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夏の帰郷は白く咲く  作者: 海月
一束  カスミソウ
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5/21

牛蒡の壁

彼女はまだこちらに気づいていない。彼女の目には周りの景色は見えておらずバイオリンの弦しか見えていないのだろう。馬鹿みたいに暑いこの昼時。彼女の立っている場所は日陰ではなく日向だ。それがかえって彼女の演奏を助ける。まるでスポットライトのようなその陽光に魅せられる。神社の周りの木々が揺れだす。葉を大きく振るっている。まるでバイオリンの音色に指揮されて歌っているような感覚に見舞われる。彼女はソリストではなかった。彼女はマエストロである。曲はだんだん終わりに近づいている。それなのにもっと聞いていたい、ここにいたいと思うのはわがままなのだろうか。欲をかくのは相手を困らせるだけわかっているはず。一番痛いほどわかっているはずなのに、なぜ五感を一体にしてこの演奏に見入ってしまうのだろう。彼女は最後の一小節までもを完璧に的確に弾き切った。その横顔はすべてやり切ったといわんばかりの笑顔である。拍手をしていた。自然にだ。言葉にして表すのも失礼なくらいの演奏だ。だからなおさら思ってしまう。なぜここで弾いているのか。彼女自身の価値とこのステージの価値はあまりにも釣り合っていない。かの唐衣の歌を歌った在原業平はこんな気持ちだったと、今なら説明することができる気がする。彼女は夏樹の存在に気が付いた。そして顔を真っ赤にしてバイオリンケースとバイオリンをもって神社の奥に走っていってしまった。また木々が揺れだした。今回は歌っているのでなく夏樹を非難するかのようにより激しく揺れた。神社の拝殿の少しの階段に座り、溶けかけているカップアイスを食べる。おいしいとは感じない、ただまずいとも感じない。不思議な味だ。自分の舌の神経がすべて消え去ったかのような感覚だ。マエストロを失った神社はもう何も動かないさっきまで揺れていた木々も音を立てるどころか葉っぱ一枚も落ちることがない。聞こえるのは木々の幹に張り付き必死に鳴いている蝉の声だけだ。アイスを食べ終えて帰ろうとしたところ拝殿に黒い上着が置いてあった。ひどいことに少し袖のところをネズミか何かにかじられた跡がある。この神社に入ってくる人自体がほぼいないことを考えるとたぶん彼女の忘れ物だろう。しかし持って帰るとすると、彼女が気づいて取りに来た時に探させることになる。それでも夏樹に上着をほっておくという選択肢はなかった。夏樹はコンビニに戻り、ペンとメモ用紙とジップロックを買い、そこにネズミにかじられていたから繕うために自分が持って帰ったことを書き、念のための住所と夏樹の連絡先を書いた。それをジップロックの中に入れ、もともと上着が置いてあった場所に配置その上から頑丈そうな石を四つ置いた。夏樹は少しやり切った感覚でアイスの袋と上着をもって家に帰った。家に帰ると汐が角を生やして待っていた。

「アイス買ってくるのに20分もかかるってどういうこと?」

「まあ、いろいろとあったんですよ。」

「ふーん。まあいいや。アイスどこ?」

「この袋の中。」

「あざっす。お、けっこー高いやつじゃん。」

汐は目を輝かせながらアイスの蓋を取った。汐はその蓋を舐めた。

「おい、汚いぞ。」

「外ではやらんで平気だって。そんなことよりさー。久しぶりにゲームしない。」

やはり何年たっても汐は盟友だ。男も女も関係ない。こいつがゲームの大好きな親友に変わりはなかった。

「いいぜ。何やる?」

「まは、しょむじくなんでもいひけど。」

「何言ってるのかわからんで、食べてからでええから。」

「夏の好きなものでいいよっていったの。」

「じゃあ、ユナイトでもやるか。」

「なにそれ?」

「MOBAやてMOBA。」

「えー大丈夫?MOBAってけっこー民度悪いよ。」

確かにMOBAの民度は悪いほうではある。特に腹立つのが自分が戦犯なくせして一番うまいやつに責任を擦り付けてくる奴だ。正直負けたのは人のせいって精神じゃ何に置いてもうまくなるわけがないと思う。それに気づかないうちは下手なままだろう。あと煽りは〇ね。

「大丈夫やって。俺普通にうまいほうではあるから。」

「いや夏のうまいはプロ級の腕前では?」

「そんなやと思うで?前シーズン世界982位までしか行けなかったし。」

個人的にはもっと行けたとは思うが勉強しなくてはいけないイベントがあったからあまりできなかったのである。そう悪魔の所業、定期テストである。夏樹は最低限勉強して、赤点回避+40点くらいを全教科キープしている。夏樹にとってあまり造作のないことであると考えてはいる。最低限努力を毎日していれば結果はついてくるのだ。

「982位?世界で?夏、プロ目指したほうがいいよ、あんた。」

「そういうわけで。まあまあうまい人と一緒に組むから、勝てるって。大丈夫。」

「そうやね。食わず嫌いはよくないと思うし。」そう言って汐はテレビの横にあるゲーム機を手に取る。夏樹もゲームをしようと思っていたが上着を持ち帰ってきていたことを思い出した。一応繕うだけだがきれいにしといて損はないのだ。

「ごめん。ちょっと洗濯機借りる。」

「いいけど。なんで」

「この服洗いたいから。」

「あれ?夏、そんな服、朝来てたっけ?」

変に記憶力がいいなこいつ。あまり汐は知られたくはない。なぜか?それはメンドイカラだなー。

「出るときに着てったんだよ。」

「こんな暑いのによく長袖きてこうとおもったねー。」

「信じられんわー」と言いながら汐はゲーム機を起動し始める。その間に夏樹は少女の服を洗濯機に入れた。繕うのはあとにしよう。そう頭で計画し洗濯をかけ、汐とゲームを始めた。


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「有賀、夏樹。」

まだまだ明るい午後6時。黒いフードをかぶった不審者が夏樹の書いたメモを見ている。その不審者はゆっくりとその住所へと進行を開始した。神社は風が吹き抜けた。かなりの突風だ。それによって黒いフードが脱げた。横から入る日の光によってその者の髪を照らす。誰もが目を見張るような鬱々とした白い髪を。


お疲れです。海月です。今日あほみたいに書いて投稿していますが…。僕もずっと書いていられるほど暇人ではないので、平日の投稿頻度は下がります。まあ完結までの道筋はもう立ててあるんで、失踪することはない…はず。まあゆるくクラゲみたいに頑張ります。ではよい一日をお過ごしください。

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