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Tale a3 葛藤と決意(2)

 扉が開くと、駐屯所内にいた二人の団員は同時にグランを見つめた。


「どちら様ですか?」


 冷静な対応をしていたであろう先輩の風格の団員に尋ねられる。


「私は各地を旅している……」


 グランが架空の肩書きを言い終わる前に、後輩団員が目を見開いた。


「先輩! この人、あれです! 一昨日、蜂の群れを討伐したとか言う……」


「ああ……女王蜂のか!」


 グランの功績は騎士団内全体に知れ渡っているらしい。


「偶然にも、そこで話が耳に入りました。何やら問題が発生したようですが、差し支えなければ詳しく聞かせて貰えないでしょうか?」


 その申し出に、団員二人は互いを見る。彼に頼ることができたならと光明を見出す一方で、口は中々開かない。グランが部外者であることを理解しているため、まだ事態を公にできないからだ。


「副団長を呼び、話の場を設けましょう。副団長の判断を待つということで良ければ、こちらでお待ち下さい」


「はい。構いません」


 それから十分か二十分程度でエルケルはやって来た。


 彼はグランを見るなり少し笑った。


「どうしてあなたとはこんなにも顔を合わせるのか」


 グランは何も言わずに、軽い会釈と愛想笑いを見せた。


「それで、話というのは?」


 エルケルはすぐに席に着いた。追い出すような素振りはなく、グランは話し合いに同席できるようだ。


 先輩団員が報告を始める。


「今朝の話ですが、中立領の巡回隊の一人があるモンスターに襲われたそうです」


「それは珍しいことではないが……。一応聞こう。どのモンスターだ?」


「……ナイトメアです」


 その名前を聞くと、エルケルは椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「ナイトメアだと……!? そんなはずはない!」


「ええ。私もそう思いますが、救援に入った者たちが口を揃えて言っていました」


「あり得ない……。もし本当だとしても、どうして今になって……」


「副団長、落ち着いて下さい。今我々がやるべきことは、目撃情報の真偽を確かめ、真であるならば至急手を打つことです」


「……そうだな。取り乱してすまない」


 エルケルが散らかした物を片付け座り直す隣で、グランは手を挙げた。


「あの、一ついいですか? そのナイトメアとは一体?」


「ナイトメアは魔王軍幹部ゲーリュスの生み出した思念体です。奴はナイトメアを半身として魔王の大望である世界征服を企んでいたのです」


 エルケルから思念体という言葉を聞いて、グランは彼が驚いていた理由を理解した。


「なるほど。しかしゲーリュスは騎士団長との戦いで死んでいる。だからその思念体だけが残されているのは不可解ということですね」


「ええ。団員の見間違いであれば良いのですが、大会も近い。疑念を疑念のままにしておくわけにはいきません」


 グランとエルケルは隣同士頷いた。


「でしたら、まずは偵察隊を編成しましょう」


 先輩団員がそう提言するが、


「それには及びません」


 立ち上がったのはグランだ。


「私がナイトメアの一件を引き受けます」


「しかしグラン殿は……」


 エルケルはグランを見上げ、引き留めようとする。


 そもそもグランが大会に参加する余裕はないと断り、エルケルの親切心を拒んだのはついさっきのことだ。エルケルにとっては、一体どんな心境の変わりようかと気になるばかりだった。


「かつて言われたことがあるんです。『お前は自分のことも周りのことも見えているけど、実は見えてない』って。どっちなんだって思いますよね」


「それはどういう……」


「大丈夫です。意味は理解しました。たった今、理解できました。追い詰められた状況だからこそ、私は自分の気持ちに正直になるべきだと」


 グランはエルケルに手を差し出す。


「聖騎士グランは王国騎士団に助力を誓います。そして、剣術大会に出場しましょう!」


「グラン殿……!」


 エルケルはその手を取り、強く握った。グランは少し痛いと思ってしまったが、エルケルの思いとして受け止めた。


「……熱くなっている所申し訳ないのですが、今後の見通しを考えましょう」


 何も言えずに見守っていた先輩団員がそう言うと、我に返ったように二人とも座り直した。


「まずは、偵察の話でしたっけ?」


「はい。グラン様が引き受けるとの話でしたが、単騎で向かわれるのは危険です。少なくとも、少数を騎士団から連れて行かれるのがよろしいかと」


 グランの身に何かあれば、それを知らせる者や場合によっては助ける者が必要不可欠だ。


「しかし騎士団は大会の準備でお忙しいでしょう」


「騎士団は大規模組織。その中から数人引っこ抜こうが、誤差の範囲です。ですが人選には注意しないと、返ってグラン殿の足を引っ張ってしまう」


「それじゃあどうするんですか?」


 後輩団員が声を震わせて口を挟んだ。


「……私とグラン殿の二人。それならば行動もしやすいでしょう」


「副団長一人ですか。副団長はグラン様と釣り合うのですか?」


 部下の手痛い指摘に、エルケルは大きく笑った。


「はははっ! まず釣り合わないだろうな。だが、騎士団が今出せる最高の戦力だ」


「冒険者に委託するという手もありますが……」


「ああ、その手があったか」


 得意気になっていたエルケルは先輩団員の進言により冷静になる。


 グランは図書館で冒険者やそのギルドの歴史について予備知識を得ていたため、改めて冒険者について尋ねる必要はなかった。


「グラン殿に判断を任せます。どちらが良いでしょうか?」


 “何でも屋”という言われから、冒険者は良く言えば自分の適性に合った仕事を選べる便利な職だが、性質上モンスターと渡り合えなければ収入は安定しない。


 そんなモンスター討伐のアマチュアからプロフェッショナルまで存在する組織。数少ないプラチナランクの冒険者が王都にいれば、申し分ない偵察隊を組める。しかし見知らぬ者と接触を重ねることは避けたい。協調性が取れるかも分からない。グランは今一度冷静に考えた。


「どちらかを選ぶのであれば、エルケル殿にお願いします」


「了解です。では、今からでも行きましょうか」


「はい」


 騎士団員二人を残し、グランたちは街中へ繰り出した。

Tale 3a 完 です!


「ここまでの話が良かった!」とか、「続きが気になる!」と思いましたら、率直な評価をしていただけると励みになります。


Tale a4 では、グランとエルケルがナイトメア討伐に向かいます。お楽しみに!

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