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夏の帰郷は白く咲く  作者: 海月
一束  カスミソウ
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4/21

マツヨイグサの小唄

目が覚め、ふと時計を見ると10時10分だ。夏樹はゆっくりと体を起こす。久しぶりに長く寝たから、体のだるさは感じない。実に目覚めの良い朝だ。すっきりした朝とはこんなにも素晴らしいものだったのだ。よしゲームでもするか。ゲーム機を起動しようとすると、ドアが開いた。

「ええ加減に起きんかい。」

汐が部屋に入ってきた。

「起きてるよ。今ゲームするとこ。」

「夏ー。早く朝ごはん食べてくれない食器洗いたいからさ。」

「持ってきてくれたら食べるよ。」

そう言って夏樹はゲーム機でオンラインゲームを始める。しかし夏樹のゲーム機は一分後には汐によって粉砕直前まで来ていた。

「食べに降りてくるか。ゲームと夏の頭が割れるのどっちがいい?」

さすがにやらないだろうということを平然とやる盟友だ。少しでも早く下に降りないとこのゲームデータ《勲章》を破壊されかねない。夏樹は尻に火をつけられたみたいに全力で階段を駆け下りた。

「汐を俺の部屋に置いてきちまったけど、まあいいか。変なことはしないと思うし。」

多分机に置いてあるのが朝ごはんであろう。メニューは白飯に鮭の塩焼き、温野菜、みそ汁だ。うまそー。

って思っている暇はない。早くゲームがしたい。夏樹は急いでご飯を平らげようとする。おいしい。特にこの味噌汁。甘みとまろやかさがいい感じに共存している。

「そんながつがつ食べてのどに詰まらせないでね。」

汐が水を持ってくる。さっきはよく見ていなかったがすでに着替えている。白い半そでのロングワンピースを着て、髪の毛はポニーテールにまとめている。

「夏、それより味どう?」

「どうって何が?」

「おいしいかおいしくないかに決まってんじゃん。今日の朝ごはん私が作ったんですけど。」

「え?そーなの。あの何も家事ができないで有名な汐さんが。」

一回しか会ってないが3日間一緒の家にいたためいやでも要領がよくないことはわかる。

当時は母さんから廊下の雑巾がけ頼まれてバケツの水ひっくり返していた覚えがある。(後始末はもちろん夏樹がやった。)

「夏さんねー。私だってあんな失敗してめっちゃ恥ずかしかったんだから、ちゃんと最低限の家事はできるようにお母さんから教えてもらってるんだからね。」

「あんな家事出来ない汐がこんなにも成長しておじさんはうれしいよ。」

泣き真似までしたが、汐に「フン」って鼻で笑われた。

朝ごはんを食べ終えて、夏樹が食器を洗うことにした。

「別に夏は”一応”お客さんなんだから私がやるのに。」

「いいよ。いいよ。もらってばっかじゃ申し訳ないし。」

夏樹は手際よく食器を洗い食器棚に並べていく。7分くらいでシンクの中にあった食器はすべて片付いていた。汐はダイニングの机の上で夏休みの課題を進めている。夏樹はそれ見て汐に指摘する。

「汐、ここ違うぞ。これは微分するときに使う形。積分するときの形はこっちだろ。」

そういいながら汐のノートにインテグラルを書き積分していく。汐はそんな夏樹をみて少し不満そうな顔をする。

「夏ってなんでいつもゲームしているのに勉強できるの?意味わかんない。神は平等に人間を作ってないんだーー。」

夏樹は何も言わなかった。確かに自分でも要領がよいと思う。大体のことは一回説明されたらわかる。わからなかったとしてももう一度聞けばそうそう忘れることはない。しかしこれを周りに言いふらしたり自慢するようなことはしない。欲をかいていい経験をしたためしがない。

「別に要領よくてもいいことなんてないよ。一回入れ替われるのなら俺は汐になってみたいね。」

「私になってどうするつもりなのか?」

汐は夏樹が教えた通りに問題を解いていく。

「もちろん汐の体で興奮するため…」

何も言わず汐の右ストレートが飛んできた。ちょうどうだうだ語っていた夏樹のあごにクリーンヒット。夏樹は倒れた。完璧にベロの端っこを噛んだ。

「本っ当に最低ー。」

汐はそういいリビングを出て行った。夏樹は床でゴロゴロしながら痛みに悶えていた。

何分かたったころに汐が部屋に入ってきた。

「これ買ってきてくれない?」

そういって一枚の紙を渡された。内容は簡単に言うとアイス買って来いって内容だった。もちろん夏樹は断ったが、いかないとさっきの言葉を叔母にチクるといわれた。さすがに叔母に二日連続で起こられるのは嫌だった。てか、そんなことで怒るなんて叔母も娘loveすぎるのではないかと少し心配になる。ただそれを子供がいいように利用しているのはいかがなものか…。とりあえず行かないの選択肢は消えたため強制的に行かされることになった。

「家から近くのコンビニまで5分走ればつくと思うから。道は道路まっすぐに行けばあると思うから大丈夫だと思うけど。」

「お金は?」

「もちろん後で払う。だから立て替えてもらえない?」

金が戻ってくるなら別にいいか。夏樹は一回シャワーを浴び、薄いジーパンと黒いTシャツに着替えた。それまでに20分。汐には「早くいけ。」と言われたが無視して家を出た。あの野郎何様のつもりなのか問い詰めたくなる。ただあの発言はあまりよくなかったし、昨日なんてあいつの裸を見ている。そう考えると普通ならつかまっててもおかしくないような経歴だ。アイス買いに行くだけで許してもらえるのなら、楽な刑務作業であるといえるだろう。時間はちょうど正午を迎えたらしく、12時のチャイムが鳴る。朝ごはん兼昼ご飯を食べたためあまりおなかはすいていない。少し走るか。正直この暑さなら走ろうが歩こうが汗だくになるのは確実といえる。それなら多少つらいにしても早く終わらせたほうがいいのではないかと感じている。走り続けるのはさほど苦ではなかった。部活自体は入っていないものの体づくりくらいはしていたので体力自体はあるほうだ。走っていくとだんだん街並みが見えてきた。パチ屋の前を通りガソリンスタンドの前を通り、焼き肉屋の角を曲がったらすぐにコンビニはあった。そこで指定されたアイスを購入。任務完了。ここまで来るのにたった2分。少し上り坂といえどさほど時間はかからないだろう。どうせなら少し別の道を行ってみるのも一興か。しかしアイスを持っている以上さほど遠くには行けない。帰り道に何か探索するくらいだろう。夏樹はそう思い、今度はガソリンスタンドの裏から帰れるのかを検証することにした。行きの道と帰りの道は平行に伸びている二つの道路なので帰り道が分からなくなる心配はない。行きの道はとても賑やかだったのに帰りの道はとても静かで不気味だ。田舎なんてこんなもんだろう。一部はにぎわっているけどそれ以外は目立つところがない。それが田舎だ。一応都会育ちの夏樹からしてみれば、とても空気がおいしくて住みやすい土地であると感じる。歩いていくと古びた鳥居が見える。少し小さい神社みたいだ。ちょうどいい。この神社の木陰で自分の分のアイスを食べるとしよう。夏樹は石段を登り始めた。ざっと50段くらいだろうか。小さい神社らしく石段はとても急である。「いい運動になるな」とおもい石段をばねのような足取りで上る。しかし、30段目くらいで夏樹の足は止まった。何か聞こえる。

「何この音。」

聞いてみるとバイオリンの音色だ。曲目は「G線上のアリア」。中学校の音楽の教科書に載るレベルの名曲だ。夏樹は気味が悪いと感じた。和風と洋風の兼用。なんで神社なんかで演奏しているのか。聞いてみたが音のずれもない完璧な音色。まるで作曲者自身が演奏しているみたいだ。不気味だが魅惑的な蛇の声に人間である夏樹は心を奪われる。禁断の果実の正体を知るために夏樹は今までよりも少し早く石段を駆け上がった。頂上まで上った夏樹がそこで見たのは、ストレートの白い髪と瑠璃色の瞳孔持った、女神ともいえる少女が弓を引いている姿だった。

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