Mission-22 『二人と紙上と重なる不安』
「どういう状況?」
心からそのまま出たかのような純粋な疑問が伏見から投げかけられる。
そりゃ教師と転校生が並んで(*片方は二足歩行、片方は四足歩行)歩いてたら、そう言いたくなるよ。言いたくなる…のはわかるんだけども、いかんせんなんて答えればいいかは分からない。
とりあえず、グイッと隣を見上げてみる。
すると、先生の方も「あちゃー」とガッツリ困惑は顔に出ており、俺と同じ心境らしい。なんとまぁ役に立たないことだ…。
だが、いつまでも黙っているわけにもいかないし、黙っていた方が怪しさ満開だ。
「待て、伏見。これにはとてつもなく浅い訳がある」
「深くなくて浅いんだ…。まぁ深い訳があってこの奇怪な状況になってたらなってたらそれはそれでヤバいけどさ」
「それはたしかに」
っと、いやいや。感心してる場合じゃないな。
まずは現状を整理するしかない。
とりあえず今、俺と先生がいるのは教室のちょうど真ん中あたりの廊下。当然ながら俺とは違い先生の姿は教室から見えている。つまりあまり長い時間突っ立てると凄い不自然なはず。
そして。伏見の位置だがこちらはおそらく教室内からは見えないはず。廊下際の席の人ががっつり首を傾げでもしない限り視界に伏見の姿がに写ることはないだろう。
この状況でも最初のワクワクドキドキ転校生紹介作戦を続けるには二パターンの未来が存在する。一つは何事もなかったように廊下に俺を残し先生が伏見と一緒に教室に入る。そしてもう一つは、
「伏見、身体が教室から見えない様な体勢をとれ。そんで説明はこいつに聞け」
「はい?」
そこで先生がボソリと俺と伏見に聞こえるぐらいの絶妙な声で呟く。
どうやらこの人も俺と同じ考えに至ったらしい。選んだのは後者――俺と伏見が廊下に残るという選択だ。
そのまま先生がコツコツとその場からドアの前まで進む。
伏見の方も何となく状況を察したようで腰を窓より低くして、ドアの側までやってきた。
そこで再び先生が動く。「むっ」と怪訝そうな顔をしたかと思うとポケットからスマートフォンを取り出して耳に当てた。もちろん、通話など繋がっていない。教室内から不自然に思われないブラフだろう。
その隙に伏見が腰を落とそうとするが、そこで俺はハッとした。
「おい、スカート穿いてるからね。その…気をつけろよ」
「いや、そんな女の子の常識くらい言われなくともわかってるよ。それに四つん這いの人に言われたくないよ」
「…そりゃごもっとも」
が、俺の心配は杞憂だったようで伏見は呆れ笑いの様な表情を浮かべるとスカートの前を抑え、足をくの字に曲げてその場にしゃがむ。
これで伏見がこっちに来ても教室内からは見えない。
…でも、あれだな。その体勢で長いこといるのはしんどそうだな。それに女の子を廊下にしゃがませるってのは…、うーんなんかないかなぁ――あっ!
そこで名案が思い付く。
そして、バックから朝買ったアレを取り出した。
「伏見、これ廊下に敷くから。この上に座りなよ」
「えっ、これって」
そう俺が取り出して廊下に広げたのは朝コンビニで買ったスポーツ新聞。まだ読んではいないけど、jリーグもプロ野球も今年の最終結果は知ってるわけだし、まだ別にいいだろう。
「ん? なんでお前スポーツ紙なんて持ってんの?」
「来る途中にコンビニで買いました」
「おっさんみてぇな奴だな…」
「うっさいです。つーかそろそろ入った方がいいでしょ」
至極もっともな指摘だが、とりあえずこれ以上の余計な面倒はごめんな被りたいためそれだけ言うと急かす様に「ほらほら」と手で先生を教室へと入る様にジェスチャーを送る。
先生もそこには同意見だったようで「ふぅー」と息を吐き、スマホをポケットへと仕舞うと「じゃあ合図したら入ってこい」というと言葉を残し、教室へと入っていった。
すると、必然的に廊下には俺と伏見が残ることになる。
「ていうか、蒼はいつまでその体勢なわけよ」
「っと、それもそうだな」
その伏見の指摘に、ここまで来たら俺も室内から見られたくはないため、四つん這いからゆっくりと膝立ちになると伏見に並ぶように廊下に腰を落とした…のだが、
「いや、直座りしたら制服汚れちゃでしょ…! ほら、これ」
そう言って伏見がスポーツ新聞を見開きにする。大体二人分くらいのスペースだ。
ここに座れということだろう。
「さんきゅ。やっぱいいやつだな、伏見って」
「どこが? そもそもこれ私のじゃないじゃん」
しかし、その俺の言葉に伏見は当然のようにそう言った。
言葉の節々から天性の善人オーラが出ている。今になって思えば、最初に友達になったのが伏見で俺は幸運だな。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
そう断りを入れると、肩とかが触れない様に伏見から少し間隔を空けて並ぶように新聞紙の上に座る。
「ふぅー。あっ、それで今の状況なんだけどな――」
と、そこで伏見に何の説明もしていないことを思い出して口を開くが、
「大方、あーちゃん先生が面白おかしく転校生の蒼を紹介するから準備が整うまで教室の外に隠れてろってな感じでしょ」
すでに伏見は状況を粗方感じ取っていた様でそう言葉を重ねてくる。
すげー…、大体あってる。
「よくわかったな」
「一応、これで三年連続であの人のクラスだからね。でも、メチャクチャだけど面白い先生だよ」
「…メチャクチャなのはこの小一時間で十分身に染みたよ。そのせいで紹介も不安いっぱいだけどな」
「それはまたご愁傷様。まぁ、でもそんな不安そうにしなくても――」
『おーし、出欠終わり。さてお楽しみの転校生紹介だ。残念だが不運に悲しめ女子共、そして幸運に喜べ男子共。転校生はモデル体型の超スーパー美女だ!! その上、性格よし顔よし器量よしで男子でも絡みやすそうな気安い感じの清純美少女でもあるんだぞ~!! その上その上、彼氏はいないそうだぞ~!!』
が、そこで教室内からそんなノリノリの声が聞こえてきた。
「……不安にならなくても大丈夫か?」
「……うーん、ちょっとなった方がいいかも」




