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《番外編》勇者様の捨てたもの(Ⅴ)
ご無沙汰しております。(汗)
旅は陰鬱に続いた。
女達の唱える子供騙しの聖句と呪文を聞きながら襲いかかってくる魔物達を“勇者の力”で薙払う。
吸い込むのは血の匂いと死臭。
進む先には嘆きと悲鳴。
愚痴と卑猥な冗談を聞きながら疲れ切り眠りに就く。
心が壊れて何も感じなくなった時から、魔物を殺す事は作業になった。
淡々とただ殺す。
女達のヒステリーにもレオナルの狂った笑い声にたいしても嫌悪感は湧かない。
それは楽な事だった。
そう楽だったのだ、何も感じないという事は。
だから…微睡に見る彼女は“苦痛”になった。
柔らかな肌の温もりと優しい微笑みは目覚めと共に引き剥がされる。
切なさは何よりも私を苦しめた。
私は痛みから逃れる為に彼女の温もりを忘れようとしてもがき…その試みは成功した。
忘却は人の心を守る便利な壁だ。
過去からの襲撃者を立ち入らせない。
但し壁の向こうは見えなくなってしまうが。
彼女との思い出は私の心を揺さぶるのを止め、遠く遠く離れて行った。
やがて幾つかの国を通り過ぎ私達は魔王の城にたどり着いた。




