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111Labirinto  作者: 白米
第一章 喪失者
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012 最初の晩餐会

 部屋に戻った後、俺はカレーを作り始めていた。

 まさか数十分の内に稼ぎのほとんどが消え失せ二十円しか残らないとは夢にも思わなんだが、また明日頑張って稼げばまあ問題も無いだろう。

 今日は特に魔法を使ってもいないから倒れることも無し、朝から潜ることが出来るだろうから今日以上稼ぎも期待出来るだろう。


「~♪~~♪」


 野菜を切っていた時はオーディオプレイヤーの曲に耳を傾けていた俺だが、タマネギを炒める頃には耳を撫でる音楽に触発され、自分で歌っていた。

 鼻歌に歌詞がついた位の本当に自己満足な歌唱だったが、唄っている曲は何故知っているのか分からない。

 誰かに怯わた気もするのだが、それが誰だったのかと聞かれたら首を傾げるしかないだろう。

 今はもうカレールーも投入完了し、かき混ぜながらに煮込んでいる感じだ。

 換気扇を回しても、狭い部屋の中にはカレーの良い匂いが漂い始め、今米も炊けた。

 ちなみにお米は『ホシヒカリ』。高かったがカレーを美味しく頂く為の必要経費だと思われる。


 さて、後は……。



「ただいま」


 と、そこにどうやって扉を開けたのかは不明だがチャイムでの呼び出しも無くエンゼルがやって来た。


「あ、おかえりー。牛乳買って来てくれた?」


「ハイハイ、買って来たわ」


「ありがと、もうすぐご飯出来るから手を洗ったら座って待ってなさい」


「分かったにゃ、母さん」


「誰が母さんか」


 エンゼルはキッチンに牛乳を置くと、キッチンの水道で布の手を洗って若干絞ってから卓袱台の前に枕【爆睡】を置いてその上に座る。

 後で枕にカレーを溢さないよう注意しなきゃ。

 そんなことを思いつつ、エンゼルが買って来た牛乳をカレーに投入し、かき混ぜる。


 さっき、調味料とは名ばかりのスパイスも買ってきたりしたのだが、味見した限りどうにもこのカレーはカレールーだけで十分すぎる程に完成系で、余計な手を加えてしまうと調和が崩れてしまいそうな感じだった。

 まあ流石に牛乳とかそっち方向の材料は無いし、少し攻撃的過ぎるカレーをマイルドにする為に入れたけど。

 再度味見をしながらに微調整。


 うん、美味しい。


「~~♪~~~♪」


「母さん歌上手」


「ありがとー」


 でも母さんって呼ぶなー。

 せめて父さんにして欲しい。性別の壁は越えられんのだよ、ワトソン君?



「…………。……ぃま」


 今度も呼び出しは無かった。そこに居たのは最強さんで先程とは服装が、というよりTシャツが変わっていて『きょうのこんだて』と文字がプリントされていた。

 

「おかえり、最強さんも手洗って座ってて。もう出来るから」


「………………。」


「誰が母さんか」


 どいつもこいつも、せめて父さんにして欲しいという俺の気持ちを汲んではくれないのか。くれてないんだよな。

 ま、良いけどね。……っと、そろそろ良いかな?


 呼ばれ方なんて今は横に置き(その結果崖下に落下し)、俺は皿にご飯をよそってその上にカレーを乗せる。

 そういえば、カレーを右か左、どちらにかけるかっていう議題が前にあった気がする。

 正直、俺からしてみれば皿逆にしたら向きも逆にならないか? と思うのだがそういうことでもないんだろう。


「…………。……」


「ん、じゃあコレ運んでくれる? 最強さんとエンゼルさんの分」


「………………。…………」


「はいはい良い子良い子」


「……。………………」


 誰が母さんか。

 最早口に出しもしないが、一応心の中では指摘しておこう。

 俺も、自分の分とスプーンを三本持って茶の間へ行く。

 食器は新品だったが、水を入れて煮る段階、まあルーを入れる一行程前に一応全部洗って置いたから清潔そのものだ。

 何と無く、買った食器をそのまま使う気にはなれなかった。

 水が使えるなら清潔を心がけた方が良いに決まってるし。



「いただきます」

「いただくわ」

「…………。」


 全員分のカレーが卓袱台の上に乗り、食べる準備が終わると誰からということもなく全員が両手を合わせて『いただきます』をしてからスプーンを手に取りカレーを食べ始める。

 そういえばエンゼルは人形なのに普通のご飯を食べられるの? なんてそんな疑問は二秒後に解消された。


「お、美味しい! カレーがこんなに美味しいにゃんて……! 流石母さんだわ」


 誰が母さんか。

 カレーはちゃんとエンゼルの口に吸いこまれていった。

 一体全体なんなのだろう、エンゼルというこのウサギの人形は。


「…………。………………」


「あ、こらニンジン残さない。最強さんなんでしょ? ニンジンにも打ち勝ちなさい」


「………………。」


 俺のカレーのニンジンは小さく切ってある。

 煮込みものなんだからもっと大きくても良いのだろうが、俺の中で何かが言うのだ『カレーに入れるニンジンはいちょう切り』と。

 結構薄目に切ったんだからそれ位食べなさいと、言いたい訳なのだよ。


 最強さんは俺に指摘されて躊躇しながらも最終的にはニンジンを口に入れる。


「……。………………」


「えらいえらい」


 でも俺、母さんじゃないから。しつこいようだけど。

 ニンジンを食べた最強さんの頭を撫でる俺は内心、見た目子供の最強さんだけにマジで親になった気分だった。

 俺もカレーを口に運び、朝感じた不完全燃焼を解消する。

 やっぱりカレールーはカレーにしてこそ完成する。

 ……間違っても野菜炒めの調味料などに使うべきじゃないな。

 あれはあれで美味しかったけど、コレを食べたらそう結論付ける以外に選択肢は生まれないと思う。


 …………さて。


「で、そろそろ教えてくれないか? エンゼルさんは何しに来たんだ?」


 『ただいま』って言われたせいか何かナチュラルに招き入れちまったけど、何故ここに居るのか俺は知らない。


「たまたまこの辺を歩いてて、たまたま……本っ当にたまたまこの家の前を通りかかった時に良い匂いと良い歌声が聞こえてきて『こりゃいかなきゃアカン』って思ったから。……決してその後どうなったか気になった訳じゃないわ。母さんの事なんか全然気になってないし。ホントにゃし」


 要するに心配してきてくれたと。

 ……巣に戻っても呼び方はお母さんなのか? 元に戻るよな? 呼び方…………ん!? そういやエンゼルに名前で呼ばれた事ってあったっけ……?


 ……無いかも。

 …………定着しないことを祈るしかない。


「最強さんは?」


「…………。……」※


 ※訳:カレー食べたし。


 えぇと、言葉のキャッチボールにはなっていないが要するにご飯目当てと。

 ……俺んちじゃなかったらどうするつもりだったんだろう。


「じゃ、そろそろ本題に入るわ」


「あ、やっぱ普通に用事もあるんだな」


「そりゃあるわ。無かったらワタシ変な奴になっちゃうでしょ」


 いやー……既に大分変な人だと思うが……?


「そろそろ発症する頃だと思って確認に来たのよ」


「発症って……この町には流行り病でもあるのか?」


「そんなのは無い。あってもインフル位よ。……その調子じゃまだ見たいね」


「一体何の話だ?」


「異能のこと。アンタ等はスキルって呼んでたわね」


「スキル……?」


 聞いたことがあるような……無いような?

 随分とあやふやな感じだがそんなものもあったような気がしないでも無い。

 …………あー少し思い出した。

 確か神から授かるギフトの一つだったか? でも(確かではあるが)これって……。


「スキルは一人一つだろ。記憶は無くともここに来る以前から既にあるんじゃないか?」


「あー、だから異能っつってんでしょ。スキルはあくまで近いだけ。説明すんのダルイから一緒にしたけど……余計メンド臭くなったわ」


 このウサギ……。

 なんで一々説明を端折ろうとするのだろう。

 何も知らない此方側からしてみれば迷惑極まりないぞ。



「……じゃ、異能って何」


「んー……スキルと違い凡庸性の高い魔法とは異なり魔力を使わない能力……ってトコか」


「……凡庸性?」


 明らか特殊能力なのに煩悩性とかいう言葉使われてるし。


「あーっと、スキルみたくチート臭い力は無いってこと。たまにレアモノっつって強い奴もあるけど、自分と同じ異能を持つ奴ってのはごまんといる。まあ凡庸性ってのはそういうことかね」


 ふーん成程……つまり(元)天界人たる俺は未だ知らぬスキルの他に特殊能力が手に入るって訳か。

 発症とか言ってるし偶発的にいずれは。


「それって発症する時どうなるんだ?」


「ぶっ倒れる」


「は?」


「だから、ぶっ倒れるんだってば。にゃんか魔力とか根こそぎ持ってかれるっぽいわよ」


「へー…………昨日有ったわ」


 リットゥのせいじゃなかったのか。

 まあ考えてみればもしリットゥを使って魔力切れを起こしていたのだとすれば奇妙なタイムラグとかがあったことになる訳で、別の理由がある可能性も考えてみればあったのだろう。


 というか最強さん黙々とカレー食い過ぎだわ。

 完全無欠に無表情なのに意気揚々としてるし。

 ……食いしん坊キャラというよりはなんというか、『久し振りに楽しい夕食で嬉しい、カレーも美味しい』っていう感じか?

 伝わらない例え話だけれども。


「あらそうなんだ。で、どんなのだった?」


「さあ?」


「首かしげてないで自分の能力見て見なさいな」


 能力を見るって……そんなことも出来るのか?

 名前とかレベル見るのって感覚でやるからやり方聞いても分からないだろうし、自分でやってみるしかなけど。


 んーと……俺の能力……能力……。



 千壌土 久遠 19歳

 職業:勇者 Lv21

 スキル『物質圧縮・変形』『???』



 出来た。どうやら異能もスキル扱いらしい。

 ……あれ、二つ目名前分からん。


「どうだった?」


「物質圧縮・変形だった。もう片方の……箱庭エデンに居た時に得たであろうスキルの名前が『???』になってる」


「???ねぇ……ま、それはイイわ。どうせ分かんないだろうし」


 まあそうだろうが、俺の事なのに結論を出すのがエンゼルっていうのはどうだろう。


「それより物質圧縮・変形ねぇ……これまた微妙な……制約はどんな感じなのさ」


「制約?」


「どの位の大きさまで圧縮できるとか、変形できるものとか。異能は縛りが多いのが殆どなのよ」


 そんなのもあるのか。

 というか考えただけで答えが出て来るとかまるで自分辞書だな……俺的には知らない物を知っているきがして気持ちが悪いぞ。

 いや、中途半端に記憶が無いせいで最近結構頻繁に味わってるからそうでもないか。


 閑話休題。

 今は異能の制約だったか?


「んー………………と、無いな」


「は?」


「如何なる物を如何なる大きさにでも圧縮可能とし、また変形できない物質は存在せず、圧縮された物質を引き延ばすことも可能としている。強いて言うなれば、生き物を圧縮することは出来ないっていうのが制約みたいだな」


「……そう来たか」


 何がだ?


「久遠、喜びにゃ」


 えぇと、お母さんではなくちゃんと名前で呼び方が定着しそうなことにか?

 まあそれは確かに喜ばしくあるが……って、違うか。




「アンタのそれは、レアモノよ」


 そう言ったエンゼルの顔は皮肉交じりに流石勇者と言っているようで、アロンダイトのことと言い優遇され過ぎているのではないかと俺はかんがえさせられるのだった。



 ……最強さん、おかわり欲しいのか?

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