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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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015 昼食会に邪魔者

 そんな訳でマリーと昼食を取ることになった訳だが、皆は覚えているだろうか。


 俺の現所持金が二十円だということを……!


 交代が来るまで雑談でもと思っていた俺だが途中でその事実を思い出し、早々に今持っているドロップアイテムを換金しに行く事となった。

 交代が来るのを待っていてくれれば着いて来てくれると言っていたが、それでは非効率だと断った。

 交代がくるのには早くても十分掛かるということで、俺はその隙にギルドへ換金しに行くことに。


 本来であれば少しでも高く買い取ってくれる場所を探すべきだったのだろうが、今日は仕方が無い。

 だってマリーと食事だもの。

 ……というか、女性を待たせてそんなことする奴は男じゃないと思う。


 そんな傲慢な人間にはアロンダイトの一撃をお見舞いしてやりたい。


 そんな心境はさて置き、早々にギルドへと駆け込んだ俺は、空いている窓口に今回の成果を提示する。

 受付の女性は出された物に驚いたようではあるが、事務的な仕事を続け、計算を始める。


「全部で七六〇〇〇円になります」




 明細書


 ゴブリンの棍棒【希少】 ☆1 10000円


 コボルトの角【希少】 ☆1 14000円



 以上。


 現在所持金76020円



 昨日よりも一万以上多く稼いだ。

 凄い、これで昼食後もう一度潜ると考えれば一日で稼ぎが十万を超える。

 ……ダンジョン、普通に狩っているだけでこれ程の儲けが出るのなら、他の仕事になんて馬鹿らしくて付けなかろうに、何故ホームレスや孤児があんなにもいる?


 物価が高い? いや、昨日見て回った限りそんなこともなさそうだったが。

 レベルが低い? いや俺レベル十一の時に鉄の剣で挑んだけど普通に戦う分には問題無かったぞ。


 ……アロンダイトなかったらモンスターハウスで詰んでたけど。


 餓死程苦しい死に方は無いと思うのは、俺だけなのだろうか。


 まあ考えても仕方が無い。

 今は早々にダンジョン入口へ戻ろう。

 そういえば、ギルドって金額が定められている分支払が早いよな。

 他だと多分、値段を上げるための交渉とかも必要になって来たりするんだろうし……金稼ぎはヴァナルガンドの性能を頼れば少しの違いを気にしなくて良いのではなかろうか。

 ……いや、一円を笑うものは一円に泣く。


 そんな安易な考えは捨てるべきだろうな。

 ただ交渉事って上手く無いんだよな……何と無くだけど、失敗に終わる気がしてならない。

 俺は今後どうするかを考えながらも、足を進めるのだった。



 そして、ダンジョン入口に戻って着たのは出発後、九分が経過してからのことだった。

 しかしもうダンジョンの入り口にマリーは立っておらず、何処へ行ったのか辺りを見回していると、後ろより肩を叩かれる。


 振り向くとそこには、小柄の愛らしい少女が私服姿で立っていた。


「着替えたのか」


「うん。流石にあの格好じゃ失礼だもん」


 それは言わずもかなマリーだった。

 先程までの門番スタイルとは打って変わった若干ボーイッシュなその服装は、門番であったマリーの印象をも崩すことは無かった。

 それに女子の着替えは長いものと相場が決まっているというのに、マリーは随分と早くに着替えを終え、薄くだが化粧もしたようである。

 ただでさえ仕草やその言動が愛らしかったというのに、その容姿までも磨くとは流石だな。


「気を使う必要なんてなかったのだが……いやしかし、そのお蔭でマリーの私服姿を見られたことに感謝して置くことにしよう。とても似合っているぞ」


 いやまあ、そこまで外見が良ければ似合わない服を探す方が困難だったりするのかもしれないが。

 ……しかし、成程な。


 これが人間の容姿を気にする訳か。

 ……マリーのお蔭で人間の生態の内の一つを理解することが叶った。

 頭が上がらないな、昼食は俺が奢るか。



「そう? 嬉しいな。私ってドレス以外着た事なかったからこういうのだと全然分かんなくて」


「ドレス……マリーってやっぱりあのマリーなのか?」


「そういう話はごはんを食べながらしようよ。私、おなかすいたよ」


「それもそうか。マリーは何処か美味しい店を知っているか? 俺は知らないから、マリーが知らないなら俺が材料を買って作るが」


 まああのボロアパートじゃ定食屋にも劣るだろうが、俺の料理は最強さんも絶賛だぞ。

 カレーしか食べさしたことないけど。


「んー……それも魅力的だけど、今回は私のおすすめの店に行こ。カルボナーラが絶品なんだよ」


 スパゲティか。そういえば長らく食べていない気がするな……。

 記憶が無いからあくまで気がするだけだが。

 マリーは俺の手を掴むと子供のように燥ぎながら駆け足でその店に向かう。

 ははは、昼食を一緒に取る約束をすることが出来ただけなのにまるでデートのようではないか。


 いや、見方を変えてしまうと父子でもあるが。

 ……最強さんには老けていると言われたし。



 兎にも角にも、マリーお勧めの店というのは存外近くにあった。

 そこは外装から気を使われたオシャレな喫茶店のようで、客層も悪く無い。

 家の周りが廃れているだけにこういう店に出会うとなんとなく眩しく感じてしまう。

 ……ものの二日しかいないあの場所にどんだけ浸食されてるんだか。


 仕事帰りに寄ると考えれば近くて然るべきなんだろうが、店に入って席に着くまでに全く迷いが無い所をみると行き付けらしいことが分かる。

 これは期待出来そうだ。


 店員にマリーお勧めのカルボナーラとコーヒーを注文すると、マリーはナポリタンと紅茶を注文。

 てっきりマリーもカルボナーラかと思いきやの選択である。


「同じの頼むんじゃなく、少しずつ交換しようよ」


「あぁ、俺がカルボナーラを注文したからこそのナポリタンか」


「そうなんだよ」


 成程な、俺もこの後体を動かす以上はそんなに腹を膨らませる訳には行かないからおかわりは控えるべき。

 なら味を沢山味わえた方が良い。


「分かった」


「さっきの話の続きしようか。多分だけど、久遠の予想は正しいよ。あのマリーだよ」


 マリー・アントワネット・ジョゼファ・ジャンヌ・ド・ロレーヌ・ドートリシュ。

 フランス国王ルイ16世の王妃で、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」ということを言ったことで有名な人物である。


「質問良いか?」


「スリーサイズは勘弁して欲しいかな……見ての通りの寸胴ぼでーで……」


「いやちゃんと出るとこ出てるって。安心しろって。いやそうじゃなくてだ」


「慰めなんて要らないんだよ。どうせ私はずっとこのままなんだよ」


 確かにボンキュボンではないが、ちゃんと発育しているではないか。

 何が不満なのか理解出来ない。人間っていうのは自分に無い物を望み過ぎだ。

 ……あぁ、そういえば昔の……歴史上のマリーっって随分なナイスバディ―(笑)だったらしいし、それと比べているのかもしれない。

 でも顔立ちは脚色しなきゃいけないようなものだったらしいし、今の方が断然良いだろ。


 ……あれ!? 俺までそっちに思考が行っちまってる。

 女性の体を見るとか紳士の風上にも置けない行動を取ってるし。


 いや俺紳士じゃないけどさ。


「じゃなくて! マリーってパンが無ければお菓子を食べれば良いとか本当に言ったのか?」


「久遠……パンが無ければお菓子も無いのが道理なんだよ」


「いやマリーが言ったことにされてるから」


「嘘なんだよ。幾ら私でもそこまでばかじゃなかったよ」


 あの発言はデマ、と……。


「ギロチンは……怖かったんだよ」


「聞いてもいないのにトラウマ掘り起こすの止めよう!? 昼食前にデスエピソード脳内上映とか最悪だろ!」


「聞かれる前に言いたかったんだよ」


「それ聞くほどデリカシー無く無いよ!」


 聞いた奴が居るのか? 今すぐそいつ連れてこい。

 ヴァナルガンドのサビにしてくれる。またはリットゥで消し炭にしてくれる。

 アロンダイト? あれは一応聖剣だし……。



「……久遠はイイ人だね」


「どこが?」


 どんな扱いを受けていたんだ? お兄さん殺し屋さんだからさ、即刻抹殺してあげるよ?



「お待たせ致しました。カルボナーラとナポリタン。コーヒーと紅茶になります」


 そんな話をしている内に料理が来て、テーブルの上に並べられる。

 成程……匂いからしてこれは良いものだ。

 俺は早速、「いただきます」の言葉と共にフォークを取り、一口サイズのカルボナーラソースが絡まった麺を口に運ぶ。


「美味しい!」


「でしょ? こっちも美味しいよ?」


「む、ならば交換だ! ほい」


「え?」


 俺は自分の口に入れた量と同じくらいのカルボナーラをフォークで巻き取り、マリーの口元へ差し出す。

 正直な話、ここまで美味しいスパゲティだと他の味もご賞味したい訳で、マリーはまだナポリタンを一口も食べていないようであるし、先に食べさせてしまおうと。


 ……あれ? 何か変か?

 互いにある程度食べてからか? 交換とかは。


 とかなんとか思っていたらマリーがカルボナーラを食べた。

 間違ってはいないようでよかった。



「あー? そこにおわすはマリー様じゃありませんかーこりゃ奇遇だー」


「あ?」


「え?」


 マリーにカルボナーラを食べさせた直後だった。

 数人の男が近づいてきて、あさからまに棒読みの台詞を吐いたのは。


「どちらさん? マリーの知り合い?」


「えっと……ゴンザレスさん、かな?」


 おもっくそ日本人顔だけど。


「…………冴木です」


「そう、冴木ゴンザレスさん」


 違う、絶対違うよソレ。

 男の顔が目に見えて落ち込んでるし。


「お前ら……傷付けられる為に出て来たのか?」


「あぁ!? なに調子こいてんだテメッ……」

「食事中にぃ! 大声なんざぁ! 出してんじゃねぇぇぇ!」


「ほげらばぁぁぁ!?」


「テメェの汚い唾がスパゲティに入ったらどうする!」


 ……なんて、無意識中にやっちまった訳だけど。

 相手、全然効いていやがりませんね、ゲージが全然減ってないし。


「テメェ……低レベルの癖に俺に刃向うたぁいい度胸だな」


「……レベル、ね」


 こんなことならもう少し頑張っておくんだったか。

 コイツは少なくともコボルトに苦戦している俺が勝てる相手じゃない。

 文字通りレベルが違うって奴だな、全く持って笑えない。



 ……だからどうした。

 そんな思考が頭の中に浮かんだ瞬間、俺の体がほんの微かに朱い光を帯びた。

 そして次の瞬間には猛ラッシュが始まった


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」


「あぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぁぁぁぁぁぁ!」


 男のゲージが残り一というところで殴るのを静止。

 光が少しずつ、収まって行く。


「50コンボだドン!」


「違うな女児よ。今のは51コンボであったのだ」


 そんな言葉を最後に光は収まった。

 何故かは分からないが、体が少し光った途端に体の動きが良くなった気がする。

 一発一発に確かな威力があり、レベルが低くくも確かなダメージを与える今の攻撃、とても常人の技とは思えなかった。

 自分のやったことの筈なのに、まるで他人がやったことのようで気持ちが悪い。


「……まだやるか?」


「え、やらないけど。バトルジャンキー怖……」


「今のはそこのゴンザレスがやったことです当社は一切関係ありません」


「ただ現在、粗大ごみを無料で引き取るキャンペーン中でーす」


 やべぇ、友情もクソもねェ、真っ先に見捨てられてやがる。

 しかもゴンザレスにされてやがる。


「……じゃ、アレを引き取ってくれ」


「「「了解でぃーす」」」


 男達はゴンザレスの足と片腕を掴むと、早々に見せの外へと退出して行った。

 ……常時頭を引きずり、段差などでは強打しているんだが大丈夫なのかアレ。

 ゲージほぼゼロなんだけどアレ死なないよな?



 ……ゴンザレスの防御力に期待。名前通りのタフでありますように。



「……さて、邪魔も入ったが、食事を再開しようか」


「うん、そうしよ。……今度は私が食べさせる番だよ?」


「? 分かった」


 その後、マリーとの食事で十分すぎる程に英気を養った俺は、マリーと共にダンジョン入口へ行き、マリーに見送られて再度第二階層へと潜って行ったのだった。

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