016 第二層の犬人間
第二層への再チャレンジ。
再度ダンジョンへと潜った俺は、マッピングしていない道を中心に進んでいる。
暗闇を掻き分け微睡む空気の中どんどん進んでいく。
コボルトLv24
ゴブリンLv19
再度潜ってからものの数分の内に遭遇した二体の魔物に対し、やはり俺はヴァナルガンドで対峙する。
慣れて来たせいか、俺は幾度か斬らなければ倒せない相手ではあれど早々に二体の魔物を捻じ伏せ、コボルトとゴブリンは呆気無く崩れ落ちて行く。
コボルトの角【希少】 ☆1
ゴブリンの棍棒【希少】 ☆1
ゴブリンの棍棒【希少】 ☆1
俺は早々にドロップアイテムを回収すると、再度歩き出す。
これは先程あの阿呆共を屠った後にマリーから聞いた話なのだが、ダンジョンは一日毎にその内装を変えるらしいのだ。
具体的に言えば迷路の構造が、だが午前十二時を回った次の瞬間、全く別の迷路へと姿を変えるらしいのだ。
つまり、このマッピングが意味を成すのは今日だけで、明日になればまた一から階段の探し直しとなるらしい。
それだけは避けたい。
正直な話、魔王としてのレベルをもう少し上げたいところだが時間制限があるというのならそうも言っていられない。
奥へ進まなければより高見へ行く事は叶わないのだから。
「……着いた」
その後、第一階層でも見た門に辿り着いたのは、二時間が経過してからのことだった。
その間、一度だって魔物に遭遇しなかったコレを人は幸運と呼ぶのだろうか、それとも不幸と呼ぶのだろうか。
俺からしてみれば完全なる不幸。不幸の神様にでも好かれてんじゃないかと思ってしまう程に現在の俺は不幸を感じていたりする。
……魔物が出てこないと金を稼げない。
昼食代は結局割り勘になったこともあり、金銭に多少の余裕はあるがそれはあくまで数日中ならという話でしかない。
マリーが割り勘にすると言って聞かなかった為にそうなったのだ。
その理由は『私達の関係はそんなものじゃないから』だそうだ。
マリーは本当に元王妃様なのだろうか。
さて置き、目の前にある門。
突入する前に、自分の状態を確認しておこう。
千壌土 久遠 19歳
職業:魔王 Lv11
魔剣ヴァナルガンドLv11 ☆(今現在)1
スキル MP吸収 ドロップ二倍 獲得金二倍 Lv変動 ダークネスアーツ 固有装備
格上の敵を倒していた筈なのにそれ程レベルが高く無いのは、アロンダイトのように経験値二倍スキルが無いからだろう。
ボス戦ということだから、ヴァナルガンドでは無くアロンダイトを使うべきなんだろうが、その辺はピンチに陥ることがあった場合に考えれば良いだろう。
門を開き、俺は第二階層のフロアボスと対峙する。
コボルトの貴族Lv30
コボルトの貴族Lv30
コボルトの王Lv35
────……これ、勝て無くね?
一匹だけでも約二十のレベル差がある時点でもうこれは即刻引き返してレベル上げに専念する次元だろうに、それが三匹。しかも一匹その中にも更に上位種。
ここは一時撤退し、レベル上げをしてから再度戻ってくるという戦略的撤退を……。
ガシャン。
なんて、そんなことを考えた俺を逃がさんとするように扉は自動的に閉まって行き、それを静止せんと手を伸ばすも人にやさしく作られた自動ドアでないそれは無情に強大な壁と化す。
当然、押しても引いても開くことはない。
状況は最悪といって良いだろう。
残念だが、ヴァナルガンドで戦い金を手に入れるのは諦めた方が良いだろう。
俺は三匹の魔物達が襲い来る前にヴァナルガンドを腕輪へと戻し、アロンダイトを手に握る。
千壌土久遠 19歳
職業:勇者 Lv22
聖剣アロンダイトLv22 ☆(今現在)2
スキル HP吸収 経験値二倍 Lv変動 サンライトアーツ 固有装備
これでもまだ約十レベル差がある訳だが、例えダメージを受けてもスキル『HP吸収』があるし、一撃死でなければなんとかなるだろう。
ところでアロンダイトのレア度が二に上がっているのは勇者のレベルが上がるに従ってアロンダイトのレベルが二十台に乗ったからなのだろうか。
つまりはレベルが三十に上がればレア度も三に上がるってことなんだろうが、今のままだと聖剣とは名ばかりの枕以下アイテムだぞ。
……ヴァナルガンドなんて更に酷い。
ゴブリンの棍棒と同列扱いだし。
閑話休題。
コボルトの貴族達は、貴族としての余裕でもみせんとしているのか、悠然とこちらへ向かって来る。
コボルトの王に関しては動きすらしていない。
犬人間風情に、完璧なまでに舐められている。
俺はアロンダイトをしっかりと握り、自分でも無意識の内に剣道でいうところの上段の構えを取る。
正直、実戦には実戦に合った構えがあるとは自分でも思うのだが余裕な表情のままに高そうな服を身に纏って偉ぶっている犬人間共を華麗に斬り捨てなければ気が済まない。
華麗に、というのだから実戦に特化した無駄の無い動きでは駄目だ。
レベル的に、この後泥仕合になることは目に見えていたとしても、最初だけはしっかりとしたい。
「千壌土久遠、押して参る!」
剣道の構えをとったからだろうか、そんな意思表示をしてから俺は突っ込んでいた。
そしてアロンダイトが完全に俺を舐めきったコボルト貴族の脳天を捉えた。
振り下された白刃は止まる事を知らず、ゴブリン貴族を両断しても尚勢いが収まらずに床へ大きな斬り後を残す。
今の動きは完全にグレイプニル【血盟】のステータス二倍に依存したスピードがあるからこそ成せる技で、やった自分自身も驚く威力とスピードだった。
本来、動物を一刀両断するなんてのはよっぽど剣の切れ味が良く無ければ出来ない。
アロンダイトが大剣であるが故に上段の攻撃がいつも以上の破壊力を持っていたってのもあるんだろうが、それでも普通にやっていたら両断なんて出来ていないことは、コボルト戦を見ていれば明らかだ。
…………? コボルト貴族の体が砕け散らない?
身体を真っ二つにされたコボルト貴族。
それは普通に考えて即死したものであり、真っ二つにしたせいか見えていなかったのだ。
まだゲージは半分以上残っていることに。
「なっ……ガッ!?」
コボルト貴族の左半身、その手に握られた剣が、俺の脇腹を捉える。
辛うじて回避行動ととったが、切れ味の悪い剣で魔物らしい筋力任せに一センチ位の肉を持ってかれた。
ただ、出血していることを全身へ激痛として伝えているにも関わらず、持っていかれたのは肉だけ。
服は血が染み込む様子どころか斬られた部位ですら破けた様子が無い。
魔法による特殊加工が施されていることは分かるが、どうやって皮膚だけを傷付け服が傷付かなかったのか、皆目見当もつかなかった。
まあこれは、ある意味結果オーライでもある為に深く考えない。
いや、深く考えている暇が無いというべきだろうか。
斬られたコボルトの貴族は、何事も無かったかのように左半身と右半身をくっ付け、身に纏っている服さえも同じ体の一部のように元の状態へと戻った。
……成程、ゲージさえなくならければ幾らでも復活出来るってことか。
斬られてない方のコボルトの貴族が何もしてこないからおかしいと思った。
二匹のコボルトの貴族は斬られた俺を見て鬱陶しくも楽しそうに笑い、遠吠えなんかもしてやがる。
その顔、二度と笑えなくしてやるよ。
俺は脇腹の痛みに耐えながら動き出した。
痛みで片膝を付いた状態から、二匹のコボルトの貴族を纏めて巻き込むようにアロンダイトを横に振り、その大剣たるアロンダイトの流れに流される形で回転、そのまま立ち上がって斜めに切り裂いた。
まだだ。もっと連続して繰り出せるはずだ。
俺は笑う事を邪魔され怒り出したコボルト貴族たちの剣戟を躱しながらに止まないアロンダイトによる連撃をお見舞いする。
貴族とはいっても所詮コボルトの剣技、正直な話剣に振り回されているようにか見えず、不意打ちを注意し、パターンさえ理解出来れば回避するのは容易かった。
一撃、二撃、三撃、四撃、五撃、六撃、七撃、八撃、九撃! ラスト十撃!!
大きな剣での連続攻撃を狙った場所へ行う。
重さでよろめく体。
ぶれる重心。
足りない筋力。
その全てをカバーしながらやらなければいけないそれは、削り取られてカスしか残っていない記憶の欠片を元にしなければできなかっただろう。
これは決して才能では無い。努力の結晶なのだ。
よくわからないが、そう言いたくなった。
コボルトの貴族たちのゲージはゼロになり、その体は今度こそ砕け散る。
コボルト貴族の服 ☆1
コボルト貴族の服 ☆1
今、ドロップアイテムを拾っている暇は無い。
何故ならコボルトの貴族が砕けた次の瞬間、コボルトの王が俺に杖を振り下したからだ。
「……動くんなら、最初から動けば買っていたかもしれないのにな」
ただ、キングゴブリンとは違ってその動きは愚鈍。
本当にただ王であるだけだと思わせる様な動きは、予想外に部下が死に慌てているようである。
俺はアロンダイトを振るう。
コボルトの王の胴体を斜めに切り裂くとゲージは、一瞬の内にゼロとなった。
一撃。
コボルトの王は弱く、余りに弱く、砕け散る様を目にするも、脳がその情報を理解するのに十数秒という時間を要してしまった。
コボルトの王冠 ☆1
俺はコボルト貴族の服を合わせ、ドロップアイテムを拾うと鞄の中へ突っ込んだ。
余りに呆気無い幕引きで、頭がついて来ないのだ。
コボルトの貴族以上の激戦を予想していたのに、あろうことか一撃で付いた決着は俺に物足りなさを残し、本日の目標を達成した筈なのに心は満たされていない。
第一層から第二層へ上がった時と同じく第三層へも階段を使って上ると、ダンジョンの出入り口を発見する。
門をくぐる前の俺は第二層をクリアしたら出ようなんて考えていたのだか、どうにもスッキリしないこの気持ちをどうにかしたいという気持もあった。
HP吸収のお蔭か、どうやら脇腹の出血は既に収まっているようだし、体力的にも問題無い。
第三層の魔物と一度だけ戦闘を行ってから帰ろう。
最後にそう結論付けた俺は、早速魔物を探すべく奥へと進む。
一日一日でダンジョン内がその姿を変えるというのなら、今はマッピングする必要は無いだろう。
そう思い、道を覚えられる範囲で辺りの探索を始める。
そして、変わらず薄暗きダンジョンの中、早い段階で魔物を見付けることに成功する。
キャタピラーLv27
相手は大きな芋虫だった。
正直言って聖剣でコレを斬るのか? と思わずにはいられない次元のキモさを誇る緑色の幼虫だった。
手に収まっているアロンダイトも心なしか『これをきるの? きらなきゃ、だめ?』と訪ねて着ているようで、俺は後さずる。
どうしよう。そう思う俺の思考を読んでか読まずかキャタピラーはどんどん近づいてきて、その気持ち悪い姿が薄暗い中でもどんどんクリアに視界が捉えて行く。
…………。
────……次の瞬間には焼いてました。
黒剣リットゥ。
魔力によって炎を生み出す魔法剣により、キャタピラーをこんがり焼きあげたのだ。
ちなみにキャタピラーが砕け散るまでに二十秒位掛かった。
……焼き殺すとか随分と残酷な倒し方をしてしまった気もするが、無理だった。どうしても。
キャタピラ ☆1
……キャタピラーの何処にそれが!?
※キャタピラーは正真正銘巨大芋虫であり、サイボーグとかではありません。
……兎にも角にも一応は再度目的を果たした訳なのだが、更に気分が悪くなると言うファインプレーの元、俺は本末転倒という言葉が心に突き刺さるのを感じながらにダンジョンを出たのだった。
ちなみに、今は門番でも無いのにいつ出て来るかも分からない俺をダンジョン前で待っててくれたマリーの優しさに触れた時点で完全回復しました。




