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そこで、コーヒーが二つきた。
ここロンドン駅にある喫茶店「一寸法師」は、なんでも日本人がオーナーだ。ジェームズはよくロンドン駅へ来た時には、立ち寄ってはコーヒーを頼んでいた。
一寸法師だけのオリジナルコーヒーから、芳醇な香りがテーブルを包み込み。少しの間だけ安らぎを二人に与えてくれる。
「急に、不幸になってしまったのですか?」
「ええ」
「宝石のせいで? それも、その指輪を指に嵌めてから?」
「そうなんですの。だいぶ前に指輪を買ってから、今まで真面目に働いていた女中頭も突然、病に臥してしまって、家事をしている女中たちの間では、女中頭はもう長くはないのだそうです。そのあとから、とても悪い噂まで広がってしまって……それも、女中頭はきっと悪霊に呪われたんだという根も葉もない噂さなんですの……それから、今の執事がまるでタイミングを見計らったかのように急病で倒れてしまいましたの。お父様が、警備のためにと、少し粗野な感じのする大男を何人も雇入れてしまったり……」
「ふむ……」
「……あの……でも、せめて叔父さまに見せてからにしますわ。宝石を買うお金はいつも叔父さまのものなのです」
結局、レディはダイヤモンドをジェームズに譲ってはくれなかった。ジェームズは、レディの名前や連絡先すらも知らずじまいで話が終わった。
レディの中指に嵌っていた指輪は、赤い色のダイヤモンドだった。
炭素の同素体の一種で、しかもモース硬度は10。ギリシャ語のadamazeinまたはadamasのaを取って「征服されざるもの、何よりも強い」という意味を持つ。絶大な力を持っているdiamondは、ジェームズの知識にもあった。
それもレッドダイヤモンドは希少とされているのだそうだ。
レディと別れると、ジェームズは、今になって笑うトパーズを持っていた女性が「今の私には、どうしても笑えないことの方が多いのですの」と言い残したことが引っかかってきていた。
こんな状況だというのに、ジェームズは何故か面白おかしく笑い転げそうになったからでもあった。




