少し動揺しただけだ
「お兄ちゃん、冒険しよ!」
僕が水分を補給しようと水を口に含んだ直後、妹のルアに思い切り後ろから抱きつかれる。そのまま僕は勢いよく水を吹き出してしまった。子供とは当たり前が欠如しているものだ。水を含んだ人に抱きつくと吹く、当たり前だが似たような経験をしたことがなければわからなくたって仕方はない。
「あは……あははは、ごめん」
ルアは申し訳なさそうに僕から距離を置くと、誤魔化すように笑った。自分の間違いをすぐに謝れる人間は子供も大人も関係なく、優秀で好かれる存在だ。だから僕はルアがそんな妹に育ったことを嬉しく思っているはずだ。
すると何かに気づいたようにルアは顔を僕に近づけてくる。
「あれ? ちょっと顔赤くない?」
「気のせいだろう」
「いや赤いって! お兄ちゃんが照れてるとか初めて見たぁ!」
するとルアは嬉しそうに騒ぎ始めた。僕は照れてなんていない。ただ妹に抱きつかれて水を吹き出した経験は無かったため、少しだけ動揺しているだけだ。この人生で初の失態かもしれないな。
そのままルアは頭に手を伸ばすと撫で始めた。
「可愛くていいこいいこしたくなっちゃう」
僕はもうめんどくさくなり、最初に言っていた冒険の話について問うことにした。
「それで、冒険って?」
「そうそう、最近本で魔王を倒した英雄の話を読んだの!」
魔王は定期的に現れ、一度倒してもまた別の魔族が魔王になる。ただ、一度倒せばその後数百年くらいは安泰になる故、倒したものは英雄と呼ばれる。ちなみにこの英雄は僕だが。
「それでね、ルアも魔法でわるーい魔王を倒して英雄になるって決めたんだ!」
「それは面白そうだね」
「うん! だから一緒に特訓しに行こう!」
ルアは返事を聞く前に無理やり僕の体を持ち上げ、お姫様抱っこしてきた。そのまま森の方へ走り出す。魔王は8個前の人生で倒したから今の時代はもういないのだが。まあ、あそこは魔物は滅多に出ないし大丈夫だろう。にしても絶対に僕と行きたいところとかあると、お姫様抱っこしてくるのやめてほしい。
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「お、いいのある」
ルアは自慢げにこっちに近づいてくると、僕にとんがった槍のような形の木の枝を見せつけてきた。あれから、森についてルアがまずは武器調達だと言って、木の枝を探し始めたのだ。木の枝で魔王狩りとかどこの最強槍使い様なのだろうか。
「危ないから先は折ったら?」
「ば、バカにしないでよっ。ほら先に進むよ!」
半ば強引に僕の手を取ると、ルアは走り出した。ここらはある程度人が通った痕跡があり、歩きやすいので転ぶ心配はないだろう。そのままルアに引っ張られるがままついていったのだが、だんだんと森の雰囲気が変わってくる。
「ここらは少し危ないぞ」
「関係ないもん!」
ルアは少しいじけているようで、危ない方へとガツガツ進んでいく。ここら辺は人が通った後がなく、なんとなく嫌な感じがする。
「あ、なんかある!」
森を進んだ先には怪しげな門があった。骸骨の頭で飾られた扉に不愉快な異臭。確実に危険な場所であるだろう。
「ルア、すぐに下がれ」
「嫌だねっ! お宝あるかもしれないんだし。ルグは怖いなら帰っていいよっ」
どうやら僕が心配して何度か声をかけたのが良くなかったみたいだ。ルアには臆病者だと言われて馬鹿にされているように聞こえたのだろう。するとルアは1人無防備に走っていってしまった。さて、どうしようか。まあ一応妹だし助けるか。
僕はそこら辺にあった木の枝を拾い上げ、あくびをしながらも門を通った。




