ブルーデルフィニウムのまどろみ
「ごめんねー。夏君。」
外に出て開幕一言そんなことを言われた。
「いや、鈴華が謝ることじゃないだろ。もといやあの喧嘩買った俺が悪いんだし。」
あの目絶対あとでうだうだ長い奴だなー。
「あの人って?」
「ああ、あの人は俺の叔母。まあつまり汐の母さんだな。」
「すっごく貫禄ある人だね。正直鳥肌すごかったよ。」
鈴華は笑いながらそう投げてくる。夏樹からすると、あの状態の叔母と当たり前のように話しているあなたのほうがやばいですと思う。
「てか、なんで鈴華がそんなこと知ってるの?」
鈴華がうつむきながら言葉をつなぎ合わせる。畦道にふたり。影ふたつ、追随するように動く。
「今日夕方ごろ百合から夏君と会ったこと、少し話したこと、喧嘩を吹っ掛けたことを聞いた。それでなんでそんなことしたのか聞いたの。そしたら私たちのためだっていって…そのまま姉妹げんかになり、謝りに行って今って感じ。」
さっぱりした長そでのイエローシャツが似合わないくらいの話。夏樹はただそれを聞き流すことしかできなかった。
「正直、私は謝る気はないから。私は間違ってない。間違ってない。間違ってないよね…」
鈴華はブラウンのロングパンツに手を突っ込みながらそういった。
もし夏樹と百合の立場が反転していたならなんて声をかけるのだろうか。そんなことないとか言うのだろうか。弱っている彼女を見て、前言えたことが言えない。怖い。鈴華と百合の関係を壊してしまいそうで。そもそもあんなにボコられたのに何か言ってもいいのだろうか。わからない。敗者の意見なんぞお呼びではないのかもしれない。わからない。徒方だとおもい夏樹は途方に暮れた。
「ってこんなこと言ってちゃだめだね。」
彼女は感情を押し殺し。再び前を向く。これが水谷鈴華が水谷鈴華である所以なのだろう。夏樹は謝罪も励ましも何も言えずただ下を向くことしかできなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
家に帰ってくると叔母がダイニングテーブルに座っていた。
「お帰り、夏君。」
笑いながら夏樹を出迎える。やはり叔母の笑顔は裏がありそうで怖い。
「座りなさい。」
命令に逆らうすなわち死亡。つまり今夏樹は死ぬか死ぬかの選択を迫られているのである。オタワ。夏樹は椅子に腰かけた。机の上にはまだ夏樹が食べ終わっていない料理が少し並んでいる。
「あなた、喧嘩買ったの?」
夏樹はうなずく。声は出しちゃいけない気がした。
「それは感情的に?」
うなずく。
「言葉で話してちょうだい。なんであなたは喧嘩になるくらいの怒りを覚えたの?」
声が出ない。それでも声帯を震わせる。
「僕と鈴華の関係に水を差してくるのが、ゆ、許せなかったから。」
夏樹なりの精一杯の答えで叔母に話した。
「そうかい。」
一瞬叔母の表情が和らいだように見えた。まどろむ子猫をなでるように慈愛に満ちた表情で。
「あんた、鈴華ちゃんのこと大切にしてるんだね。」
笑いながら女帝は笑う。笑う。笑う。叔母は怒ってはなさそうだ。
「じゃあ、大切なもん守るためにはどうするか。それは簡単。力を示せばいい。あんたが上だって証明してやればいい。わざわざ売られた喧嘩買ってやったんだろ。それができるのは自分が勝てるって自信を持ってる奴だけだよ。」
夏樹は椅子の位置を整える。叔母は机に手を置いて体を前に出す。
「大丈夫。あたしが教えてあげる。私にできてあんたにできないことはないでしょ。だってほとんどDNA同じでしょ。」
そういい、叔母は夏樹の手を無理やり引っ張り車に体を押し込み、そのまま発進した。ほぼ拉致である。ところ変わって、リビングの影が動く「夏が鈴華ちゃんと…」そう零す影の主は女帝の娘汐であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
バッティングセンターに拉致られた夏樹は叔母に聞いた。
「何でバッセンなんですか?」
「もともと行く予定だったでしょ。それに言ったわよね。私が教えるって。」
「あのー僕がやるの野球じゃなくてテニスなんですけどー。」
そんな悲鳴を無視して叔母はバッティングマシーンをセットし始める。叔母は120キロに設定し球を待つ。
「あんた、野球、テニスって言うけど、基本的には体の使い方は似ているのよこの二つ。」
そういいながら一球目を軽々と打ち返す。腰が入り完璧なタイミングで合わせられたバットは斜め45度にボールを飛ばす。
「テニスも野球も腰の回転と体重移動を使って打つ。腕はおまけでついてくる感覚よ。違いとしては、バッティングは待つけどテニスは迎えに行かないといけないところね。」
そういいながら叔母は10球目を打ち返し、見事ホームランのパネルに直撃させた。すべて打ち返した。
「ほら、やってみな。大切なのは何かを変えることではなく変えようとする気持ちよ。」
そういい。青い金属バットを夏樹に押し付ける。
「さあ旅をして来い。少年。」
そういってバッターボックスに無理やり立たせた。
「そういえば120キロからかえました?」
「あ。」
叔母がかわいらしい声でそういう。
「まあ大丈夫でしょ。」
「大丈夫なわけあるかー。」
そういいながらも120キロの球を160球中70球は打ち返した夏樹であった。




