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夏の帰郷は白く咲く  作者: 海月
二束  ブーゲンビリア
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18/21

リリィの螺旋

「何用ですか?」

一応警戒態勢を取る。

「あら、ひどいわね。今日一緒に練習試合した仲では?」

「回答になっていませんよ。」

「それはそうね。」

ただカラスがけたたましく鳴き、意識もしていないないのに立毛神経が立毛筋収縮のサインを出す。百合の姿は美しい。鈴華と同じくらいだろうか。やはり双子。しかし纏っているオーラ自体は違う。鈴華は孤高なお嬢様感が出ているが、百合はヒロインを連れ去るヴィランのような毒々しい美しさを感じる。

「用なんてあなた以外ないじゃない。私はあまり暇ではないのよ。」

「なら、早く要件をさっさと言ってお引き取り願えませんかね。」

「取引しましょう。あなたの気になることを一つ教えてあげる。代わりに私の話を聞いてくれないかしら。」

彼女の妖気な雰囲気が周りを包み込む。薄明りの光とカラスと黒いスカートそして黒髪。これらは彼女のオーラを構成する魔道具として作用している。近くの国道の絶叫が空気を包む。夏樹の質問は決まっている。しかしなかなか言葉を切り出すことができない。

「信用がなさそうね。」

「待ち伏せして人に楽しい時間を過ごさせているわけですからね。」

「誉め言葉として受け取っておくことにするわ。」

夜のとばりを裂いた言葉にフラットでアイロニーをぶつけてみる。しかしそれがどうしたといわんばかりに茶色の瞳は光芒がほぼない影にギラギラと光る。

「何を聞きたいのか言ってくれないと、私が先にあなたに質問するわよ。言っておくけど私はあなたと対話をする気はないわ。あなたは私の質問にだけ答えればいいの。」

「俺が答えると?」

「そうね。なら先に面白い話をしましょうか。」

彼女はホタルガラスがついているゴムを自身の黒髪からとった。姉とは対照的な黒い髪がなだれ落ちる。

「正直に事実を突き付けてあげる。あなたの後衛力で優勝したいだなんて妄想しているのなら諦めたらどうかしら。」

百合はバッサリと言い切った。「は?」と声が出るより前に彼女は立て続けに言った。

「私たちの経験値の総量の差もあるけど原因の根幹はあなた、あなたの後衛力ね。すごぉーくわかりやすく言うとあなたが戦犯。」

彼女は垂れた黒い横髪を耳にかけ肩をトントンと叩く。カラスはもういない。国道では絶えず車の騒音が鳴り響く。それでもこの空間だけ結界が張られているように、はっきりと聞こえる。俺が戦犯。わかっていた。いくらサーブが良くても、テニスの根幹はストロークだ。それができていない。基本ができていない。だから自身でも戦犯であるという自覚は常にあった。それでも他人に言われるのと自分がそう思い続けるのでは重みが違った。

「そうだからといっても、そんないいかたないだろ?」

愚者は吠えた。それでも賢者にはただの負け惜しみを通り越した何かにしか聞こえなかった。知恵あるものは冷酷に言い放った。

「あら、わかると思っていったのだけど、私の見当違いね。その打ち方はうまくも何でもない。下手くその権化のような打ち方だって言わせないで頂戴。もしくは手打ちって言ったほうが良いかしら。あなたのような吠えるだけの犬には適切な表現ね。そしてそんなあなたに朗報よ。このままの打ち方してればいつか肘壊すわよ。こんなことまで言ってあげてるんだから感謝してほしいわ。」

何も言えなかった。

「他にも、いかにも硬式譲りな両手バックは腰が入っていないから球に勢いがない。ボレーは決めたいのか振りすぎ、挙句の果てにはすべての球のコースは微妙。そして何よりあなたの一歩目が絶望的に遅い。サーブは確かにいい。それは認める。ただ、それ以外はひどいのなんの。姉さんはこんなののどこに危機感を感じているのか。」

夏樹は屈辱的だった。こんなの。彼女はそういった。2日しかなかったが、かなり一生懸命にやってきたつもりだ。それを完全に否定してきた。夏樹はありもしない、反論の言葉を必死に探し続けていたが、

「まあ前戯はこれでいいでしょう。メインディッシュはこれからなんだから。」

そういう彼女は青白い街灯に照らされ目の錯覚なのか白いTシャツが青く見える。

「なぜ、姉さんがあなたにかまうのか?それが本当に疑問なのよ。別にどこにでもいそうな顔。自信だけはある傲慢な心。本当に興味深いラットね。あなた。ああ、早く答えて私の質問に。当たり前だけどあなたに拒否権はないわ。でもこの質問に関しては正解はない。あなたが正解だと思う回答をありのまま話してくれればそれでいいのよ。」

まるで、剣を突き付けられているようだ。それでも答えるしかなかった。今の夏樹の武器は夏樹の意見なのだから。

「俺もなんでこうなったのかは知らない。俺はエスパーでもないからあいつの心を読むのは不可能だ。ただ一つ言っといてやる。俺はあいつのマエストロだ。」

答えはわからない。鈴華に聞かない限りこの疑問が消えることはないだろう。それでも夏樹自身の答えはすでに出ていた。夏樹が彼女のマエストロでありキャストでありマネージャーであるのだ。

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