27 マキナマギア
「マキナ……、何を言って……」
パパ、ママ。マキナが口にしたその二つの単語は紛れもなく俺達を指示しているように感じた。だが俺にはわからない。俺をパパと呼ぶのはまだいい。最初に俺を呼んだ時がそうだったからだ。だが五十実は? 五十実がなぜマキナにママと呼ばれる? 今まで普通に名前で呼んでいたのに。
その答えを求めるように、俺は思考を巡らす。しかし、一つの可能性に辿り着きそうになると理解を拒絶するかのように俺の思考は鈍る。いくら考えても納得のいく答えは出てこない。言い換えれば、納得のいかない答えなら存在するのだ。俺はその可能性を口にすることは出来なかった。だから、こう聞いた。
「……マキナ。お前は何時誰が作ったんだ?」
マキナはすぐには答えなかった。今までなら答えられる質問にはすぐに答え、答えられない質問にはわからないと告げるのがマキナだったのに。今はまるで本当に人間のように言い淀み、悩んでいるようにも見える。
マキナの表情は複雑なものだった。少し目を伏せ、どう言うべきか考えるような仕草。マキナが目を瞑ると黒髪がはらりと垂れ、それを右手でそっと払う。その一つ一つがマキナを自然なものと印象付けていた。そしてそれがどうしても、不自然に見えてしまう。
「マ、マキナー。いきなりママなんて呼ばないでよーっ。びっくりしたなぁもー……」
五十実の声は無理に平静を装っているようだった。五十実もマキナの変化に気付いた。それは俺の直観が的外れではないことを暗に示していた。本人がそう感じているのなら俺の勘違いではないのだろう。
マキナの今の表情。物憂げでどう切り出すべきか悩むような、それでいて僅かだが救いを求めるように細めた目。俺はそれに見覚えがある。そう、先日のクリスマスの日に俺に全てを伝えた一人の後輩にそっくりだったのだ。その既視感にある種の焦慮を覚えた俺はマキナの答えを待つ。マキナはまだ口を閉じたままだった。
少しの沈黙、俺はその中で答えを渇望する。そして俺達が息を飲む中、マキナは俺と五十実の目を見て意を決したように口を開いた。
私はパパに、アラタによって創られたアンドロイド。創られたのは今から
41年と25日後。
マキナの記憶は蘇っていた。そして、マキナはその記憶を、堰が切られたかのように溢れさせていた。
記憶は記録である。それは過不足なく存在し、けれども偏在する。
彼女の生みの親である人物、白羽新は彼女に自分の記憶を移植していた。それは失った全てを取り戻すため、愛しい全てを救うため、そして、全てを無に帰すためだった。
語られるは真実。消し去るは過去。生み出すは未来。現実を虚数とし、世界を描き換える力。それは人類が持つべきではない魔法。
それこそが、私の追い求めた愛。
まったく、"行き過ぎた化学は魔法と同じ"とはよく言ったものだ。作った自分で言うのもなんだが、本当にそう思うよ。だが、私はそれに縋るしかなかったんだ。それ以外の道は全て閉ざされてしまったのだから。妻を、娘を、妹を、家族を救うにはそれしかなかったのだから。
私の人生はまだ終わっていない。私の物語はまだ終わっていない。今の自分を消し去ってでも、やり直すんだ。世界を壊してでも、取り戻すんだ。
もう一度だけ、笑う彼女たちが見たいから。




