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Mission-23 『男子と人気とはじめの挨拶』


 教室内から歓声、指笛、拍手が聞こえてくる。ちなみに歓声はほぼほぼ純度100パーセントで男子の声だ。

 …やばいな。まぁ気持ちはわからんでもないけど、今さらながら騙している様で居た堪れない。

 女装した男子生徒の登場を楽しみに盛り上がる男子生徒。控えめに言って地獄だな。


「おーい、蒼。変な顔になってるよ」


「そりゃ変な顔にもなるでしょ。今からあの中に登場するんだぞ」


「…まー、そっか。私だったら絶対嫌だもん」


「だろー」


 ハァー、とため息を一つ吐く。そして、窓の下の壁に背中をつける。

 でも、始まっちまったもんはしょうがねぇ。どっちみちこうなる運命だったということにしておこう。

 さてそろそろ教室内も盛り上がったし、お呼びがかかるかな。


『よーし、ではこれから事前質疑応答に入る。私さっきまでそいつといたから、どんな印象だったかとか答えてやろう。はい、じゃあ、質問あるやつ!』


『はい!』『はいはい!! こっち!』『はーいはい!!』『先生、プリーズ! 俺俺!』


 が、俺の見積もりは甘かったようで教室内では何故か本人がいないのに質疑応答が始まった。

 

「…伏見、しりとりでもしよっか」


「おっけー。ただのしりとりじゃつまんないから四文字縛りね」



***~五分後~***



「か。カラスミ」

「み。ミジンコ」

「こ。婚活」

「つ。通勤」


「はい、ん。蒼の負けね」


「あー…、………あのさ」


「んー」


「…長くね?」


「…長いね」


 そんなわけで二人で散漫としりとりを続けること五分。

 未だに中からお呼びはかからない。それどころか――、


『うーん。モデル体型だけど、ギャルっぽくはないな。中高生女子に人気の読モっぽい感じとはまた違う』


『ふむふむ、清楚系ですね』


『そんな感じだ。はい、次のしつも~ん」


 と質疑応答が終わらないどころか、加速度的に盛り上がりが増している。

 そのため俺のスペックもどんどん盛られていっているわけだ。

 そろそろヤバいな。完全に今後に影響する気がする。


「もう、無理やり入っちゃう」


「いやぁ…でも呼ばれるまで待つっていっちまったしな。一度口にした言葉を曲げるのは個人的にはあんまり好きじゃねぇ」


「じゃあ、どうすんの?」


「そっうだなー……、あっ!」


 が、そこで頭にポンと名案が浮かんだ。

 ――うん、これならいけるな。


「伏見。ちっちゃいメモ帳みたいなの持ってないか?」


 そして、思い立ったが直ぐに行動。

 伏見にそう尋ねると、「あるよ」とノータイムで望んでいた答えが返ってきた。さすがだ。

 

「さんきゅ」

 

 伏見から手渡された切り取られたメモ帳の一ページにささっとペンを走らせる。そして書き終えると逆手で先生に気付かれない様にゆっくりと教室の窓を少しだけ開けてそれを投げこんだ。


 さぁー、頼むぜ。

 

 不思議そうにする伏見を余所にそう願う。

 そして、すぐにその願いは叶った。


『先生、そろそろその転校生さんを紹介してあげたらどうですか』


 カタンと椅子から立ち上がる音と共に爽やかな男子生徒の声が教室内から聞こえてくる。

 ナイス、隼平。まったく、初日にできた俺の友達たちは有能ぞろいだぜ。

 『わるい、そろそろ紹介する様に先生に言ってやってくれ。by葦山』、それだけが簡潔に書かれた紙切れの願いを高速で理解し実行してくれるとはな。自分でやっておいてだが、上手くいき過ぎて怖いぐらいだ。

 あー、最初に隼平の姿を確認しといてよかった。


『むっ、それもそうだな』


 そして、そんな隼平の進言に浅見先生も時間が結構経過していることに気付いたらしい。

 そこはそんなことにも気づいてなかったのかよ!とツッコミたくならなくもなかったが、まあ良いだろう。これでようやく自分のいないところで自分に聞こえる様に自分の個人情報が大々的にばらされるという辱めから解放されるわけだ。


『というわけで、お待ちかね美少女転校生の登場だ。入ってこーい』


 中からお呼びがかかる。

 すでに俺も伏見もドアの前へと中腰で移動していた。


「あっ、これどうする?」

「ん? あー、俺のバックに詰めとくよ」

「ええっ、地面についてきたないけど」

「地面つっても廊下だろ。大丈夫大丈夫、それにまだ読んでねぇし」


 コソコソ話をしながら、シートになってくれていたスポーツ新聞をバックに詰め込む。

 よし、あとは入るだけ…なのだが、


「…うん、ちょい緊張すんな」


「おー、蒼もやっぱ人間だね。そりゃ緊張の一つや二つでしょ」


「なんで人間扱いされてねぇんだよ…。というか、伏見先入るか?」


「なんでよ、転校生をみんな待ち遠しく思ってんのに最初に入るのが私とか変な話でしょ」


「…ほら、レディファーストだよ」


「あんたもレディでしょ。ほら、いったいった♪」


 足踏みする俺に待ちきれなくなったのか、ガラッと伏見が教室のドアを開ける。

 そして、俺の背中をグイッと手で押したのだ。

 当然、俺の身体は前へと進み教室内へと強制的に侵入する。


「おっ、とっと!」

 

 そして、つんのめりそうになりながら何とか教卓を支えにして転倒を避けることができた。

 ったく…強引な事しやがる、と嗜めるように伏見の方を振り返ろうとしたところで、


「「「おおおおおおおおおおおおっ」」」


 と歓声じみた声が耳に届く。

 その声に誘われる様に教卓からまるで先生の様に生徒たちの方へと向くと、そこには俺がこれから一年間過ごす同じクラスの同級生たちの盛り上がる姿があった。

 まぁ、盛り上がってるのは外で聞いてた声と変わらずほぼ男子だけど…。

 うん、でもなんかスーパースターになったみたいで転校生ってのも悪い気分じゃないな。


「ほら、ボケーッとしてないで。最初の自己紹介の一言でもしなさいな。ほらー、お前ら静かに」


 そんな俺の背中越しに先生から声がかかる。

 それもそうか。

 そして、俺は同級生たちにしっかりと向き直り「ごほん」と一つ整える様にせきをすると、


「えー、葦山蒼葦です。まぁ、この先生の言ってたとこは話半分で受け取ってもらえると幸いなんだけど…、なんつーか、これから一年間よろしく頼むよ」


 ペコリと一礼した。

 

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