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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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019 創作活動と酒場

 さて、ぶつかりし巨大な壁にどう立ち向かうか考えねばなるまいて。

 Iコフ、Yランドによる協力の元、部屋の前まで持ってくることが叶ったまでは良かった。

 しかし現在、ドミニカの入った金魚鉢は今にも壊れそうな手摺と壁で微妙なバランスを保っている状態で、一歩間違うと地上へ真っ逆さまなんてのもあり得る。

 そしてそれは、時間経過と共に可能性を跳ね上げていくと言うカウントダウン式死亡フラグ。


 先程から、錆びて赤くなった手摺が金魚鉢の重さに負けてギシギシと音を立てながら歪み始めている。

 そんな中でも変わらず歌っているらしいドミニカの根性は凄いと思う。


 閑話休題。


 こんな時にどうすれば良いか。

 答えは簡単だ! 異能の出番だ。


 俺の異能たる『物質圧縮・変形』を駆使し、この場を切り抜けるのだ。


 まず宣言しておくが、圧縮はしない。

 その理由は中に入っている水があふれ出してしまうからで、水も圧縮すればそんなことにはならないのかもしれないが、そうするとドミニカが水圧に押し潰される可能性が高い。

 何処の世界に金魚鉢内で水圧死する魚が居るんだよ。



『世界初! 人魚、金魚鉢の中で圧死!? 原因は水圧によるものらしいが……。』



 なんて煽りになるだろうなー……。

 やらんぞ。何が悲しくてそんなむごいことをしなきゃいけないんだ。

 それに恐らく水の場合は圧縮しても異能の発動を止めた瞬間に元の量に戻ってしまうだろ。


 ……下手すりゃ爆発してガラス飛び散るぞ。


 そんなのはごめんだ。

 だから俺はとても特殊な方法でコイツを中に居れる。


 俺は物質変形を金魚鉢に発動させる。

 すると金魚鉢は中の水も際立ってスライムを思わせる動きを見せ、扉の幅に合わせた柔軟な体使いで中へと入り、俺が卓袱台を隅に置いたところで部屋の中心まで持って来たそれを、元の形状へと戻す。

 ビジュアル的には、超巨大スライムが体を伸ばして部屋の中に入って行ったという感じで誰かに見られて居たら討伐対象になっていたかもしれない絵面だった。


 これは異能発動中に起こる浮遊現象を利用し、俺が体を移動することによって物質も移動する際、ぶつかりそうな部分を変形させたことによって成し遂げた技だった。

 異能は魔力を使わないが、慣れていないと疲労する。

 そんなことを身を持って味わい知った俺だが、無論これだけでは終わらない。



「……さて」


 次の作業に移ろう。

 まさかこんな大きなものをそのままにしておくわけにもいかない。

 ナチュラルに日常生活に支障を来すから。これだと布団を敷く場所も無いんだ。

 ゴンザレス達との約束もあるのだし、こんなことは早々に終わらせたい。


 

 ……まず大前提として、金魚鉢っつー概念はぶっ壊すよな。

 何で金魚鉢に入ってるのかは知らないが、防音性が強すぎて声が全く聞こえず、これじゃあ歌を聞く事も叶わない。

 そんな訳で、圧縮と変形を利用してドミニカの舞台を作ってみよう。


 どうやら脳筋の癖に美的センスだけは人一倍あるようで、この美しい人魚に似合うであろうガラスのデザインが湯水が如く溢れ出てくる。


 まあ場所が場所だけにデザインは限られてくるんだけどな。

 俺は圧縮と変形を使い、何時も朝日を部屋へと届ける窓の前、狭い部屋の壁から壁までを使ってドミニカの座るガラスの椅子と、水面を作り出すガラスの床を作り出した。


 ドミニカは制作段階から既に椅子へと腰掛けていた。

 尾びれを水に浸け、窓の外を眺めながらにその綺麗な声を見せびらかしているのだ。


 その声は、初めて聴いた気がしなかった。

 何処となく懐かしいのに何故そう思うのか分からない自分に腹が立つ。


 そして、これだけは言える。

 俺の知っている歌は全て、彼女によるものだと。


 ドミニカが今唄っている歌に聞き覚えがあった。

 そして気が付くと俺もその歌に釣られるようにして唄っていた。

 ────その行為はなんだかとても、懐かしかった。










 ゴンザレス達との約束の酒場は、南区にあるキャバクラだった。

 その店を見た瞬間に『オイオイ……』とも思ったが場所が南区であった時点で何と無く予想出来ていた為、俺は何の躊躇も無く中へと入る。

 そして、店員の案内を断るとゴンザレス達を探し、見付けたは良いがなにやら人だかりが出来ていた。


 正直、その中へ入るのには抵抗があったし帰りたくもなったが、異様なまでに義理堅い思考のせいでそんな訳にも行かず、知らない内に足が動いて其方側へと近づいていた。



「私は五十六かぁ」


「次は私!」


「順番だ順番! ……お、来たか」


 近づいた俺に気が付いたゴンザレスが言う。

 そしてゴンザレスが物で女を釣っていることはその場の雰囲気で理解することが出来た。


「何してんの? つーか呼び出し場所にキャバクラチョイスってアホなの?」


「フッ。違うな、間違っているぞ。……ゴンザレスがキモいだけだ」


「ここ高けー……オイラァふつーの店で美味い酒飲みたい系だわ。ドンペリとかアルコール高すぎだし」


 Iコフ、Yランド、共に色欲より食欲。

 ゴンザレスだけ色欲が勝っているようだが、それなら普通の店で飯食って風俗でも何でも行きゃあ良いのにわざわざこんな所で酒飲むとか……。


「つーか俺金ねーんだけど。正真正銘所持金ゼロ」


「大丈夫。全てゴンザレスが奢るから」


「うん、ゴンザレスが」


「テメェら喧嘩売ってんだろ。……奢ってやっても良いが、空気壊すなよ」


 マジか。

 俺はやたらめったら触ってくる女に手を引かれてソファに座る。

 そして食べ物の注文をした後、テーブルに乗っている物に手を付けながらゴンザレスに尋ねる。


「で、何してたんだ?」


「ん? おぉコレだよコレ」


 そう言ったゴンザレスの手に収まっているのは拳銃のような形をした機械。


「これ、性欲測定器つって、そいつの性欲を数値化する機械」


「……数値化する意味は?」


「ムッツリを探し当てることが出来る」


 そっとしておいてやれよ……。

 というか、随分下らないことで盛り上がってたんだな。


「お前もやってみるか?」


「は? んー……分かった」


 ゴンザレスは女達と無駄に楽しそうに話をしながら俺に性欲測定器とやらを手渡してきて、俺はそれを胡散臭げに見る。



 性欲測定器 ☆2



 ……え、マジモンなの? レア度が一じゃなくニってところがそれっぽいんだけど。

 てっきりおふざけの物かと思いきや、本気で測定するものらしい。


「ちなみに人間の平均は六十以上だぞ。亜人とかだと発情期以外の時は三十位なんだと」


 ……亜人って何だ。

 まあ今それは良いか。


「どう使うんだ?」


「身体の何処かに当てて引き金を引く」


 使い方は完全に拳銃だな……本当に拳銃だったら自殺行為か。

 兎に角、俺は注射でも打つかのように腕に当て、引き金を引く。




 アナタの性欲:0

 備考:草食系ではなく草そのもの。




 草て。

 ゼロってどういうことやねん!


「……これ壊れてる」


「ゼロってお前……子孫の残す気ねーの?」


「もう一回やる」


「そんな直ぐに変わんないって」


「五月蠅い」


 何で平均六十らしい人間たる俺の性欲がゼロなんだよ、おかしいだろ。

 しかも今俺の周りにはこんなにも雌……もとい女が居るっていうのに全く欲情してないとか枯れ果てた老人か。

 年齢的に思春期真っ盛りだろうが。


 そんな訳でもう一度。



 アナタの性欲:-10

 備考:最早生物では無い。



「…………」


「…………」


「……マイナスって、あったんだな」


「もっかい!」


 最早意地だった。

 いやマイナスて。何処をどうやったらマイナスになるんだよ。




 アナタの性欲:-20

 備考:むしろ岩。



 もっかい!



 アナタの性欲:-30

 備考:諦めなって。



 アナタの性欲:-40

 備考:どうせかわりゃしないんだから。



 アナタの性欲:-50

 備考:むしろ減少するかもよ



 アナタの性欲-60

 備考;必死さが滲み手出る。もう止めときなって。



 アナタの性欲-70

 備考:ほらまた下がった。



 アナタの性欲-80

 備考:欲情するものに触れたら少しは変わるかもよ



 アナタの性欲-90

 備考:ちなみに僧でも40はあるよ。



 アナタの性欲-100

 備考:────本当に生物?




「ふんっぬらばぁぁぁぁ!」


 気付くと俺は、性欲測定機とやらを砕いていました。


「ああ゛あ゛あああ゛ああ! 測定器がぁ!」


 ゴンザレスの絶叫が響き渡るが、横で結果を見ていたIコフは苦笑、Yランドは笑いを堪えてソファに顔を埋めていた。

 クソが……俺にだって性欲位有る筈なんだ!



 その後俺は、自棄になってゴンザレスの金で酒を飲みまくった。

 キャバ嬢ともそれなりに話したが、どうせ俺も食い気の方が勝っている。


 俺はゴンザレスを破産させる勢いで飲み食いし、酔えない自分に嫌気を覚えながらも気を紛らわせ、家に帰ったのはもうすぐ太陽が昇るといった位の時間だった。


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