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Mission-50 『神と生者と一年間のプロローグ』


「髪よし!」


 ――ビシッ!!


「胸パッドとヘアピンよし!」


 ――ビシビシッ!!


「最後に制服よし!」


 ――ビシビシビシッ!!


 やってきました男の娘生活二日目。

 人間とは逞しいもので、俺は二日目にしてすでに女子の格好をするのに少し慣れ始めていた。

 窓から日差しが差し込む朝。そんな訳で俺は鏡の前に立ち、登校前の身だしなみチェックを行っている。容姿は昨日のままで問題ないと判断し、完全にそのままだ。

 あっ、当たり前だけど下着とかは新しいのに替えてるけどね。


「よしっ、完璧!」


 そして、再び完璧に女子高生に変身した鏡に映る自分自身を見て俺は満足げに頷いた。

 

「存外ノリノリではないか」


 そんな俺に後ろから声がかかる。

 振り返らずとも、人知れずテレビの電源がつきそこにお面をつけたセーラー服が映っているのがわかった。

 まったく一日で女装にも神様にも慣れちまうとはな。もしかしたら人間がというより俺が逞しいだけなのかもしれない。


「ノリノリじゃなくて自発的にテンション上げてんだよ。そうじゃなけりゃ、朝っぱらからセーラー服に着替えるのは精神的にしんどいんだ」


「ふむっ、まだそんなことを言っているのか貴様は。――まぁ、一週間もすれば完全にそれが当たり前となり何の抵抗もなく着れるようになるだろうさ」


「なるか! …と言いたいところだが、なる気がするな。このペースじゃ。まぁそれはそれでいいか」


「そうだそうだ。振り切ってしまえば余計なことを考えずに済んでむしろ良い影響が出ることだろう。そして貴様は更に男の娘に近づいていくのだ」


「はいはい、そーね」


 そんな風に軽口の神様と応酬をしつつ俺は鞄を手に取り学校に行く準備を整えていたのだが、


「ちょっと待て、私から一つ提案がある」


 そこで何故か神様から制止がかかる。


「ん? なんだよ」


「時に貴様、ルーティーンというものを知っているか?」


「? あれだろ、なんかをする前にやる決まった仕草みたいなの。集中力が高まるとかなんとかって言うやつだろ」


「そうだ。そして、貴様がその恰好で学校に行く前のルーティーンを私が考えてきてやったぞ。ありがたく思え」


「…ありがた迷惑な気しかしねぇんだが」


 その唐突な謎の心遣いに少々げんなりしながら呟く。

 なんとなくわかるからだ。絶対ロクなもんじゃないと。


「まぁ聞け。まずは先程ノリノリで確認作業をしていた鏡の前に立て」


「だからノリノリではねぇっての…」


 愚痴りながらも何やかんやで鞄を持ったまま、鏡の前まで移動する俺。

 そしてそんな俺に、


「そこで鏡に映る自分を指差しこう言うのだ、『今日も可愛い、頑張れ蒼葦♪』とな」


 神様はそんなことを言ってきやがった。

 ほらな、だから言ったろ。ロクな事じゃないって。


「…一応、理由を聞いておこうか?」


「ふっふっふっ、よくぞ聞いた。いいか、自分で声に出すというのは思いのほか効果をもたらすものなのだ。つまり自己暗示さながらに自分にそう言い聞かせることにより気づかぬうちに一段階貴様の男の娘度が上がる、というわけだ」


「それで俺が納得すると思うか?」


「やるもやらぬも貴様の自由だ。――ま、やらんで後悔しても知らんがな」


「なにその含みのある言い方!? …あーもうっ、やればいいんだろやれば!」


 完全に掌の上で上手いように転がされている気がするが、こうなりゃ自棄だ。

 利用できるものは全部利用して、あげられる可能性は0.1パーセントでも上げるって決めたわけだしな。

 そしてやると決めたからには俺はいつでも全力だ。


 「ふぅー」と整えるように息を吐き、鏡に映る自分を見つめる。

 そして、


「今日も可愛い、頑張れ蒼葦♪♪」


 もうこれでもかっていうくらいに力の限り可愛さ全開な感じでやってやったぜ。

 …で、やったからには要求したやつから何か言葉が欲しいものだが、


「――」


「おい」


 チラッとテレビを見たら、お面野郎が何やらお面の口元辺りを抑えてどこか重い空気を漂わせながら沈黙している。

 …まさかと思うけど自分が要求しておて、俺の全力っぷりに若干引いてるなんてことない…よな?

 

「――――」


「いや、おいって! なんか言えよ!」


「…ふっふむ、見事だ葦山蒼葦。貴様のやる気は十分伝わった。あとあの…あれだ、今日も頑張ってこい」


「ちょっと引いてんじゃねぇか!! 言っとくけど、てめぇがやれっていったんだからなぁ!!」


 てなわけで、二日目も俺と神様しかいないこの部屋の朝は賑やかなのであった。


***――――


 といっても、いつまでもあそこで神様とじゃれ合っているわけにもいかないのでその後すぐに俺は家を出た。

 ちなみにもう昨日の様に早めに家を出る理由もないので出発時間はだいぶ遅め。普通の生徒と同じくらいの登校時間だ。

 

 そのため学校に着いた時にはすでに校門には多くの生徒の姿が見えていた。

 当たり前と言えば当たり前だが、登校中に伏見と会うことも当然ながらなかった。昨日の時間が伏見にとってはいつもの登校時間なわけだしな。

 そのせいか昨日のことが嘘のように学校まですんなりと辿り着けたわけだ。


 まぁ、これが普通っちゃ普通なのだろう。

 刺激を求めているであろう神様には悪いが、そう簡単に普通の学園生活で面白い展開が毎日毎日訪れるわけが――、


「ん?」


 心の声が止まる。

 止まった原因は昇降口に入り下駄箱を開けたときに上履きの他に一枚の紙がその中に置いてあったからだ。俺自身は入れた覚えはないので、別の誰かが入れたのだろう。


 ? なんだこれ?

 とりあえず内容がわからないので上履きよりも先にその紙を取り出してみる。


「!? おいおい…」


 結論から言うと、それは下駄箱に入っている紙の中で一番可能性が高いであろう恋文とかそういうたぐいのものではなかった。

 そこに書いてあったのは簡素な一言。

 

 『これ以上、渚隼平に近づくな』、という一文が丁寧にも筆跡をわからなくするために定規を使ってでかでかと書かれた紙が俺の下駄箱には入っていたのだ。


「はぁー」

 

 それを見て思わずため息が漏れる。 

 そして、


 ――神様、こりゃあどうやら初日以降もあんたは退屈せずに済みそうだな。


「ったく、生き返りを抜きにしても騒がしい一年間になりそうだぜ」


これにて本編の導入部分が完結となります。

ここまで本作にお付き合いくださり、本当にありがとうございます。感謝感激です。


ですが、正直に言うと完全に物語のペース配分を間違えた気がします。まさか初日に50話もかかるとは思いませんでした…。しかし、その反面で50話という切りのいい話数で一区切りとなったので「これはこれでよかったかな」と思ったりもしています。

あと実は初めに各話のタイトルを何も考えずに「○○と○○と○○○○」といった謎の縛りを作ってしまったことで、毎回少しタイトルを考える時間を浪費することになってしまったのは少し後悔中だったりします。


何はともあれ、これからも読者の皆さま方を楽しませられるように努力していく所存ですので何卒応援の程よろしくお願いいたします!

この作品が少しでも皆様の暇つぶしを担うことができれば幸いです♪

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