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ジェームズは帰宅途中の人々が行き交う駅で、回転式ドアで出会った女性を小一時間も探していた。何故だか、あれからだいぶ時間が経ったというのに、まだ駅のプラットフォーム内に彼女がいると、不思議な直感がせわしなく働いていたからだ。
人混みの合間を縫うように歩いていると、しばらくして、直感が的中したのか、ロンドン駅の改札口付近で、蹲っている一度見たことのある洋服の女性を発見した。丁度、ここからでは、大勢の電車に昇降する人たちで見えにくくなっていて、気がつかなかったようだ。
さっきの女性だ。
あの回転式ドアを急いででてきた女性だ。
「失礼。どうしたのですか? お加減でも悪いのでしょうか?」
「いえ……急にひどい立ち眩みを覚えてしまって」
「そうですか。ここじゃ、他の乗客にも迷惑を掛けてしまいます。あちらにある喫茶店でしばらく休憩を取りましょう」
「……はい。ありがとうございます。そうします」
喫茶店まで、ジェームズは女性に手を貸してやると、脇目で少し人間観察とうのを始めることにした。
ほっそりとした顔は、青ざめ。痩せすぎな身体は、身体に必要な栄養が十分に行き渡っていないかのようだった。
バックはシャネルのハンドルバックを持っていた。
洋服はいずれもロンドンのオートクチュール(高級用品店)で買い揃えているから。
恐らくは、上流階級のレディだろう。
だが、美人だ。
見目麗しい。裕福層のレディといったところだった。
喫茶店で向いの席につくと、ジェームズは女性に優しく言った。
「もう、大丈夫。ここの喫茶店は私の行きつけなんだ。よくロンドン駅へと来た際には、コーヒーを頼んでいるんだ」
「……少し落ち着いたので、私もコーヒーを頼みますわ」
しばらくすると、シックな木材でできた落ち着いた雰囲気の喫茶店で、燕尾服を着たかのような格好のウエイターが注文を取りに来た。
ジェームズは、ウエイターにコーヒーを二つ頼み。
思い切って、女性に八宝石の話をしてみた。
「不躾を許してほしい。けれども、どうしても聞きたいんです。その左手の中指に嵌めておられるダイヤモンドは、ひょっとして、宝石店エアリス・ジャーンでお買いしましたか?」
「え、ええ。そうです。そして、この指輪は八宝石というものですの」
「やっぱり! ……コホンッ! いや、失礼。こちらのことです」
「?」
「あの。つかぬ事をお聞きしますが、その八宝石を私に譲っていただけないでしょうか? 勿論、タダとは言いません。十分なお礼を致しますから」
「え? なんですの? この宝石を譲ってほしい? はあ、そうねえ……そうですねえ……やっぱり、この宝石は私には似合いませんから。……今日も気に行った宝石を探しにエアリス・ジャーンへ行ったんですの。ところが、値段がとても高くて、私に似合う宝石もなくて。そうしたら、午後からは屋敷に、遠方の叔父さまが来る日だって急に思い出したのです。それにこの宝石はたったの一ポンドだったのですよ」
「あ、いえいえ。決して、そういう意味で言ったのではないのです」
「いいのですよ。この宝石を持ち始めてから、なんというか……不幸になりましたし」
「不幸?」
「そうですの。以前は友達の男の人たちからお茶会のお誘いをたくさん受けていたのです。ですが、この指輪を買ってからというもの、悪いことが続いてしまい。男の人のお誘いもぱったりとなくなってしまいました……そのせいで、暇で暇で、もう懲り懲りなんですの。ああ、不幸ですわ……」




