Mission-49 『神と生者と一日間のエピローグ』
「ったく、はいはいっと」
まぁ、そうは言っても断るわけにはいかずにそのまま俺は素直に腰を下ろした。
実を言えば俺も少し話したかったのだ。
この世界の場所とか生き返りについての詳しい条件とかそう言うのを問い詰めるんじゃなくて、ただ純粋にこの世界における俺の正体を唯一知っているこいつと。
「で、反省会って何すんだ? まずは俺の方から今日の反省点でも述べた方がいいか?」
「いや、それはすでに朝一度やったからな。それにあからさまな反省点はないのだろう?」
「それがわかっているなら、何で反省会なんだよ…」
口ではそう言いつつも俺の口元はきっと笑みを浮かべていただろう。
この全てを見透かすような傲岸不遜な言い方も馴染めばそこまで悪く無いもんだ。それに相手は神だしな。この上から見下ろされる感じはむしろ自然なのだろう。
「結局、初日に二回消費したな」
そこで不意に神様が呟く。
「ああ」、と俺も同様に室内で特に異質感を放つ機械――RERORN‐METERへと視線を移しながら呟いた。当たり前だが、そこに映し出された数字は99から更に1減って98となっている。
「貴様の過ごす期間は、始業式の本日から卒業式までの300日と少し。そうはならないだろうが今のペースで行くとループが600回弱必要になるが、その点はどう考える」
「そりゃまたホントに単純計算だな…。――まぁ、ループのペースに関しちゃこれも単純計算だが大体3~4日に一回のペースでギリギリなわけだしな。その辺は一応考えてるよ、それに今日の二回は二回ともイレギュラーな部類だろうしな」
「ふむっ、こちらもそれは否定しまい。それどころかどちらもキチンと対処し、ループ後に同じ轍を踏まなかったことは褒めてやってもいい」
「そりゃどうも」
思いがけない褒め言葉に少しだけ驚く。
…というか、薄々そうだろうとは思ってたが――、
「なぁ、神様。あんた、俺の一日の生活を全て把握してるんだな」
「? 当たり前ではないか」
俺の確認の言葉に対し、神様がその言葉通り当然の様に肯定する。
そして付け加える様に、
「私にとって貴様という存在は一種の娯楽だ。例えるのならば映画だな。映画のチケットだけを買って上映中にずっと劇場の外にいる人間などはいまい。それと同じだ。私は貴様の『生き返りをかけた一年間』という映画を特等席でこの一年間見させてもらうのだからな」
「…言われてみりゃそうだな」
どこか楽しそうに謎の例えを持ち出しての神様の説明に俺は何故だか納得していた。
俺にとっては命がけの千載一遇のチャンス、それは神様にとってはただの時間つぶしの娯楽。
さっきも言ったが俺は人でテレビの中にいるお面は神様だ。理不尽に思えるその違いこそがちょーど良い感じの人と神のバランスなんだろう。
「それを踏まえて、聞きたいことがある」
と、そこで神様が不意に少し声のトーンを重くしてそう切り出した。
「――なんだ?」
その変化に俺の方も少し間を置き真剣な声で答える。
おそらく今から神様が言おうとするそれが反省会とやらの主目的なことはなんとなく察しがついたからだ。
「今日一日の貴様の生活を見ての純粋な疑問だ。貴様は今日多くの生徒と関わりを持ち、多くの行動を起こしたな。それは何故だ?」
「何故ってそりゃ…」
「普通に考えれば、関わる人間は最低限に抑えて学校にいる時間以外は可能な限り家で過ごす。それが一番生き返りへの近道だろう。少し窮屈だが期間は一年間だ、我慢できない程ではない。しかし、貴様はそうしなかった」
「まぁ、そうだな」
そのもっともな疑問に俺も肯定を返す。
そりゃそうだ。神様の言うようにそれがその生き返りミッションの模範解答なのだろう。
もし、仮に生き返るための答えがその一つだけなら今日の俺は赤点だろう。
だが、そうじゃない。ここでは生き返るためのゴールは一つだが、そこへと向かう道筋は無数に存在する。
だから俺は特段迷うこともなく口を開く。
「でもさ、神様。それじゃ、俺はいつか何か大きなミスをやらかす気がするんだ」
「――ほぉ」
「自分を偽って、人との交流を断って、一人で暮らす。確かに効率的だし、この状況下じゃそれが一番正しいのかもしれない。でも、それじゃきっと俺は失敗する。生き返れない。そんな気がするんだ」
「ふむっ、何やら小難しく言っているが…ようするに勘か?」
「ははっ、そう言われれば元も子もないな。――そっか、そうだな。確かにこれは俺の勘だ。でもこの容姿で十八年生きてきた俺の勘だ。あながち馬鹿にもならないぜ。それに神様も朝言ってたろ、不慣れなことをやろうとすればボロが出るって」
「まぁ、たしかにな」
「だから俺は俺のまま性別だけを偽って一年間を生き抜き生き返る、そう決めたんだ。――これが俺の答えだ」
そして、そう導き出した答えをハッキリと神様に告げた。
「そうか」
「ああ、そうだ。だから別に舐めてるとか全力じゃないとかそういうわけじゃねぇよ」
「わかっている。どんな道を選ぼうともそれは貴様の自由だ。それに私としては責めているつもりも貴様のやり方を否定しているつもりもない。…いや、むしろその逆だな」
「逆?」
「先程私は貴様を映画に例えたな。当然ながら見る側とすればつまらないものよりも面白いものを見たいと思うものだ。その点で言えば、今日の貴様には五つ星をあげてもいい。見ていて退屈しないし面白い、娯楽としてはこの上なかったぞ」
「――ふっ、そりゃどうも」
再びかけられたお褒めの言葉に、俺は笑みをこぼした。
どうやら俺は結構高く買われているらしい。まぁ、やっぱり完全に娯楽の対象扱いだけどな。
おそらく神様にとって俺の生き死にはどうでもいい。その過程が大事なのだろう。でも、あんたは興味なかろうが俺はキッチリ生き返らせてもらう。
「これで話は終わりか。そろそろこのセーラー服脱いで風呂入りたいんだが…」
「ああ、満足だ。…いや待て訂正する。最後に一つだけ言い忘れていた」
「?」
「正直、貴様の今日の出来は私の予想以上だ。もう一度褒めてやる。そして、これからもぜひ私の予想を裏切り楽しませ続けてくれよ」
「…ああ、ご期待に添えるように頑張るよ」
「何度も正体が発覚し何度もループしながら、男の娘として一年間生き抜き――、そして必ず生き返ってみせろ、葦山蒼葦。私はバッドエンドの映画は嫌いなんだ」
「――――!」
思いがけない神様の言葉に俺の思考が一瞬止まる。
「――ははっ」、思わず笑い声が漏れた。
前言撤回。どうやら『どうでもいい』とまでは思っていなかったらしい。
「まったくふざけた神様だ」
「…むっ、私のどこがふざけているというのだ」
「全部だよ、全部。つーか、今さらながら男の娘を司る神って何だよ?」
「男の娘を司る神は男の娘を司る神だ、それ以上でもそれ以下でもない。そもそも貴様に一番近い神が私だ、何故なら貴様は生まれながらの男の娘だからな」
「うっせ。…ったく、まぁでもそのおかげでこうして二度目の人生を歩むチャンスを貰ってるわけだしな。感謝してるよ、神様」
「うむ、好い心掛けだ」
「そんで貰った恩はキッチリ返すぜ。俺はあんたが心から面白いと思える様な一年間を過ごして、そして必ず生き返ってみせるよ」
俺の言葉に「ふっ」と神様がお面の中で笑う。
俺もそれを見てニヤッと笑みを浮かべた。
こうして、長い長い男の娘生活一日目は終わりを告げたのだった。
一応、次の更新で物語は一区切りつくことになります。




