25 I
声が、聞こえる。
誰? なんて言ってるの?
わからない。でも、確かに聞こえてくる。
うまく聞き取れないほどに微かな波。
それでも私にはとても尊くて、愛おしいもののように思える。
水面に浮かぶように、波にもまれ漂うように、私の意識は揺蕩い続ける。
それがなんだか心地いい。瞳を閉じるといつか見た空が天蓋のように私の視界を覆う。
どうして、私はそんな言葉を知っているのだろう。どうして、こんなことを考えるのだろう。
それは、きっと誰かが教えてくれたから。
私はアンドロイド。パパによって造られた、パパの娘。
私の名前は■■■■。パパの名前は、
白羽 新。
私が初めて目を覚ました時、世界は眩しかった。その眩しさに私が目を細めるとすぐにその光に影が差す。ようやく目が慣れたころ、そっと目を開けるとそこには優し気な眼差しを向ける一人の男性の姿があった。
「やぁ、おはよう。私の声が聞こえるかな」
私はその声が目の前の人から発せられたのだと本能的に気付く。だから私はこう答える。
「おはよう。うん、聞こえる」
それが自然だと思ったから。何が正しいのかなんてわからない。どうすればいいのかなんてわからない。でも、私を感慨深げに見るその人の表情はとても穏やかだった。だから私は間違っていないのだと思った。
私は名前を与えられた。それがパパからの最初のプレゼントだった。その時の私は嬉しいという感情がいまいちわからなかったけれど、それもパパが教えてくれた。だから私はその時、嬉しいと思った。
パパは数えきれないほどたくさんのことを私に教えてくれた。身の回りの物のこと、あらゆる自然現象のこと、そしてこの世を生きる人のこと。その一つ一つが私にとって初めてで、新しかった。私はパパとの毎日が嬉しかった。
ある日、私はパパから告げられた。それは私の出生の秘密。私は誰なのか。何故私は生まれたのか。その真実はあまりにも残酷で、悲劇的なバッドエンド。そんなの、私はいやだ。パパもいやだったんだよね。だから、私は生まれた。運命を変えるために。
そう私は今、思い出したんだ。私が何故ここにいて何をすべきなのか、そのすべてを。
待っていてパパ。私が、私たちがパパを救うから。だからもう少しだけ、力を貸して。




