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元・傲慢令嬢は二度目の人生で平穏に暮らしたい! 〜地味な加護だと思っていたら、神の権限を解読できる力でした〜  作者: 星きあさ
第2章 魔法学園編

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第59話 学年末


 学年末試験の結果発表の日。

 この結果をもとに、二年生のクラス分けが決まる。


 掲示板の前には、生徒たちがひしめいていた。


 張り出された名簿を前に歓声を上げる者もいれば、肩を落として立ち尽くす者もいる。


 ざわめきの中、リディアはカレンと並んで、自分たちの名前を探した。


「ありました! 六位でした!」


 先に自分の名前を見つけたカレンが、ほっとしたように息をつく。


「私もありました。無事、Aクラスに残れますね」


 リディアも小さく肩の力を抜いた。


(四位。前回よりひとつ順位を上げられてよかった)


 二年生でも、Aクラスに残ることが決まった。


 さらに視線を滑らせていけば、見慣れた名前が並んでいる。


 一位 トビアス・アイゼン。

 二位 クラウス・レオンハルト。

 九位 セドリック・ヴァルデック。

 十三位 カイ・ルシアン。

 十四位 フィオナ・ヴァイス。

 十九位 ローレンツ・グラウ。


 全員、次の学年も同じAクラスだ。


「やりましたね、リディア様!」


 カレンが弾んだ声で振り向く。


「ええ。本当に」


 安堵と嬉しさが入り混じり、リディアの頬も自然と緩んだ。


 近くにカイの姿を見つけ、リディアは声をかける。


「カイ殿下、二年生でも同じAクラスですね。よろしくお願いいたします」


「リディア嬢、二年生も同じクラスになれて嬉しいよ。また、いろいろ教えてもらえると助かる」


 カイが目を細める。


 少し離れた場所では、フィオナが掲示板を見上げたまま、何度も目をこすって自分の名前を確認している。


 隣にいるローレンツが、そんな彼女を微笑ましそうに見守っていた。


「フィオナ様」


 リディアが声をかけると、フィオナははっとして振り返った。


 次の瞬間、その瞳がぱあっと輝く。


「リディア様! わ、私……またAクラスにいられます……!」


「ええ、おめでとうございます」


「ありがとうございます……っ。私、本当に、本当に嬉しくて……!」


 フィオナはリディアの手を取ると、その場で子供のようにぴょんぴょんと跳ね始めた。


 突然のことに、ローレンツやカレンだけでなく、近くにいた生徒たちまで驚いたように振り返る。


 全身で喜びを表すフィオナの姿に、リディアはこらえきれず声を立てて笑った。


「ふふふ、フィオナ様。皆様が見ていますよ」


「だ、だって……! また皆様と同じクラスで過ごせるんですもの!」


 弾んだ声で言うフィオナを、ローレンツがやんわりと窘める。


「お気持ちは分かりますが、フィオナ様。少し落ち着いてください。少々はしたないですよ」


 そう言われたフィオナは、いたずらが見つかった子供のようにぺろりと舌を出した。


「また皆、同じクラスだね。二年生も楽しく過ごせそうだ」


 声とともに、クラウスがこちらへ歩いてきた。


 その隣には、いつものようにセドリックもいる。


「勉強会のメンバーが全員そろっていてよかったよ」


 セドリックの言葉に、リディアは少し驚いた。


「セドリック様が勉強会の皆様に仲間意識を持っていてくださったなんて、少し意外でした」


「リディア嬢。俺を冷たいやつだと思っているだろ」


「冷たいとは思っておりませんが、クラウス様のことばかり考えていらっしゃるのかと」


「もちろん主君が一番だが、仲間も大事だ」


 セドリックの意外な一面に、リディアは少し感動した。


 そこへ、トビアスも人混みをかき分けるようにして近づいてきた。


「おめでとう、皆。よく頑張ったね。よかったよ、また全員同じクラスになれて。正直、誰かAクラスから落ちたら、どんな顔をすればいいのかと少し不安だったんだ」


「相変わらず失礼ですね」


 カレンが呆れたように言うと、トビアスは肩をすくめる。


「だって、僕が落ちる心配はなかったからね」


 リディアも何とも言えない顔でトビアスを見る。


 文句のひとつも言ってやりたかったが、実際に学年一位なのだから言い返しづらい。


「トビアス様には感謝しております。先生よりもトビアス様の説明の方が分かりやすいところも多くて、何度も質問してしまいました」


 フィオナが素直に礼を言うと、トビアスの表情がわずかにやわらいだ。


「役に立てたならよかったよ」


「感謝なんてしなくていい。トビアスは人に物を教えるのが好きなだけだから」


 セドリックが横から口を挟む。


「確かに。否定はしない」


 トビアスはあっさりと頷いた。


 そんな何気ないやり取りが、穏やかで心地よかった。


(この穏やかな時間を、ずっと守りたい)


 学年末の結果発表の慌ただしさが落ち着いた頃、一同は教室へ戻った。


 担任から一年を締めくくる話や休暇中の注意事項を聞けば、いよいよ長い夏休みに入る。


 窓の外では、初夏の風が木々の枝を揺らしていた。


「……この教室とも今日でお別れですね。この一年は、皆様のおかげで本当に楽しかったです。明日からしばらく会えないなんて、想像できません」


 少し寂しげな声でフィオナが言った。


 あまりにも素直な言い方に、教室の片隅に集まっていた一同の空気が、ふっと和む。


「フィオナ様は、夏休みの間はご実家へ帰られるのですか?」


 カレンが尋ねる。


「はい。私は寮暮らしなので、半年ぶりに家族に会えるのは嬉しいです。でも、皆様と長い間会えなくなるのは、やっぱり寂しいです」


 フィオナは眉を下げて唇を尖らせた。


「もしよろしければ、夏休みのご都合がよいときに、うちの領へ遊びに来ませんか?」


 リディアがそう言うと、フィオナはぱっと顔を輝かせた。


「いいのですか? ぜひお邪魔させていただきたいです!」


「えっ! 私もお邪魔させていただきたいです」


 カレンまで目を輝かせる。


「ええ。ぜひカレン様もいらしてください。詳しい日程は、手紙で相談いたしましょう」


「ありがとうございます! 楽しみです」


 カレンとフィオナは手を取り合って、嬉しそうにはしゃいでいる。


 予想以上に喜んでくれた二人の姿を見て、リディアまで嬉しくなった。


「俺もまたエルヴィン領に行きたかったんだけど、この休みは帝国へ戻らないといけなくてさ。行けなくて残念だよ」


 カイが眉を下げて首を振る。


「ふふ、カイ殿下も、またご都合のよいときにいらしてくださいね」


 リディアが慰めるように声をかけると、カイは表情を明るくして頷いた。


 クラウスも、そのやり取りを眺めながらふっと表情を和らげる。


「休み明けに、また同じ顔ぶれで集まれるのは私も楽しみだ」


 セドリックも頷いた。


「二年生になれば、課題も実習もさらに厳しくなるだろうな。今のうちに、穏やかな時間を噛みしめておいた方がいいかもしれない」


「セドリック様、その言い方ですと、夏休みが最後の平穏のように聞こえて不吉です」


 カレンが言うと、セドリックはほんの少しだけ口角を上げた。


「カレン嬢も、今を楽しんでおくといい」


「まあ、怖い……」


 教室の隅で、また小さな笑い声が上がる。


 賑やかなやり取りが一段落し、生徒たちがそれぞれ帰り支度を始めた頃。


 人の流れが緩んだ隙をついて、トビアスがそっとリディアの方へ身を寄せた。


 他の面々には聞こえないよう、ごく低い声で囁く。


「フィオナ様には休み中も護衛を付けておくよう、セドリックに頼んでおいた。そういう手配は、ヴァルデック家の方が詳しいから」


 リディアの表情が、ごくわずかに引き締まる。


「……ありがとうございます」


「ダンジョン探索実習の件の直後だ。向こうもしばらくは大きく動かないと思うけどね」


「そうですね」


 二人は周囲に怪しまれないよう、それだけで話を切り上げた。


(どうか、この夏も無事に過ぎますように)


 願いに近いその思いを声にはせず、そっと胸の内に沈める。


 ふと視線を上げると、ローレンツと目が合った。


 彼は変わらぬ様子で、小さく微笑みかけてくる。


「ローレンツ様は、領地に戻られるのですか?」


 リディアが尋ねる。


「いえ。王都で少しやることがありますので、夏休みもこちらで過ごす予定です」


「そうなのですね。では、王都でちゃんと夏休みを満喫してくださいませ」


「ははは、分かりました。ちゃんと夏休みを楽しみます」


 ローレンツが目元をやわらげる。


 その柔らかな表情は、学園で何度も見てきたものと何も変わらない。


 礼儀正しく、相手を安心させる、いつも通りの顔。


 だからこそリディアも、自分の表情を崩さないよう気をつけた。


 ローレンツは聡い。


 こちらのわずかな変化にも、きっと気づくだろう。


 これまで通りに言葉を交わし、これまで通りの表情を保つ。


 心の奥に残る小さな疑念は、決して表に出してはいけない。


「では、ローレンツ様も、どうかお体にお気をつけてお過ごしくださいませ」


 リディアはいつも通りの微笑みを浮かべて、そう声をかけた。


「ありがとうございます。リディア様もよい休暇を」


 ローレンツはいつもと変わらない調子で答える。


 その笑顔を見た瞬間、リディアの胸に、なんとも言えない複雑な感情がせり上がる。


(この笑みに救われたときもあった。それなのに――その笑みの奥で、あなたはいったい何を考えているのですか?)


 リディアは平静を装いながら、静かに思う。


 少なくともローレンツの前では、今よりもっと上手く、自分の内面を隠せるようにならなければならない。


 こうして、それぞれの思いと秘密を胸に秘めたまま、夏休みが幕を開けようとしていた。


 

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