで聞き間違いしてたんだ……」
そりゃ王様ゲーム位知ってるわ。バカにしてんのか。
絶叫するゴンザレスに冷たく言い放つ俺と、それを客観的に見て指摘するという出来上がった構図の中、周りに居る女達は完全に蚊帳の外、アウェー状態だった。
仕事ということで完全なる作り笑いを浮かべてはいるものの、何処かつまらなそうである。
ちなみに、ゲーム進行は以下のように行われる。
一、参加者が各自、くじを引く。
二、全参加者の「王様だ~れだ?」などの掛け声にあわせ、王様くじを引いたものが名乗り出る。
三、王様は「○番が○で○○をする」「○番と○番が○○をする」などの「命令」を出す。
四、指名された者は「○番だ~れだ?」の掛け声にあわせ名乗り出て、命令内容を実行する。
五、くじを回収する。
後はコレの繰り返し。
俺的には完全クソゲーなのだけれど、好き好んでやりたがるバカも居ると、書物で知った。
…………けどコレ、俺がやると……。
「あ゛あ! もう始めんぞ!」
ゴンザレスのそんな言葉によって王様ゲームが始まった。
ちなみにクジは割り箸に赤いしるしをつけることで完成、参加メンバーは俺、ゴンザレス、Iコフ、Yランド、キャバ嬢五人というやや女多めのメンバー構成で行われる。
「行くぞ!」
「「「「「「王様だ~れだ」」」」」」
「俺」
「引いてから言え!」
「だから、俺だって」
俺は先に王様宣言した後にクジを引き、赤いしるしを見せる。
「……イカサマか?」
「クジを作った訳でも持っている訳でも無く一番近い位置にあったクジを引いたのにか?」
俺は割り箸を弄びながら、俺にイカサマ疑惑を着せようとするゴンザレスに侮蔑の眼差しを向ける。
「あれ、インチキだよね」
「うんうんそーそー。明らかおかしい時に分かってたし」
………………。
「三番、五番、八番、腕立て伏せ百回。後のメンバーは飲んで待機」
「「「えっ」」」
声を上げたのは、ゴンザレス、Iコフ、Yランドの三兄弟。
俺は先程頼んでおき、今丁度来た料理を口に運ぶ。
俺が撤回する様子が無いのを見た三人は泣く泣く席を立ち、女達が「どうやったの?」とか「どうして分かったの?」とか俺に尋ねてきている最中、腕立て伏せを始めた。
その速度、半端無し。
逸早く終わらせよう。そんな気概が見て取れるその速度と舞う汗は、女達をドン引きさせていた。
「終わったぞ!」
「うっぷ……酒が……」
「シェイク……シェェェェェェェイク!」
「じゃ、次行くぞ」
「「鬼畜!」」
ゴンザレスは全然元気だろ。
そんな訳で、王様ゲームは続く。
「「「「「「王様だ~れ……」」」」」」
「わ た し だ」
「だからはぇーよ!」
普通に俺でした。
その後の展開はダイジェスト版にてお送り致します
二回目。
「一番、二番、七番、腹筋百回」
三回目。
「六番、七番、八番、スクワット百回」
四回目
「三番、六番、八番、背筋百回」
五回目
「二番、四番、五番、ランニング百周。全速力で」
六回……。
「どぉぉぉぉぉぉなってんだぁぁぁぁ!」
「あ、婆ちゃん! 俺も今そこにいくよ」
「ウケケケケケケケ! 苦しいかい? 上腕二頭筋。もっと苛め倒してやろう」
六回目に突入しようという時だった。
三人の体力が限界に達し、ゴンザレスが爆発したのは。
俺はずっと女達と喋りながらに飲み食いしていた訳だが、その姿はカテゴリ的にであるが王様ではなく(ドS的な意味で)女王様だった。
「俺、王様と名のつくゲームで負ける気しないぞ」
「は!?」
「王様ゲームだと、俺以外王様になり得ないとか、そんな感じで」
「オウサマゲノム!?」
「真の王……ここに、有り」
「久遠王国親衛隊体長Yランド、ここに眠る」
そうなのだ。
記憶が無いながらも王様ゲームに身を投じる前から薄々理解していたことだが、俺は王様と名のつくゲームで負けない。
いや、正確に言えば王様の出て来るゲームに負けない。
将棋やチェスも叱り、オセロなら普通に対戦も可能だが、王の出て来るゲームでは手が勝手に動くのだ。
本人からしてみれば自分でやってるのに出来レースを客観的に見ている気分になる為、余計につまらない。
「く、クソ……思わぬ伏兵がいたか……」
「じゃあ久遠は俺らがクジ引いた後、余りを引いてくれない?」
「も、もう王様は沢山やったろ?」
「それは構わないが……」
いやそもそも、俺を入れてやらなければ普通に楽しめるんだぞ?
三人はそれに気付いているのか気付いていないのか、血走った眼のままに六回目の王様ゲームを始めようとしている。
何時の間にやらIコフ、Yランドまでもが王様ゲームに呑み込まれているな。
……恐るべし王様ゲーム。
例え詰まらなくとも苦しくとも精神を支配し半強制的にゲームを持続させるんだな……。
怖過ぎだろ。
「「「「「「王様だ~れだ!」」」」」」
言って、俺以外の全員がクジを引いた後に、俺は残った割り箸を手に取った。
「……王様、なんだけど」
「「「シャラァァァァァァァァァァップ!」」」
恐るべし、オウサマゲノム。
オウサマゲノムの正否はさて置き、ゴンザレスが勝率ゼロパーセントの王様ゲームを止めようと言い出すのにそれほどの時間は掛からなかった。
正確に言うなら六回目の王様ゲームによる罰ゲームを受けた後、つまりは腹筋、腕立て、背筋、ランニングその全てを100回(周)ずつやった後の事だった。
いや、俺鬼畜過ぎるでしょ。
そこは六回目を無かったことにして別の話題に転じるところだったと思う。
まあそれらをやる前のゴンザレスの目にはまだ諦めが見えてはいなかったのだけれど。
……トドメを刺したんですね、わかります。
「…………こんな色気のねー王様ゲーム初めてだ」
「体育会系王様ゲームだったよな」
「お前のせいだろうがぁぁぁ!」
いやだけどな。
俺的にゲームへ色気を求めるのは邪道だと思う訳で。
そんな思想を持つ俺は王様ゲームに見え隠れする建前の中の本音をぶち壊す役目を担っているのではないかと考えた訳なのだよ。
……この場でそうする必要性が皆無であったことは認めるが。
ここはそういうのをする店である訳だし。
ぶっちゃけ俺を呼んだのは失敗だろ。
「そういえばさ」
「ん?」
「ゴンザレスの異能ってどんなの?」
「……こんな場所で手の内晒す馬鹿が何処に居る?」
ゴンザレスの態度に変化があった。
それは酒に酔ったモノでは無く、戦う者の目だ。
「……昨日ナチュラルに他人へ教えた訳だが」
「アホか。……まあ俺のは制約が厳し過ぎて中々使えねーから聞いたって意味ねーよ」
「そうなのか?」
「あぁ。……つーかそういう奴って結構多いぞ。生涯一度も異能を使わず死ぬ奴だって居るし。……死ななきゃつかえねーっつー制約もあったな」
どうやら異能というのは本来便利能力では無いらしい。
エンゼルが殆ど制約の無い事実に驚いていたのはコレが理由か。
「ま、使えるだけマシってもんだ」
「ま、俺らは制約緩いんだけどな」
「ま、制約厳しいのゴンザレスだけなんだけどな」
「ま、俺の異能も制約緩いんだよ」
ま、コレなんてカオス。
「あーうるせーうるせー。俺は異能なんか無くたって強いんだよ」
「でも俺に負けたじゃん」
「あぁー負けてたね」
「アレ凄かったなぁ五十一連コンボ。またやってくれよ」
「お望みとあらば」
「やるな! 俺を殺す気か!」
ノリの悪い……軽いジョークじゃないか。
そしてそんなジョークに伴い軽いジャブを繰り出しているだけの事じゃないか。
ただ拳が風を斬って音を立てているだけじゃないか。
「……しっかし、何でお前強いんだ?」
「?」
「レベル。二十そこそこだろ?」
「ん? あーっと……」
千壌土久遠 19歳
職業:勇者 Lv27
「二十七!」
「……俺、六十二」
「マジでか!?」
俺、レベルに二倍以上差のある相手に勝利収めてんじゃん。
あの時は確か、体が朱く光って……それから何か異様なまでに体がハイスペックな動きを見せてくれたからあんな少しのダメージしか与えることの出来なかったゴンザレスを倒すことが出来たんだったか。
……あの光って何だったんだ?
「お前、倫理クラッシャーかよ」
「違う。財布クラッシャーだ」
「ハァ? 財布クラッシュって……………………おい」
「何だ?」
「お前それ……いや、ちょ、お前そっ……お前ソレェェェェェェ! 何皿目ぇぇぇぇ!?」
気が付けばテーブルの上には空の皿や瓶。
皿の上に乗っていたであろう食べ物は何処へやら、山積みの皿のその全てには食べ残し一つ存在しなかった。
酒瓶もまた、床に溢れかえって足の踏み場も無い。
強いて言うなら俺の周りに居る女がギリギリ足を床における程度か。
「……ゴンザレス」
「何だよ!?」
俺はIコフとYランドに目配せし、「いっせーの」という掛け声と共に叫ぶ。
「「「ごちそうさまでした!」」」
「ふざけんなぁ! 横二人は金払ぇ!」
俺は良いんですか? ゴンザレスさんや。
一番の金食い虫であっただろう俺をスルーしてIコフとYランドを標的にする辺り、無一文の俺を助けてくれようとしているのだろうことは伝わって来る。
感謝。
ありがとうとしか言いようのない現状である。
ちなみに、そのお値段はゆうに二十万を超えたと言う。
……俺がここで稼いだ金額より大きくないか?




