メランコリーのあけぼの
「お前のせいだ」
「お前がいたから」
「お前の責任だ」
「お前の過失だ」
「お前が欲をかいたから」
「お前が貪欲だから」
「お前が生まれてきたから」
「お前が生きながらえたから」
「お前なんか死んでしまえ」
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夏樹は起きた。凛とした夏のあけぼの。いつもよりも早く起きた。昨日あんなことがあったからなのか、それとも汐の寝相が悪いからか。夏樹はソファから起き上がった。床下には汐が使っていたはずの寝袋が置いてある。(そもそもなんで夏樹の寝ているソファにいるのか)あの後、鈴華を送った夏樹は家に帰った。ほぼ一本道だったこともありスムーズに帰宅。そのまま汐につかまり寝落ちするまでゲームをするといった流れだ。時計を見た。4時15分。寝たのが多分2時回ったくらいなはずなので、あまり睡眠はとれていない。ただ不思議と体は軽い。今まで何回もこんなことをしてきたからか体が慣れているのである。床に落ちたスナック菓子とカーペットについているジュースのシミを見ても夏樹は何も感じなかった。なんとなく夏樹は着替えて外に出る。張り詰めた空気と白く成りゆく山際がとても趣深い。日本人たるものきれいな日の出をみるのは好きだというのは、過去の日本人の遺伝子から受け継がれ続けている不変の真理であるといえる。少し歩いてみよう。昨日昼に通った道を再び通る。車はない。ましてや人ひとりとしていない。夏樹だけの世界。まるでこの世界から夏樹以外がすべて消滅したようなそんな感覚だ。目を閉じた。見えない。聞こえない。誰もいない。この世界で一人だったとしても、寂しくなんてない。この空間が続くのは朝だけ。一種のシンデレラタイムである。パチ屋ももちろんやっていないし。ガソリンスタンドはもともと古びているからか昨日よりも寂れて見える。コンビニは開いていた。意外だ。田舎なので天下のコンビニさんもやっていないと思っていたが、検討違いだった。入ってみた。従業員はバックヤードにいるのか店内からは人間を観測できない。品物はきっちりと整えられ、店の中にはチリ一つとしてない。
「ガチャ。」
従業員だろうか。別にコンビニ自体に用はないためすぐにその場から去った。従業員の視線を感じたが夏樹は振り返らなかった。
例の神社に来てみた。誰もいない。もともと昼でも人がいなかった場所だ。朝になって変わるわけでもない。拝殿に座った。風はある。もう吹いている。初夏の朝風に体を預ける。拝殿はボロく風が吹けば飛んでいきそうだ。拝殿に座ること自体が神様に失礼であると思うが神を信じない夏樹からしてはないに等しい規律だ。夏樹は上を見る。拝殿を囲む緑の傘が薄紫色の空に向かって一番を目指して伸びている。
「君が為 死ぬる骸に 草むさば 赤き心の 花や咲くらん」
江戸時代の人切りの短歌を口ずさみ拝殿を後にした。
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家に帰ると汐はちょうど起きたといった感じだ。ソファに座りながら目をこすりクッションを前に抱きかかえている。髪はかなりぼさぼさで寝ぐせもついている。ネグリジェも首元がはだけて左肩が出てしまいそうだ。ご褒美ショットあざっす。朝からとてもきわどいものを見た夏樹は目をそらした。
「あ。夏ー。おはよ~~。」
寝ぼけているのか少し緩い感じに朝の挨拶をしてくる。汐、かわいいとこあるじゃん。
「おはよ。あのー汐さん。そんなことよりこの部屋の状況どう思いますか?」
汐は何も答えない。目をこすりながらうつむくだけだ。
「あのー聞いてら…」
「あの子と、鈴華ちゃんと何話したの?」
朝の只得さえ張り付いていた空気がよりいっそ凍り付いた。夏樹は答えない。汐も何も言わない。その空気は二人の時間をも凍らせているようだった。何を話したか。あまり言いたくはない。鈴華のバイオリンが好きなこと。演奏を毎日聞きに行くこと。知られるのが嫌だった。彼女の演奏は一人じゃないと楽しめないと感じてしまったから。
「昨日初対面の相手に何話すんだよ。」
少し笑いながら返した。これが精いっぱいの返答だ。これ以上の回答を夏樹は知らない。
「そっか。」
顔はぐちゃぐちゃの前髪で見えない。汐は何も言わずに部屋から出て行った。緊張がとけ時間が動き出す。とりあえず夏樹が片づけをやるのは確定のようだ。
やってみるとすぐに片づけは終わった。30分くらいだろうか。スナック菓子を拾い、掃除機をかけ、ジュースのついたカーペットは洗濯にかけた。二人もいらなかったのである。夏樹が時計を見ると6時3分。朝ではあるがあけぼのの時間はとうに過ぎているのである。ちょうど小腹もすいてきたということで朝ごはんを作ることにした。夏樹はキッチンに立って、冷蔵庫から材料を取り出す。卵、牛乳、はちみつ、バター。食パンと砂糖も準備した。作るのはフレンチトーストである。理由は牛乳の賞味期限が切れそうだったからそれだけだ。夏樹は出際よく卵液を作っていく。バニラエッセンスなんかも欲しかったがないかったため少し残念である。パンを3枚だし四つ切にし、作った卵液につける。スマホで10分はかり、その間に冷蔵庫からレタスとなぜかあるメロンを取り出し包丁でをカットしていく。
「がっちゃ」
汐が部屋に入ってきた。
「何これ。いい匂い。」
こんなことを言いながら高い鼻をクンクンと動かす。着替えてきたようで、今日のファッションは真紅のTシャツにダボっとした薄い青色のダメージパンツをはいている。髪型も昨日はポニーテールだったのが、今日はかわいくツインテールになっている。結論活発そうな雰囲気を感じるコーデである。
「フレンチトースト。」
「私のは?」
「もちろん作ってる。あと焼くだけなんやけど頼める?」
「マジでしごできじゃん。でも面倒くさいなー。」
こんなことを言いながらもキッチンにきてフライパンにバターを入れている。手伝ってはくれるらしい。
ちょうど10分たったためつけていたトーストを汐のフライパンに移した。汐は中火でトーストを焼き始めた。
「夏ー。」
「なんだよ。」
「朝どこ行ってたの。」
「なんでわかったんだよ。」
驚きを隠せなかった。たぶん汐視点、目をがん開いた化け物が映っているだろう。
「何その顔。さすがにわかるって。だって夏外出るときじゃないと着替えないじゃん。」
「確かに。よく見てるな。」
「あんたと盟友やってたら、いやでも気づくっての。」
汐のやれやれといった返しに少しうれしさを感じた。盟友だと思っていたのは自分だけだと思っていたが相手もそう思ってくれていた。こうゆうのはやっぱり感慨深い。
「あー。」
汐が大きな声で悲鳴をあげた。フライパンの中には誰が見ても完璧に焦げているフレンチトーストがこんにちはしている。しかし疑問だ。彼女は中火にしていたはず。夏樹自身もその行為をしたところを見ている。ではなぜ焦げたのか。
「なんでそうなった。」
「な、なんか強火になっていた。」
「え?」
「多分私が気づかずに押してたかも。」
今にも泣きそうな声と顔で夏樹にそう訴える。
「なんかタロットカードみたいだな。」
ストレートに言うのはよくない気がした。なんとなくだ。
「タロットカードって、たしか占い用のカードだったきがするけど。」
「そうそう。正位置と逆位置があるんだよな。」
「なんかゲームで見たことあるんだよね。って話してる場合じゃないよね。」
見るからに汐は落ち込んでいる。当たり前だ。昨日あれだけ朝ごはん作って自炊できるアピールしてきた奴がその次の日にパンを焦がしている。そりゃプライドはズタボロになるだろう。
「汐。このトーストは俺がもらう。ってか味見していい。」
「え。ちょ焦げてるよ。」
汐は震えた声でそういった。しかしそんな声も聞かずに半面、炭であるフレンチトーストを食した。
「うまい。多く焼いたところが逆に味がでてトーストに深みが出ている。やっぱ汐は料理うまいな。その調子で残りも焼いてくれ。」
精一杯のフォローをした。でも言い終わった後でもこう思う。失敗したと。振り返ってみても嫌味にしか聞こえない。これはフォローになっていない。俺が頼んだから。俺が楽したいって思ったから。その欲望が汐の気持ちを害するという結果を返してきた。まるで俺が悪いと言わんばかりに。
「OK。わかった。次は焦がさないように頑張るわ。」
汐はそういいつつも顔が少し赤かった。多分無理をしているのだろう。何をしたらいい。どうフォローしたらいい。本当にこの結末は正しかったのか。そんなことを考えさせられる薄紫色の朝だった。




