アマリリスの激突
「姉さん。正気ですか?」
百合は鈴華にそう聞いた。夏樹たちに聞こえるくらいのはっきりとした声で。
「当たり前よ。私に二言はないですわ。」
百合は眉をひそめた。よく見ると鈴華よりも百合のほうが5㎝くらい背が高い。夏樹と汐はただ姉妹の会話に耳を傾け空気に漂う。
「なぜこの人たちと試合をするのですか?納得できる回答を教えて。姉さん。」
百合は訴えるようにして鈴華に詰め寄る。
「理由ねぇ。百合はどう感じたの?さっきの夏樹君のサーブを見て。」
「え。それは少し…」
「球速が早い。そしてコースも正確。もしかしたらまぐれの可能性もありますが、もし試合で当たったら厄介だ。そう思っているのでは?」
鈴華は妹の思考を先読みするが如く畳みかけた。
「あら、もしかして私の勘違いでしたかしら。それでも優勝を目指すにあったって、基礎練ばかりでは大会がうまくいくとは私は思いません。その点からみても夏樹君たちと試合を行う価値はあると私は考えるのですが、百合はどうですか?」
「それはそうだけど…」
鈴華さん、もしかしてあなたは論破王ですか?そう思わせるくらいには自身の主張とそれに至った経緯が複数の視点から、事細かにそれでいて端的に述べている。これが皮を被った鈴華。この場の会話の主導権はすべて鈴華にあり、反論を許さない。触れることも許されない高嶺の花のような存在に彼女はこの瞬間、昇華したのだ。
「ああ、もうわかったよ。やるよ。やればいいんだろ。」
半ば投げやりに百合が叫ぶ。背は妹のほうが高くお姉さんっぽく見えるのに、その発言は本当に妹って感じだ。
「ありがとう。百合。って、勝手に話が進んでしまっていますがお二人は大丈夫でしょうか。」
今まで石ころ同然だった夏樹たちに会話をする権利が与えられる。
「全然、逆にありがとうございます言いたいくらいだよ。」
「汐の言う通りです。実戦練習ができてうれしいです。」
こういうしかない。夏樹たちに拒否権など初めから存在しないのだから。鈴華は夏樹のほうを見て、右目をパチッと閉じてウインクしてきた。まるで感謝のしるしと言わんばかりに。
「それでは私たちは準備してきます。5分後に夏樹君たちのコートで試合をしましょう。」
そう言うと鈴華は百合を連れて自分たちのコートに帰っていった。
自分たちのコートに取り残された二人は言葉を交わす。
「やったー。鈴華ちゃんありがとー。百合さんと試合できるなんて光栄すぎる。」
「いや、お前も東海プレイヤーだろうが。」
「次元が違うのです。私と百合ちゃんじゃ。」
汐はわかってないなーと言いたげな表情で夏樹にそう告げる。たぶん家なら素人はだまっとれぇぇって言ってそうである。
「そんなことより、私前衛なので後衛よろしくお願いできるかな?盟友。」
「別にいいですよ。盟友。」
都合のいいように盟友呼びする汐にあきれてくるが不思議と悪い感じはしない。そもそもこのテニス自体汐のお願いから始まっているのだ。面倒なことが増えただけで、元々面倒なことは変わらない。つまり夏樹にとってはほとんどダメージはゼロである。…いや、後衛は後ろで走らなければならないからつらいかも。あれ、これもしかしてミスった?
五分はあっという間にたち、水谷姉妹がラケットをもって夏樹たちのコートに入ってきた。夏樹たちが北側のコート。姉妹は南側のコート。
「じゃあ、始めようか。」
百合がそう言う。両者どちらもネット近くまで来て、挨拶を行う。クロス側には百合。逆クロス側には鈴華が立っている。百合が後衛。鈴華が前衛の布陣だ。鈴華と汐がじゃんけんをする。鈴華が五本指を開いて勝利した。
「表で」
鈴華はそう汐に言い放つと、汐はラケットのヘッドをコートに立てて、コマのようにラケットを加点させる。何回か回転した後にラケットは公認マークがついている方の面に倒れた。
「表です。サーブかレシーブどちらにしますか?」
汐は鈴華に聞く。
「では、レシーブで。」
上品に笑いながらそう返答する。夏樹のサーブを早く見たいらしい。そうしてトスが終わった。トスっていうのはどちらがサーブをするのかを決めるものだ。サッカーでいうコイントス的な感じ。最近の公式戦はコイントスになってきているらしいが、今回の試合は古臭いやり方でやるそうだ。←(汐の入れ知恵)
「コートどうしますか?」
百合が聞いてくる。殺意がこもってそうな声で。夏樹に。
「じゃあこのままで。」
よくわからないのでそう答える。汐はえっみたいな顔をしている。多分ミスったな。やっちまったze。
夏樹はサーブをするポジションに立った。そこで知る。完璧にコート選びをミスった。サーブを打つ際にトスを上げるが太陽の光でよく見えない。邪魔すぎる。汐があんな顔したのはこうゆうことだ。
「あのー…今からサングラスつけてもいいですかねー。」
ふざけるような口調でそう言ってみる。
「早く打て。」
百合から、鋭い言葉が飛び出す。その声に夏樹は武者震いした。目を閉じる。相手は確実に格上。勝つのは不可能だ。相手がどのようなくせがあるのか、どんなところが得意なのか。そこを見極める。そしてうまいと感じたところはとことん盗む。観察。それが今の夏樹には必要だ。頭を整理して目を開けると目の前にはサーブを今か今かと待ちわびている百合の姿が見えた。




