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夏の帰郷は白く咲く  作者: 海月
二束  ブーゲンビリア
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20/21

カキツバタの問答

「ただいまー。」

夏樹はドアを静かに開ける。どたどたと階段の音を鳴らしながら降りてきたのはもちろん汐だ。

「夏、こんな時間まで何してたの?」

時計は7時を回っている。

「えっとまー、ご飯食べ終わってから寝てしまいましてねー。」

「はー。くそ迷惑客じゃん。早くご飯食べるよ、夏のせいでご飯食べるの一時間遅れたんだから。」

先に食べてればいいものを。律儀だなーと思い、部屋に入り食卓を向かい合って囲む。いただきますとしようと正に今手を合わせるコンマ数秒の間に

「たっだいまー」

玄関のドアが開き台風が帰ってきた。

「汐、ご飯何かしら?」

「回鍋肉に卵スープとチャーハン。あと鮎をもらったからそれを今グリルで寝かしているわ。」

「さすが我が娘よ。」

こんな茶番みたいな会話をしながら、叔母はスーツをてきぱきと脱ぎ、食卓に座る。てか夜も鮎かよ。

「叔母さん、今日早いですね。何かあったんですか?」

いつも叔母は夜1時とかに帰ってくる。そして8時頃に出社している…はず。たぶん9時には仕事に入るよな? それで労基の時間ってたしか9時間くらいだから、6時くらいまでだよなー。そしてそこから少なくとも12時までは残業?月45時間平気で越えてません?大丈夫?

「お、おば、まあ、ちょっと仕事が一区切りついたから、今週はかなり早く帰ってこれるのよ。」

「いっつも思うけどお母さん働きすぎじゃない?少しくらい休養取らないとマジで過労死するよ。」

さすがの娘も心配になるレベルってどんなスケジュール組んでるんだよ。

「大丈夫。大丈夫。私の休養は汐と話すことだから。あんたの声聞くだけで疲れなんて吹っ飛ぶってもんよ。それに、夏君をからかうっていう新しい遊びも増えたし。」

疲れてそうなのに笑う。さすが社長。ブラックすぎる通り越して真っ黒だけど、それでもなお笑い続けるのはもう歴戦の戦士なんだよ。夏樹はできるだけホワイトな会社に入ろうと感じた。

「そんでー、私は今からストレス発散のためにバッセン行くけどあんたらも行く?」

「私パス。さすがに学校の課題やってないのはやばい。」

そういいながら汐は階段を上っていく。

「じゃあ俺は行きますわ。」

「OK。夏君だけねー。汐、なんか帰りに買ってくるけど何がいい?」

「カップアイスで。」

汐はくるりと振り向きながらそういった。ミニスカの中が見えそうだったのはさすがに黙っておこ。

「ピンポーン」

「ん?」

インターホンが鳴る。叔母は「アマソンか?」といいながら玄関を開ける。なんだかデジャブを感じる。やはりというかそこに立っていたのは、息を切らし、髪がぐちゃぐちゃになっている鈴華だった。叔母はこちらを向く。アイコンタクトで会話を試みている。

(この子、あんたの知り合い?)

(イエスだよマイあーんと。)夏樹は首を縦に振る。

「あら、どうしたの。とりあえず上がってくれるかしら。立ち話もなんだし。」

鈴華はびっくりしたように目の前の女を見ていまだ何も言っていないのに上げたこともそうだが、前来た時にはいなかった未知の存在。まるで熊まえに立たされているウサギのようだ。鈴華は叔母に案内されて客間に通される。座布団を弾き1:2の構図で座らされる。もちろん夏樹は2側である。

「それで、今回はどのようなご用件でいらしたのですか?」

叔母が雅でもあるが少々とげのある言い方で尋ねる。当たり前だ。ほぼ8時を回っている。こんな時間に尋ねてくる奴なんてただ者ではない。社長、かなりの威圧感がある。虎の威を借る狐とはこういう事か。圧倒的優位性。叔母がいる限りこちらに害が飛んでくることはないだろう。まるで神にでもなった気分である。しかし当の鈴華はまったくもって平気と言わんばかりに回答を述べる。

「申し遅れました。私水谷鈴華と申します。私はここに住んでいらっしゃる有賀夏樹様に謝罪に参りました。」

鈴華は当たり前といわんばかりにどこから出てきたのか紙袋から和菓子を畳の上に置きこちらに差し出してきた。

「有賀夏樹様。今回は私の妹がご無礼を働き申し訳ありませんでした。対処といたしましては私が直々に妹に言っておきますので今回のことは水に流してくれませんでしょうか。」

鈴華は土下座をした。かなり深く。多分誠心誠意の土下座であろうことは謝れなれていない夏樹ですらわかる。

「謝罪ねー。今回ことを起こしたのは鈴華さんの妹君ですよね。それならその御本人が謝罪を行うのがけじめってもんじゃないのか。」

叔母のこんな表情初めて見た。今カメラ回せば極道ものの映像がとれるのではないかと思う。しかし感情的にではなく、人を突き放すような冷たい声だ。

「いや、叔母さん別に俺は正直何でもいいし、そもそもなんで謝られてるのか…」

「そちらに座っていらっしゃる方の言う通りでございます。当たり前ですが私が謝ってどうこうなる話ではないことは分かっております。しかし今回は当事者の不都合により私だけで訪問させていただいております。またスケジュールを調整して改めて夏樹様への謝罪の場を設けさせていただきたいと思います。要件は以上です。」

鈴華は立ち上がり客間の扉を開けようとする。

「ちょい待ちな。」

叔母がそういった。

「何でございましょう。」

「私も夏も何一つあんたの謝罪の理由を聞いていねぇのに何を許すってんだ?舐めてんのかお前。」

すんっごい剣幕で叔母は言い放つ。それでも鈴華は顔色一つ変えず淡々と答える。

「それは申し訳ありません。私は夏樹様から聞いていらっしゃるとばかり。失礼いたしました。そこについてすべての全貌をお伝えさせていただきます。」

そういい夏樹と百合のレスバについて話し始めた鈴華。それを仏教面で聞く叔母。

「ふーん。喧嘩吹っ掛けてきたのはそっちだが、その喧嘩買ってぼこされて帰ってきたのはこちらと…。それで勝った側のお姉さまがわざわざ謝罪とは。それは本当に申し訳なかった。」

叔母の声色はもとに戻っている。

「わざわざこんな夜にこんなくそしょーもないことにわざわざ来てくださり申し訳ない。けじめはこいつに取るように教育しておく。今回ばかりはお帰りいただけますでしょうか?」

叔母が頭をさげた。

「全然、謝らないでください。私の妹が吹っ掛けたのは事実ですから。かなりひどいこと言ったようですし。」

「いいんですよ。此奴が悪いんですから。おい夏、あんた鈴華ちゃん送ってきなさいよ。」

叔母の目は光物のようにギラギラと輝く。その目からナイフでも飛んできそうな感じがする。そんな感じがする。夏樹は逃げるように鈴華の腕を引っ張り外に逃げた。

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