↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/10

特別は希少でなければならない

 もし、死んでも転生できるかもしれない。それは死んだ人しか分からないし、人間の到達できる領域ではないだろう。そして転生は強制なら、人はどうなっていくだろうか。そこには虚無が待っている。ナイフで刺されようが何とも思わないし、美味しいものを食べたって何にも感じない。

 心、というものは見えないが確かにあるのだ。僕の転生では見た目性別は変化しても心は変化しない。歳をとるにつれ見た目はわかりやすく変化していく。でも心は分かりにくい。人間は色々なことに適応する。慣れる。仕事に慣れ、生活に慣れ、環境に慣れ、そして死にも慣れる。

 するとどうだろう。何もしても全て知ってるから、何も感じない。刺激が何もない。今はまだ42回目だ。でもここから100、1000、10000、となりこの頃にはもう人間でいられるかどうか……。

 神がお前を転生されると言ってきたなら、神に「もう殺してくれ」とでも言ってなんとかできたかもしれない。でも僕の場合、なんの忠告もなくいつの間にか転生しているだけ。止める手掛かりなんて微塵も無しだ。何億年掛けたって何にもならない。だからこの転生もまた、意味を成さずに終わるのだろう。


*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*◆*                         


「おはようっ、お兄ちゃん!」


 物心というのは不思議なものだ。突然芽生えるわけではなく、だんだんと芽生えていく。だが、僕の場合は割と突然来る。そしてそれは今なのだろう。

 体の上には元の世界には絶対にいないほどの美少女が座っていた。普通はこんな妹はいない。そう、普通は。僕は合計で何千年も生きてきた。そしてその中のほぼ全てがこの異世界での時間。それでも最初というのは大きなものだ。僕にとっての普通はずっと同じまま。異世界はやはり異常である。 


「おはよう」


 僕は体に乗られていながらも、無理やり体を起こす。するとルアは声を上げて体制を崩し、ベッドから転がり落ちていった。妹は特別な存在である。でも特別、というのは希少でなければ成立しない。1億人中、9999万人特別だとして本当に特別なのはどっちだろうか。僕にはすでに53人の妹がいる。ルアはその中の1人でしかない。


「ちょっとぉ〜、お兄ちゃんひどいよー」


 ルアは体を起こすと、内股で座ってふざけるみたいなにうわーんと泣き真似をする。僕はすでにほとんどの妹の名前を忘れた。仮に僕がどれだけ妹を愛そうと人間には覚えられる限界があるのだ。そう思えば思うほど、妹を大切に思うことができない。僕ができるのはこの人生が僕にとって刺激的なものになることを願うことだけだ。


「ルア〜? お兄ちゃんまだ起きないの〜?」


 下の階から母の呼びかけが聞こえてくる。それを聞くとルアは名残惜しそうに泣き真似をやめて、僕の手をとって起き上がらせる。


「今行く〜!」


 そのまま引っ張られるがままに階段を降りた。するとそこには朝食が用意されていた。僕の家は割と裕福な方だ。この世界で2階建ての家はそう多くない。都会ならたくさんあるかもしれないが、この田舎では僕たちだけである。僕は今まで貴族になったこともあるし、食べ物を買うことすらできない貧乏人になったこともある。だからこそこの世界がどれだけ腐っているかよく理解しているのだ。


「ルグ、もう明日で4歳でしょ?」


 そう、今違和感を感じた人は少なくないだろう。僕は4歳だ。ならあの妹は何歳なんだ? と。もちろん、3、4歳であそこまで流暢に喋れるわけもない。あいつは僕より年上なのだ。僕は落ち着いている、故に大人っぽいらしい。そこで母さんや父さんが子供っぽいルアを妹みたいといじった結果、本当に妹として接してくるようになったのだ。いわゆるノリだ。異世界はノリのスケールもまた大きい。ちなみにルアは今年の誕生日をすでに終え、6歳である。


「ルアも行きたい学園をそろそろ決めなさい?」


「ええ〜、だってないんだもん」


 ルアはめんどくさそうに肘をついてその手に顔を乗せた。

 この世界では10歳になると何かしらの学園に入学するのが一般的だ。相当貧乏でもない限りは学園に行き、色々な知識を学ぶ。元の世界でいう高校に近いだろう。

 するとルアは何か思いついたように顔を上げ、キラキラした目で僕を見た。

 

「ねえねえ、お兄ちゃんはどんなとこ行きたい?」


「…どこでも」


 僕は有名どころの学園は大体もう卒業している。それにどこに行ったってどうせ何も変わりはしないだろう。


「はいはい、すぐにお兄ちゃんに助けを求めないの」


「私、絶対お兄ちゃんと同じ学校がいいの!! だからこれはお兄ちゃんの行く学園を決めることでもあるんだよ?」


「君の好きなところに行けばいい。ついてきて欲しいならついて行こう」


 僕がそういうと、母さんはそんなのダメよと言い始める。だがルアがそれに突っかかり、言い合いを始めたので僕は静かに部屋に戻った。今回の人生は一体どんな結末を迎えるのか。僕が人生で唯一刺激を得られるタイミングは終わりの瞬間。その時だけは生きている実感を得られるのだ。

 果たして僕がこの永遠に続く地獄から抜け出せる日は訪れるのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。