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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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018 和解と丸秘人魚

 代金の支払いは裏で行われることとなり、俺は職員に連れられて代金支払いへと転じていた。

 俺が有り金全てを渡すと荷車に乗せられた金魚鉢が此方へと引き渡される。

 その中に居るのは人魚。ドミニカとかいう人魚だった。


「水槽は服の代わりとなる付属品になります」


 服の代わりが水槽って……でかすぎるぞこの金魚鉢。

 


「服、着てないのか」


「えぇ、胸を隠している貝は元々くっ付いていたものですし」


 ドミニカの下半身が尾びれであることは言うまでもないが、服を身に纏わぬ上半身の胸部分を隠す役割を担っている貝はどうやら人魚の特性に近いものらしかった。

 しかし、近くで見てみると人魚ってのは本当に美人だな。

 水中でも髪にボリュームがあるところをみると、髪の量が多いんだろうが、女にしては短くしてあるんだな。


「人魚って何食べるの?」


「基本は水だけです。排泄もしませんし、漬かった水を浄化する能力もあるようなので、水槽の水を取り換える必要も餌を与える必要もありません」


「べ、便利な生き物だな……」


「その代わり、陸上歩行が出来ませんから。二股になる場合もあると聞きますが、その辺は都市伝説に近いものとなっております」


 というか、物凄く親切だなこの人。

 オークションでの支払なんて流れ作業だろ。

 ましてやこれから死ぬかもしれない人間に対して行っているなら尚の事。


「ただ、人魚の肉を食べると不老不死になるというのだけは完全に偽りであると立証されております」


「へー……いや、食べないよ!? 俺にカニバリズムなんて無いからな」


 例え不老不死になれるとしても、ドミニカを食べなきゃいけないなら要らんわ。

 ……というか何故水槽の外に声が漏れないんだ?


「一応注意しておかないと、食べようとする方がいらっしゃいましたので」


「……いたのか」


「えぇ、食べようとした豚が一匹。無論、コレに殺されましたが」


「うわぁ……想像できる」


 というかこの人何なんだ? 親切なのかと思いきや元客の事を豚呼ばわりしてるし。

 まあ知らない豚がどう侮辱されようが俺の知った事では無いが、それでも俺に対する丁寧な対応からは思いもよらない発言だ。


「見たところまだ若いようですが、貴方はコレをどのように扱うおつもりで?」


「ど、どのように?」


「逃がそう、などとは考えない方が宜しいかと。周辺の海は生物の住めるような水質では無く、例え浄化能力を持つ人魚度いえども例外ではありません」


「何そのキャッチ&リリースの精神。何処の世界に全財産はたいて奴隷解放する奴がいる?」


「では、どのように?」


「どのようにってそりゃあお前………………………………音楽プレイヤー?」


 見た感じずっと歌ってたいんだろ?

 ならずっと歌ってて良いよ。歌えれば場所なんてどこでも良いならな。


「……成程」


「いや完全に思い付きなんだけどさ。……気付いたら入札してたから」


「ちなみに、命の危険が伴うだけでなく、唄いつづけるばかりで泳ぎ回らない為観賞にも向かず、当然のことながら性向の強要は死を意味する。奴隷最低価格からのスタート理由はコレらとなっておりますが……自身の容姿に自信があってもコレとの性向はおすすめしかねます」


「いやしねぇよ。何処の世界に音楽プレイヤーと交尾したがる生物が存在すんだよ」


 人の話、全く聞いてないな。

 いやまあドミニカが音楽プレイヤーでないこと位俺にでも分かっている。

 だが、しかしだぞ? よくよく考えたら年頃の男が奴隷の女買うだなんて不健全なことこの上ないじゃないか。


 そんなのはお兄さん許さない。問屋が下さないんだよ。


 でももう買っちゃった。

 ならどうするか。相手を女としてみなければいいんだよ。


「は、はぁ」


 生返事が返ってきた。

 俺の考えを理解して貰おうなんて微塵も考えてないからコイツがどう思って居ようとどうでも良い。


「そういえば、人魚って水の外でも活動できるのか?」


「可能です。ただそうした場合定期的な水分補給が必要となって来ます」


「ふぅん。完全にご飯って食えないの? 食わないだけ?」


「人間でいう酒や煙草と同じ分類となりますが、食べる分には食べることが可能です。ただ、排泄することなく全てを吸収するので太る要因になります」


 成程ね、本来不純物として排出される筈のものまで栄養として吸収しちまう訳か。

 しかも本来必要としないエネルギーを。

 ……そりゃ太るわ。



「質問は以上ですか?」



「んー…………多分」


「それでは、またのご来店お待ちしております」


「あぁ」


 絶対当分先だろうけど。

 だがしかし、必要になれば向う見ずな購入をしてしまうことだろう。また!


 巨大金魚鉢の乗った荷車を押して外に出た俺は、自宅に向かって歩き始める。

 ……超重い。荷車無かったら終わってるぞコレ。


 そんなことを思いつつ性欲に溢れた町を歩く俺だが、水槽を押して歩く様はとても目立つ。

 例外なく周囲の視線を集め、結構恥ずかしい。

 天上天下唯我独尊。周りなんてカンケ―無し! 俺が何しようが俺の勝手! なんていう思考をしてたら楽なんだろうが、人はそれを自己中心的という。


 こんな時に知り合いでも居たら手伝って貰えるんだろうが、生憎とそんな奴……。


「げ! お前は!」


「……? あ、ゴンザレスとその他二人だ」


 居た。一応知り合いは居た。

 昨日、マリーとの食事を妨害して来たゴンザレスと、その後処理を担当してくれた二人である。

 三人は軽トラに乗っていて、態々俺の前で止まってリアクションを見せている時点でゴンザレスのこのリアクションはおかしいと思う。

 それだとたまたま知人に会って雑談はしないまでも挨拶位躱そうって感じだぞ。


「だれがゴンザレスだ!」


「その他Aこと俺はIコフって言うんだぜ」


「その他Bの俺はYランド」


「俺は千壌土久遠。独身だ」


 この歳で結婚してる方が珍しいかもしれないけどな。

 ……ちなみに、ギャグだぞ?


「あん? 女なら紹介しねーぞ」


「いらないわー」


「空気読めよなーゴンザレス」


「久遠が女に困ってる訳ねーだろー。明らか選びたい放題な顔してるだろー」


 まさかの援護射撃である。

 ゴンザレス滅多打ち。

 いや、俺はただゴンザレスの下劣な解釈に侮蔑を込めた否定の言葉を述べただけだというのに、ゴンザレスの仲間である筈の二人が俺の言葉に上乗せしてゴンザレスを罵倒しているからどちらかというと便乗したというのが正しいか。



「大体女に困ってるのは自分だよね」


「そーそー。仕事帰りに風俗直行の時点でそうだよ。付き合わされる方の身にもなれよ」


「不細工なんだから仕方ないけど」


「足臭いから仕方ないけど」


「ホクロキモいから仕方ないけど」


「短足だから仕方が無いけど」


「というかゴンザレスの良いとこってその強そうな名前と運転免許持ってるだけじゃね?」


「今時未成年でも得られるスキルだねぇ」


「要はゴミ」


「要はカス」


「お前ら俺の事そういう認識してたのか! 後、ゴンザレスじゃねぇ!」



「「……えっ、じゃあ存在意義運転免許オンリー? うわぁ……」」


「仲良いなお前ら」


 俺を放置してやむ事の無いマジンガン罵倒がゴンザレスを集中砲火するその様子は、悪意が籠っていれば単なる嫌な奴らだったが、信頼の上に成り立った属に言う馴れ合いであろうそれは三人の付き合いの長さが窺える。



「……つーかお前、それどうしたんだよ」


 Iコフ、Yランド双方による罵倒が漸く小休止に入った時、ゴンザレスが煙草を吹かしながらに言う。

 俺がゴンザレスに、何故か自分でも分からない内に買ってしまった人魚の奴隷の事を話すと、途中から話を聞いていたであろうIコフ、Yランドが何やらゴンザレスに耳打ちをする。


 ついでに条件反射で全財産を提示してしまったことまで話したのは笑い話にする為だったのだが、三人は笑えてない様子だった。

 いや、まあ全財産失っちゃいました~(笑)で済ませられる奴とかそういないだろうしな。


 ……ここにいるけどさ。



「つまりお前はこれから家に帰るのか?」


「まあな。家は西区だからそう遠くは無いだろ」


「いやこっからだと結構あるよ? とてもじゃないけどそんな大荷物抱えてたどり着けないよ?」


「盗賊、追剥、スリ。西区何でもござれだし」


「そんな危ないところだったのか……」



 俺、そこに住んでんだけど。

 取り敢えず、家に盗むようなものは何一つないが、戸締りはしっかりしようと思った。

 しかし、盗賊ね。


 ドミニカは一見人を魅了する美貌を持った人魚だ。

 ナチュラルに狙いの的にされること間違い無しだろうな……。

 一応、アロンダイトで戦う準備をしておいた方が良いのだろうな。


 ……それで何とかなるかどうかは別だが。



「…………乗れ」


「ん?」



 今後の事を考える俺の耳に、ゴンザレスの言葉が入る。


「軽トラの荷台にソレと一緒に乗れって言ったんだ。送ってやる」


「本当か? ……しかし、どうしてだ?」


「……早くしろ」


 Iコフ、Yランドが車内より出てきて、二人同時に金魚鉢を持ち上げる。

 そして何の問題もなさげに荷台へと金魚鉢を置いた二人の次なるターゲットは俺だった。

 訳も分からぬまま、何故かYランドに持ち上げられ荷台へと乗せられる。


「それ抑えとけよ~? じゃないと地獄絵図だぞ」


「家ってどの辺? やっぱボロい家に住んでんの?」


 俺が自宅への道のりを二人へ説明すると二人が「あぁ成程ね」と納得する間も無く軽トラは発進し、途中風の匂いを灰一杯に吸い込む。

 そして流れる景色と共に三人の下らない会話に耳を傾けているうちに、すぐ家へと辿り着いてしまった、


「ありがとう、助かった」


「……フン」


「久遠って酒呑める人? もしそうなら後で一緒に呑み行かない?」


「良い店知ってるよ」


「構わないぞ、何処で待ち合わせる?」


「んー? そうだなー」


 なんて、何時の間にやら和解し、一緒に飲みに行く約束までした俺は今度、金魚鉢を自分の部屋まで持っていく作業を開始することになった。

 結局は一人の力で大きな金魚鉢一杯に入った水の重みを持ち上げること叶わず、まだ去る前だった二人に手伝って貰う事でようやく、部屋の前まで辿り着くことに成功したのだった。



 ……金魚鉢の体積がでか過ぎて中に入れないけどなぁぁ!

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