013 異能実験と被害者
次の日も俺はダンジョンに潜っていた。
ゼロからのスタートとなる第二階層の探索をスタートする。
今日も先へ進むべく階段を探しながらにマッピングして行こうと思うが、それとは別にやることがある。
異能の性能実験だ。
昨日、最強さんにカレーのおかわりをよそいながらに聞いたのは俺の異能がエンゼルが言うところのレアモノであるということだった。
「レアモノって……さっきまで微妙だとか言ってただろ」
「そりゃあね、物質を圧縮するだけの能力なんて使い道限られてくるでしょ」
「ちゃんと変形も出来るわ」
「違う違う。そういうことじゃにゃい。もっと根本的なハナシよ」
根本的、ねぇ……異能のことに関しては全く知識の無い俺からしてみれば何が根元なのかすらも分からないのだが、エンゼルは気にした様子も無い。
最強さんは先程から黙々と食べ続けているだけだし、この場でちゃんと俺に説明してくれそうな人材は見当たらない。
「制約の無い異能だなんて、ワタシの知る限り前代未聞にゃ」
「……そうなのか?」
「そうなのよ。その異能が周囲にどういう認識をされるかはアンタ次第だけど、それは確かにレアモノよ」
堕ち人というカテゴリに属する人間だけあって、既に凡庸性とは掛け離れた存在であったことは何と無く分かっていたが、この国における立ち位置までもがそうであるとは夢にも思わなかった。
レアモノ……だったか。
何故こんなものが俺に備わったのかは分からないが、運の要素が強いことは確かだろうな。
いやそれとも天界人であった頃に使えたであろうスキルの代わりとか、そういうことなのだろうか。
その後も続いた昨日の晩餐会では、楽しくはあれども有力な情報など皆無なただの家族間会話と化し、最強さんはカレー四杯食べだ。
兎にも角にもそんな訳で、昨日エンゼルから教わった異能。
それがどういうものか知る必要があると俺は考えたのだ。
第二階層。見た目は第一層と変わらず遺跡の中のようだが、出て来るのがまたゴブリンなんていうオチが待っていたりしないだろうか。
モンスターハウスに入ってしまった俺は既に緑小人はもういいよと思わざるを得ない訳で。
……この思考が変なフラグにならないことを祈りつつ、俺は魔物と階段を探して練り歩くのだった。
そして十分後。
ゴブリンLv18
コボルトLv22
出たよ。出ちゃったよ。
一応、コボルトとかいう犬の様な顔をした人型生物もいるが、第一階層だけでゴブリンとサヨナラすることは出来なかったようだ。
俺はアロンダイトを出し、二匹の魔物に対峙する。
コボルトのレベルはキングゴブリンより下、ホブゴブリンより上。
……微妙。
「取り敢えず、死んで」
まず俺は、一撃でゴブリンの命を絶った。
剣術もなにもない圧倒的な力による断命であり、俺はアロンダイトを振っただけである。
コボルトはゴブリンと違い、武器を持っていない。
代わりにその頭には角が生え、身体は体毛と鱗によって守られていた。
確かコボルトは、ドラゴンの血を引く爬虫類とされているんだったか。
ドラゴン……それ故の鱗なんだろうが、俺にはただの二足歩行する犬にしか見えない。
コボルトがこちらへ走ってくる。
魔物達は一緒に居るだけで仲間では無い。
それはモンスターハウスで何と無く分かったことだが、砕け散るゴブリンを完全スルーして襲い掛かるのは無謀じゃ無かろうか。
「……必要な情報位、頭の中に入れておけ」
ゴブリンを一撃で屠った剣を持つ相手に真正面から突撃して、勝てる訳も無かろうに。
俺はコボルトも一撃で倒し、コボルトも砕け散る。
コボルトの角 ☆1
出た。コボルトは角か。
本当は一先ずゴブリンの棍棒辺りで実験して見たかったのだがゴブリンからは何も出なかったから仕方が無い。コレでやってみよう。
本来であればゴブリンの棍棒が出るまでやってから実験しても良いのだろうが、待ちきれない。
昨日という日に実験しなかったせいか、どういう結果を招くか気になって仕方がないのである。
物質圧縮・変形。
如何様にしてそれを可能にするのか目に収めるのだ。
角の大きさは、何故かコボルトの頭に収まっていた時より大きくなっている気がする。
まあ棍棒がゴブリンの棍棒というだけで武器として使えない世界なんだから、そんなこともあるか。
今は異能実験だ。
使おうと思えば使える。とエンゼルは言っていた。
俺は頭の中で物質を圧縮するイメージを固めていく。
すると手に持っていたコボルトの角が手の上で浮かび上がり、俺が一気に放出するイメージをコボルトの角へ送り込んだ次の瞬間、角は極小の球体へ姿を変えた。
「……やり過ぎたか?」
BB弾位の大きさとなり、角の形ですらなくなったそれは再び手の中に納まったが、異能実験の結果は成功であろうとも二度と角に戻すことは出来ないだろう。
圧縮物質 ☆1
重さだけが変わらずに残っている。
これはあまり大きな物でやったら手に戻った瞬間手を貫いて地面に落ちてしまうだろう。
コボルトというそれ程大きく無い生物についていた角であった為にそれ程重い物質ではなかったのが幸いしたが、それでもこれより更に小さくすればどうなるか分からない。
一ミリ以下の世界に突入させたなら、その重みで針のように貫いてしまう可能性は十分にある。
次は変形……と行きたいところだが、素材を集めてからの方が良いだろう。
変形を応用して出来ないかどうか考えていることもあるし。
……魔物の居る場所が分かればいいのにと思う。
アイテムだってドロップするか分からない訳で、さっきは二匹纏めて登場したが群れてはいない以上今度は一匹の可能性だってある。
俺はアロンダイトを戻して先へ進む。
アロンダイトは腕輪から剣にするまでのタイムラグが二秒と無い。
長距離射撃や不意打ちでも受けない限り敵からの攻撃を受ける前にアロンダイトを構えることは容易い。
であればこんな目立つ剣を片手にダンジョン内を歩こうとは思わない。
それに、大剣であるせいか結構な重さがある。
持って歩くだけで結構体力が持っていかれるのは俺に筋力が足りないからだが、エンゼル曰く天界人は神の加護によって力を得ていたらしいし、その恩恵を得られなくなった以上それは仕方が無いことだろう。
加護によって得た力の恩恵に縋っていたであろう自分には少し情けなさを覚えるが、その辺は完全に他人事のようにしか感じられない。
コボルトLv20
コボルトLv21
その後、また二体出て来た。
嬉しい誤算だ。早速アロンダイトを………………そういえば、もう片方の腕に嵌まった黒い腕輪、造りは完全に一緒なのだが、これは一体何なのだろう。
慣れたせいかアロンダイトはもう触れずともその姿を現してくれるが、こちらの腕輪は無反応を決め込んでいる。
アロンダイトが最初姿を現した時のように、此方も触れれば何かになるのだろうか。
敵を前にしてそんなことを考えてしまったのは、アロンダイトを持っている故の油断だろう。
結構距離もあるからと完全に油断しきっている。
俺は黒い腕輪に触れた。
魔剣ヴァナルガンドLv1 ☆(今現在)1
スキル MP吸収 ドロップ二倍 獲得金二倍 Lv変動 ダークネスアーツ 固有装備
現れたのは、黒い大剣だった。
アロンダイトに負けず劣らずの装飾が施されたそれは、禍々しい気を放ちながらに俺のてに収まっている。
「……?」
俺は体に違和感を感じた。
おかしいなと思いつつ、自身の状態を確認する。
千壌土 久遠 19歳
職業:魔王 Lv1
………………えっ、魔王? レベル一? ナニコレ!?
とか、考える間もなくコボルト達が襲い掛かる。
「わっわわ!?」
困惑した俺は、なんとかコボルト達の攻撃を回避し、後ろから斬り付けることに成功したが、アロンダイトの時とは違い、ゲージは五分の一も削れていない。
いや、五分の一は削ることが出来た、とそう考えるべきなのだろうか。
どういう原理かは分からないが、どうやら俺が魔王になってしまって、尚且つレベルが一になってしまったようなのだ。
その原因は……言わずもかなこのヴァナルガンドなのだろうが、一体何故こんなことに。
聖剣と相対するであろう魔剣を使ったからか?
ならばもし今聖剣に持ちかえたらどうなる?
……もしかしたらバグが発生するかもしれない。
兎に角今はこのまま戦うしかない。
ドロップ率二倍だという位なのだから、アイテム出現にも役立つことだろう。
先程までの余裕はどこへやら。
俺は襲い来るコボルト二体に翻弄されながらも着実に剣を当てて行き、ゲージを削って行く。
どうやら当てた部位でのダメージ変動は無いが、当てる力や接触している時間でダメージを与える度合いに変化が生じるようだ。
つまり突きの連撃は大技一発に相当するか、という程度にしかダメージを与えられず、大剣であるヴァナルガンドでそれをするのは無謀。
俺は一撃一撃を丁寧に力を込めてコボルトを斬り、十回位斬ったところでゴブリンは倒れ、砕け散る。
コボルトの角【希少】 ☆1
コボルトの角【希少】 ☆1
どうやったら一本角から二本でてくんの!?
後希少って何。高く売れるってことか? 獲得金二倍って売ったら倍の値段で売れるとかそういうこと?
魔剣ヴァナルガンド。色々アウトだった。
いや、だったじゃない。まだ後一匹残っているのだから。
俺は残り一匹となったコボルトを倒したところで腰を下ろした。
二匹を相手にしていた時よりは楽に倒すことが出来たが、連戦であることには変わりない上に先程までとは全然違う、思いがけなかった分鉄の剣で戦っていた時よりも苦労して漸く倒す結果に相成った。
コボルトの角【希少】 ☆1
コボルトの心【希少】 ☆2
……心?
ヴァナルガンドで倒した魔物から出て来るアイテムが例外無く【希少】となるのは分かった。
ただ今回はコボルトの角の他に、コボルトの心というアイテムが出て来た。
心って物なのか?
見た目はハートで、色はコボルトの毛と同じ茶色。
持ってみるとそれはわずかな温もりがあり、ちゃんとした物質であることが分かる。
星が二つであることから角よりも上の物であることが分かるし、これを実験に使うのは止めておこう。
他のコボルトの角は、苦労して手に入れたが実験材料とする。
とそこで、俺の現所持金が二〇円であることを思い出す。
……一個だけ。後一個だけな。
そう心の中で念じつつ、コボルトの角を圧縮、何度か段階をつけて圧縮して行き、自由な大きさで止めることが出来るのを確認し、最終的には先程と同じBB弾位の大きさまで縮める。
後、圧縮すると何故か必ず球体になるらしい。
圧縮物質 ☆1
既に別の物質である事を視覚的に認知させる為か。
……まあその辺のことは置いておこう。
それより今は、と先程の圧縮物質を取り出し、二つを圧縮させた時と同様に浮かび上がらせる。
ただ今度は圧縮では無く変形なのだが。
それもただの変形ではない。
いや、それは変形という名の、合成だ。
俺は合成物質二つを一つにし、合成物質は接合部分など無くしっかりとくっ付きき、手に収まる。
重さはコボルトの角二つ分。
大きさは変わらずBB弾。
圧縮物質 ☆1
一つ合せた程度じゃ何も変わらないか。
今度はそのBB弾位の大きさしかない圧縮物質を変形させて行く。
そして最後には、剣の形状を持たせた。
無論、圧縮している物質の量が量である為に短剣にも届かぬ小さなものだが。
コボルト剣もどき ☆1
コレが、最終実験結果だった。




