↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マキナのマホウ -machina magia-  作者: 今泉
machina magia
32/34

31 本当の気持ち


 マキナは淡々と語った。一人の男の物語。それはあまりにも無情。受け入れがたい過去(みらい)。しかし、それが真実であるということは今目の前に存在するマキナが証明している。


 マキナは未来の俺が創った。未来の俺が、白羽新が愛する家族を失った絶望を糧に創り上げたまた一つの愛のカタチ。それがマキナ……アイリスだった。


 信じがたい、度し難い。そんな悲劇を語ったマキナの顔には悲哀の表情が浮かんでいた。初めて会った時よりもずっと、人らしい表情だった。


「マキナは……俺が創ったんだな」


 マキナはこくりと頷く。それだけで、十分だった。


 カチコチと時計の音だけが響く。五十実とマキナと俺の三人が揃っていながらこれだけ静かなのはいつぶりだろうか。

 なんと言えばいいのかわからない。何を切り出せばいいのかわからない。そんな中、先に口を開いたのは五十実だった。


「……そっか。未来の私は死んじゃったんだね。そうして、先輩が私の……私たちのためにマキナを創ったんだ」


 マキナが語った物語を確認するように繰り返す。五十実にしても受け入れがたい出来事のはずだ。未来の自分が若くして娘と共に死んでいるなんて。五十実の感情を推し量ることは俺には出来ない。

 俺が何か言わなければ、そう思案していると程なく再び五十実がやんわりと明るい声で切り出した。


「でも、それはマキナがいない未来の話なんでしょ? 今はマキナがいるし、事故で死ぬのがわかってるんだったら道に気を付ければいい。それがわかってるだけで、未来は変えられると思うんだ」


 五十実らしい前向きな答えだった。それだけで俺は救われる。


 未来が変えられるものなのかどうかもわからないが、少なくともマキナが生まれた未来と俺たちがいる現在(いま)は違う。

 マキナの話では俺が五十実の過去を知ったのは五十実が大学を卒業する辺りの話らしい。だが現在卒業までまだ二年ほどあるが、現時点で俺は五十実の過去を知ることが出来ている。それだけで未来が変わっているともいえる。

 だとすれば五十実言う通り、未来は変えられるのだろう。凄惨な未来を回避できるかもしれない。いや、絶対に回避しなくてはならないんだ。


 俺は隣に座る五十実の肩を掴み向き合う。それは覚悟の表れだった。


「そうだ、未来は変えられる。お前が死ぬ未来なんて俺が認めてやるもんか。俺が絶対死なせやしねぇ」


 目と目が合っていた。気恥ずかしさなんて感じない。もう弱いところなんて見せない。絶対に、こいつは俺が守ってやる。俺はここにそう誓った。

 五十実は俺の言葉(ちかい)に対し、返事の代わりに顔を猛烈に紅潮させていた。


「は、はひぃっ、そ、その、せんぱっ、そ、それは……」


 五十実にしては珍しく歯切れが悪い。わたわたと手が動いている。俺はその理由を遅れながらに理解した。


「……はい……、よろしくお願いします……」


 少しばかりうるんだ瞳で見つめられる。頬は赤く染まり口元は手で覆われていた。これは間違いなく……。


「……告白、成功? アラタ、マイ、おめでとう」


 そういうことになってしまうらしい。

 

 状況を理解した瞬間、俺はこれまでに感じたことが無い程に顔に熱が集まってくるのを感じる。心臓が異常なほどに早鐘を打ち、手に汗がじとりと滲む。

 

 俺は今、五十実に告白をしたのか?


 少し前までは五十実をこの手で守ることしか考えていなかったはずだ。なのにどうして今はそんなことを考えている?

 冷静に分析しようにも頭がうまく回らない。目の前の五十実の顔を見ていると何も言葉が出てこない。今までみたく、そんなわけないだろと言いながら頭を軽く小突くことが出来ない。その理由はいたって単純なものだった。


 俺は、五十実とずっと一緒に居たい。五十実と一生添い遂げたい。そう思っているから。

 だから、それは勘違いなどではなく、俺自身の本当の気持ちなのだろう。

 俺は五十実舞衣が好きだ。だから、五十実の反応を見て、五十実の返事を聞いて、俺は心から嬉しいと思ったんだ。




 俺と五十実が落ち着きを取り戻すのに要した時間は体感的には長く感じたが、実際にはさほどかからなかったようだ。お互い、現(うつつ)を抜かしている場合ではないと理解しているからだった。


 マキナの語る未来の俺は、凄惨な終わりを迎えた。だがそれはある悲劇がきっかけとなり崩れた幸せの跡から生まれた物語だ。マキナが未来から来たことにより同じ未来へと向かうことは無くなった……はずだ。

 ならば、今の俺には何ができる。五十実を守り抜く。家族を守り抜く。そう誓った。だがそれ以外には?

 俺はマキナの顔を見る。するとマキナは俺を見つめ返し優しく微かに微笑んだ。やはり、人らしい表情をしていた。だからこそ、マキナが語った話の最後の箇所がより鮮明に浮き彫りになる。


 過去に送ればアイリス・コアの供給も途絶える。それはアイリスの有限を意味している。


 俺がずっと悩んでいた、そして考えないようにしていたことだった。それはマキナの原動力が尽き、マキナが機能を停止すること。いや、恐らくは機能停止では済まないだろう。

 マキナの体は全てアイリス・コアという物質で構成されていると思われる。つまり、マキナの中のアイリス・コアが尽きたとき、マキナは消滅してしまうのではないだろうか。俺は恐くてそれが聞けなかった。それをマキナ本人から聞きだすのはあまりにも残酷に思えたから。

 マキナは俺のそんな表情を読み取ったのかそっと俺の手に自分の手を重ねた。


「大丈夫だよ、アラタ。アラタにはマイがいる。マイにはアラタがいる。それだけで、私は安心できるから。だからどうか、私を想って悲しまないで」


 マキナ自身にもわかっているんだ。自分が有限であることを。それが残りどれだけのものなのかはわからないが、それでもずっと一緒というわけにはいかないのだろう。マキナにはそれがわかっている。それがたまらなく俺の胸を苦しめるんだ。


「……そんなこと言わないでくれマキナ。お前だって俺の家族なんだ。悲しむななんて、無理に決まってるだろ」


 我ながら、あまりに情けなく、人らしいことを言ったと思う。やっぱり、俺には親はまだ早いよ。マキナくらい大きい子供がいるような大人じゃない。だからこそ、マキナには待っていてほしい。俺も大人になるから。いずれ来るかもしれない別れの時に笑顔でいられるような大人にきっとなるから。だから、待っていてほしい。その思いはどうやら俺だけではないようだ。


「……マイ」


 五十実はマキナを抱きしめていた。五十実もまた、マキナが消えてしまうかもしれないということに気が付いていた。だからこその行動だろう。もうこれ以上大切なものを失いたくないという想いが、その背中越しに聞こえてくるすすり泣く声から感じ取れるようだ。


「……なにか、方法は無いの……? これからもずっとマキナと一緒に居る方法……」


 渇望だった。しかしマキナの首は残酷にも横に振られる。


「……私の体は全部アイリス・コアで出来てるから、それが無くなれば私は消えてしまう。あと……持って数日だと思う」


 マキナの声のトーンは次第に小さくなっていった。そんなにも人らしく成れたというのに、運命は俺たちを嘲笑うかのようだ。

 

「私の未来での記憶はパパによってアイリス・コアで封じられていた。そして私が生きていくたびに、能力を使うたびに、アイリス・コアは減っていった。きっとパパがそうしてくれたんだ。記憶を封じてたアイリス・コアが無くなるまで私が私の終わりに気付かないように」


 マキナは五十実の背中を優しく抱き目を瞑る。 

 未来の白羽新(おれ)はマキナを……アイリスを本当に大切にしていたのだろう。一秒でも長生きしてほしくて、少しでも自分の限界を知ってほしくなくて、だからこんな回りくどい真似をした。それが如何に一時しのぎでも、如何に不条理でも、そうせざるを得なかった。俺には理解できる。愛するものを悲しませたくないという気持ちが。


 俺は気付けば無言で二人を包み込むように抱きしめていた。今はただ、少しでも長く二人を守っていたかったから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。