アザミのスイング
「まず、振り方としては体の体幹を軸にしてコマみたいに体を回す。この動きが基本中の基本の動き。であとは下半身の動きをつけるだけ。まあ、下半身の動きは体重移動をしないといけないのが難しいんだよね。」
汐は実際にまずやって見せた。なるほどまずこれを習得しない限り、球を打つなど夢のまた夢か。ただこの動きどこかで見たことがあるんだよな。
「じゃ、夏も素振りしてみて。」
テニスコートを取ってまでやっていることが素振りは少し恥ずかしいがそんなことは言ってられない。夏樹は汐のスイングをまねてやってみた。たぶんそこまで変な素振りはしていないと思う。
「夏。形としては悪くはない。ただ足と足の間の感覚をもっと開けたほうがいいのと、ラケットを振り下ろしてボールが当たるときにフラット面じゃなくてカット面になってる。これじゃあ、きれいなドライブ回転はかからないと思うな。」
ぼろくそだった。難しいよテニス。それから50分くらいは形を作る練習をした。
「んーまあいいか。よし球打ってみよか。」
汐は一度東屋にもどり、スーパーにある買い物かごに球をたくさん入れてコートに戻ってきた。
「球をみてうってみな。」
汐が下から投げたボールをワンバウンドしてから打ち返す。ボールは斜め60度を描きコートよりも奥に着地する。アウト。だめだこりゃ。夏樹はがっくりと肩を落とした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「まずテニス、いやスポーツをするにおいて大切なことは何だい。夏君」
「そんなの圧倒的なまでの技術だろ。」
そもそもどんな相手でもストレート勝ちすればいいだけの話だ。相手に反撃のすきを与えない。どれだけ相手がうまくてもこちらの技量が上回っていればいいだけの話。戦力1000対1001でも自身が1上回るだけで勝てるのだ。
「ちっっがーーう。」
汐は子供っぽい言い方で夏樹の意見を棄却する。身長差が10㎝あるはずなのにこの時ばかりは汐がとても大きく見えた。
「スポーツをするときにおいて大切なのは、心だ。」
なんか言葉が出ない。こころ。つまり気持ちってことでいいのか?
「今私の回答馬鹿にしただろ。したよね。」
はい。しました。なんていったらぶち殺されるため。心の中でつぶやく。リアルのほうでは首を横に振ることで意思表示を行った。
「もちろん、理由もなしにこんなこと言ってるんじゃぁない。確かに夏が言うように技術も大切だ。圧倒的な実力こそが基本的に物を言う。それはそうだと思う。ただ、試合に負けたのは決して自分たちの技術不足だけではないと私は感じる。負けてくると人間焦ったり、イライラしたり、ふさぎ込んだりしてしまう。それが出てくると自分の思うようなパフォーマンスを行うことが難しくなっていく。勝ちたいという気持ちは大切だよ。でもそれだけじゃなく楽しむことも必要だと私は思うの。だから夏には勝ちたいって気持ちだけじゃなくせっかくやるのだから楽しんでほしい。もとよりスポーツってそういうものでしょ。」
ごもっともだ。もとより俺はなぜ勝ちたいのか。そんなのはお金のためだわかりきっている。正直試合になったら相手が封筒にしか見えない気がする。それにしても、楽しむねー。今の夏樹には難しいように思えた。
コート整備も終わり、夏樹たちは帰る準備をし始めた。隣の方々はすでにご帰宅しているらしい。とりあえず腹が減ったのである。時計は12時を回っている。
「じゃ、夏帰ろっか。」
「そうだな。」
ご飯をどうしようかとか頭で思いながら夏樹は自転車にまたがる。汐は夏樹の前を走る。最近は汐と昼を食べることがない。ほとんど「厨房安藤」で済ませているからである。
「そいや。いっつも思うけど夏って最近お昼どうしてるの?」
ドストライクな質問が夏樹の胸を貫通する。ちょうどそれについて考えていたためかなり動揺した。
「何?なんかやらしいことでもあるの?もしかして無銭飲食してるとかじゃないよね」
半分正解である。やっぱり500円=皿洗いはバグってるって。
「さすがにそんなんじゃないよ。友達とご飯食べてるだけ。」
嘘は言っていない。鈴華は友達だし…。
「夏に友達いたんだー。ごめん。ほんとに意外。」
やめてくれ。盟友よ。言葉の刃物が夏樹の心をスライスしていく。汐に悪意がないのが余計にたちが悪い。さすがに「厨房安藤」に連れて行くのは気が引ける。だから一番の解決策。
「どっか食べにいこっか。」
「お金は夏もちね。」
なぜか少し不満そうに、言葉を吐き出す汐だった。




