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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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017 休暇で無一文

 次の日、今日俺はダンジョンへは潜らず、街の中を探索することを目的として町中を歩き回っている。

 建造物の歴史が異様なまでにアンバランスなこの町は一キロ歩いただけで別の国では無いかと思わされる程の変化があり、それに伴ってやってる店のカテゴリも変わって来ていた。


 俺の住むボロアパートが西区なのだとすれば、ビルの建ち並ぶ都会の雰囲気漂うところが中央区で、風俗やキャバクラといった下衆な店の建ち並ぶのは南区。西区の治安が悪いのは若干南区のそう言う空気が流れてきているからっぽい。東区はダンジョンやそれに因んだ武器屋や組合等が並ぶ。そして北区が、今は廃墟と化しているホームレスや孤児の巣窟。


 俺の住む西区から、ダンジョンのある東区への道のりは結構遠い。

 朝の準備体操はその間のランニングといっても過言では無いだろう。


 今日回っていて知ったのだが、どうやら電車も通っているらしい。

 ただ、それに乗ってもせいぜい一時間短縮出来る程度か。


 ……あれ、俺電車乗るべきじゃね?

 明らかに走っている距離が長いことに気が付いた俺は駅で定期を三か月分購入。

 学生割が如く迷宮割なんてのがあって、定期はお得だった。


 ただ一番部屋に近い駅からダンジョン近くの駅までだから北地区や南地区にはいけないんだけど。

 まあ、これで問題視していなかった問題が解決したし、良しとしよう。


 定期を買ったついでということで、早速電車に乗った俺はダンジョン前駅で降りると一度ダンジョン入口へ行き、マリーに挨拶した後ギルドへ向かう。

 目的は昨日の午後に潜って得たドロップアイテム売却の為。


 今日は潜らないならちゃんと売れる場所を探せと思うだろうが、周囲の話を聞いている限り、あんまし上手く行かないっぽい。

 まず、ギルドでなく店に直接売る場合、専属契約が必要になる所が殆どらしい。

 なんでもそれは手に入れたモノを他で売らない代わりに店側が金に色を付けるとか。


 この契約は最初に色々な条件を提示した上で結ぶものらしいのだが、失敗すると稼ぎに大ダメージを与える程のことも起こり得るらしい。



 俺はギャンブルが好きでは無い。

 少しでも運の要素があるのなら俺は少し安くともギルドで売ることを選択する。


 ギルドは基本、人の出入りが少ない。

 売却するタイミングは人それぞれってのもあるが、ダンジョン挑戦者からしてみればここがドロップアイテムを一定金額で買い取って貰える場所という認識しかないからだろう。

 俺もあまり人の事を言えないが、裏方は他人が思う以上に忙しいものなのである。


 閑話休題。


 提示したドロップアイテムの決算が完了したようである。


「全部で八三〇〇〇円になります」



 明細書


 コボルトの角【希少】 ☆1 14000円


 ゴブリンの棍棒【希少】 ☆1 10000円


 コボルト貴族の服 ☆1 10000円


 コボルトの王冠 ☆1 20000円


 キャタピラ ☆1 9000円


 以上。


 現在所持金139420円


 定期を買ったのに、所持金十万越えである。

 欲を言えばゴブリンの貴族とゴブリンの王はヴァナルガンドで倒したかったところだな。

 もしそうしていれば三万違ったというのだから尚の事悔しい。


 俺にもっと力があれば。

 レベルが高ければ。


 なんて、終わったことをいうつもりはないのだがどうしても考えてしまうのが人の性。

 ……早くここを立ち去ろう。

 俺は早々にギルドを出た。


 そして、次にやってきたのは南区。

 ある意味男の下衆な夢に溢れたつまらないところである。


 何故こんな所に来たか。

 探検するためである。


 正直この性欲を隠す気が無い雰囲気と香水やら煙草やらの匂いが野外にまで染み着いている感じが酷く嫌いなのだが、まあ何事も挑戦である。

 いや、何にも挑戦してないけど。


 ちなみにここ、もう一つ特色となっている店がある。



 奴隷商だ。








『サァ始まりました奴隷オークション! 本日も皆様方のご期待に添える商品をご用意してオリマス!』


 地下競売。

 会員制ではなきにしろ、知る人しか知らぬ人身売買のここはオークション会場である。

 正直言って場違い。

 奴隷の最低価格は十万らしいけど、そんなのはここでオークションに掛けられたりはしない。

 いや、そうじゃなくても場違いか。例え金を持っていようと居なくとも。


 誰一人として顔を隠していない時点で奴隷制が当たり前のように存在しているのは明らかだが、あまり気分の良い制度では無いな。

 以後俺がお世話になならないとも言い切れないシステムであるだけにあまり酷く言えないが、堕ち人の俺がダンジョンで誰かと組める可能性がゼロに近いことはこれまた耳に入って来た。

 となれば、選択肢は限られてくる。


 まあ今日は見るだけだが、どういう人間が売り出されているのか気になるし。


 そんな感情の元オークションを見ていると、奴隷には女が多い気がする。

 いや、オークションに出ている奴隷に女が多いだけなのかもしれないが、どいつもこいつも人間の好む容姿をしていた。

 ……ただ、その殆どが顔を弄っているように見える。


 属に言う整形だな。

 元々見栄えの悪かった奴をそうして売る訳か。


 …………あーなんか胸糞悪い。もう帰ろうかな。




『ソシテ本日も、毎度毎度のことながら出戻りクイーンが登場シマス!』


 客達の笑いが会場内に溢れる。

 出戻りクイーン?


 司会の呼びかけと共に来たのは、大きな荷車に乗せられた金魚鉢の中に入っている……人魚?

 蓋がされているから分からないが、何やら口をパクパクとさせて何かを言っているようである。

 ……これは、歌詞か? つまり……歌?


『出戻りクイーン、彼女は奴隷でも観賞用として絶大な人気を誇る人魚でありながら、二日と経たぬ内にクーリングオフされるという異例の商品で御座イマス!』


 二日て。


『ソノ理由は至ッテ簡単。殺されてしまうからなのデス!』


 は? 殺される?


『彼女の種族は人魚の中でも特殊! 致死性の毒が備わった針を内蔵しているのデス!』


 針、か。


『シカモ針を相手に刺すまでにコンマ一秒かからないという素早サ! 刺されない方法は至って簡単! 彼女ノ歌ヲ妨害シナイコト!』


 あの人魚が口をパクパクさせているのはやはり歌っていたからだったか。

 ……というか読唇術出来てる暇あったら魔物の気配とか感じ取れるようになっとけよ俺……。

 魔物を見付けるまでのあの時間が異様に長く感じるんだよ。


『タッタそれだけのこと、守れない筈が無い! いや、無かった筈ダッタ! シカシ、彼女の被害者は既ブ十人を超エタ!』


 おいおい……流石にそれは拙いだろ。

 客も明らかに入札するムードは無い。

 聞く分には笑って流せるが、自分が被害者にはなりたくないと言う気持ちが目に見えるわ。



「デワデワ! 人魚ドミニカ、十万からのスタートです!」


 ドミ……ニカ?


「一三九四二〇円!」


 気付けば俺は声を張り上げていた。

 何故張り上げたのかが自分でも理解出来ない。


 しかも声に出したのは俺の全財産であり、入札する空気が皆無だった中でのこんな入札。

 完全にアウェー。


 なのに俺は、後悔していなかった。

 恐らくは記憶の欠片がそうさせるんだろうが、条件反射でそんなことをされた俺はたまったものでは無い。


 食事をどうするんだ。

 というか、揃えようと思っていた日用品が全部パーである。


 誰か値段を吊り上げろ。

 脊椎反射での買い物が、オークションである以上はそれ以外にクーリングオフの方法が無い。


 しかし。


『ハイ一三九四二〇円……ッテ、何で端数入ってんの? …………マァイイデショウ! 他に何方かイラッシャイマセンカ!』


 来い! 誰か! 誰でも良いから!

 ほら、司会者の言っている言葉が本当だなんていう証拠は何処にもないんだからさ、誰か入札しなよ!

 彼女はアレだぞ、あの綺麗な容姿は生まれてからずっと変わらないんだぞ!

 お前らが意気揚々と買っていったあの造り者共よりよっぽど良い代物だぞ!


 頼むから誰か入札を!


 ……でないと。

 でないと俺の生活費が……生活費が一瞬にしてゼロになっちゃう!


 しかもそれでわざわざ死亡フラグご購入しようとしちゃってる!


 死因が毒殺か餓死か。

 んーどっちだろうね。


 いや、明日は普通にダンジョン潜るけどさ。


 だけどぉぉぉぉぉ! それとこれとは話が別だぁ! ただでさえキャタピラーという壁にぶつかっているっていうのに!


「……イラッシャラナイということですので、四四番サン一三九四二〇円で落札! オメデトウゴザイマス!」




 あっ積んだ。



 現所持金0円。

 ……そろそろ登場人物増やし過ぎだろって言われる頃かな。

 というか、脚本より出会いがかなり速いんですけど、一体どういうことなんですか。

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