女流怪盗 ジューリア・ロッシ
鋭い日差しを受けて、ジェームズはベッドから起き上がると、朝食のためベッドの脇にある調度品に設置された呼び鈴を鳴らした。
澄んだ音色の呼び鈴は階下の大台所まで届いていく。これで、朝食が出来上がるまで、ちょっとした朝の運動ができる。軽く顔を洗って、ストレッチをする。タンスから布製のグローブを取出し、自室の天井からぶら下がっているサンドバッグで軽いウオーミングアップ。
それが終わると、階下のサロンへ行き。いそいそと、通り過ぎていく執事が渡す今朝の新聞を読んだ。
「うん? イタリアで泥棒騒ぎだって?」
新聞に載ってあるのは、イタリアのエアリス・ジャーン西店で、泥棒がでたのだそうだ。その泥棒は、ここイギリスでも名を知らないものはいないというほど、有名な女流怪盗のジューリア・ロッシだった。幸い。怪我人もなく。被害は宝石一点だけだったそうだ。
ジューリア・ロッシの手口は、まず人を決して殺めない。そして、物音を立てない。というモットーを掲げていて、決まって冷月の夜になると、ターゲットとなる宝石だけを音もなく、そして誰にも見つからずに、いつの間にかスッと盗んでいくという幽霊のような怪盗だ。それで、人によっては、異名の方がよく知られている。
female ghost(フィーメイル・ゴースト 女幽霊)という異名もあるのだ。
それに盗まれた宝石は、たったの一ポンドの値段と書かれたルビーネックレスだったようだ。
「当主さま。朝食の準備ができましたでございます」
「ああ。今日はここで食べるよ。すまないが、持ってきてくれ」
「かしこまりました」
執事のカールスンが大台所へ指示をしに向かう。
しばらくすると、女中が暖かい湯気のたつ朝食を持ってきてくれた。
それを、ジェームズのいるテーブルに置くと、新聞の記事が目に入ったのか女中は怪訝な顔をした。
「うん? どうした?」
「当主さま。あの……変です。ジューリア・ロッシは、確かにここイギリスに滞在しているはずなんですよ。昨日の夜にエアリス・ジャーン本店に予告状が来たとロンドン中が大騒ぎだったのです」
「はははははっ、どうして君がそんなことを知っているんだ?」
「新聞屋のジョーンくんが言っていたので」
「おや? それは本当かい? ジョーンくんが……なら、本当のことなのだろう。新聞配達員のジョーンくんは、当然新聞の記事は読んでいない。そして、ジューリア・ロッシの予告状のことは、新聞を配達する前に知ったのだろう。それに、ジョーンくんは嘘が嫌いな正直な少年だ」
「ええ。ええ。きっと、そうですよ」




