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Tale a7 剣術大会-本選-(6)

 グランは動揺しながらも、全く別の雰囲気を纏ったレインを凝視する。今の彼女は誰かを守る騎士よりかは、守られる側の王女そのものという雰囲気だった。


「おっと、これはどういうことだ。レイン選手の姿が突然変わり果ててしまったーっ! 先ほどの詠唱と言い発光と言い、なんだろうこの神々しさは! いや、それ以前に彼女はレイン選手なのか!」


 状況に縛られない役上手な女性は、不安を感じさせる一言を最後に放った。そう思ったのは彼女一人だけではないだろう。


「あなたは……レインさんですか?」


 実況席の女性に釣られて、グランはそう尋ねてしまった。


「ああそうだ。少し見てくれは変わってしまったがな。私の力の一部を解放させて貰った」


「力の一部?」


「今ここでは詳しく言えない。だが、いつか機会があれば明かそうと思う。だから今は、後半戦を始めよう」


「……ええ!」


 物憂げな目つきになったレインに、グランは力いっぱいの返事で答えた。


「さあいくぞ」


 レインは自分自身に優しく話しかけ、最初のように剣先を地面スレスレに向けながら走る。


 彼女にどんな変化が起こったのか、その本質が分からないグランは万事に対処できるよう距離を取ることにした。幸いにもグランには遠隔攻撃の手段がある。剣術大会とはこれ如何にという戦法だが、眼前の強者たりうるレインを相手取るには必要不可欠だ。


「【聖なる輝盾(セイントシールド)】!」


 前方にどっしり構えた聖盾からその複製体が射出し、レインを襲う。


 だがしかし、


「その盾ではもう私を止めることはできまい!」


 複製体はレインの大剣一振りで真っ二つに切断された。


(万物を貫く力、と言ったか……。もしかして、まずい状況か?)


 レインから注意を逸らさぬようにしているが、彼女は自身が物理的に群を抜いた力を手にしたと言うのに、おごり高ぶらず冷静な様子だ。それがまた厄介で、戦況を返すのは容易くないとグランは悟る。


「【掃討光弾(ホーリースウィープ)】」


 なぜだかレインは間合いを詰めない。そのまま押し進めば力でねじ伏せることもできるようにグランは感じているが、彼女も警戒していることの現れなのだろうか。


 だからとりあえず光の球をレインの進路と退路を塞ぐように意図するも、あたかもまばらに撃っているように見せた。


「はっ!」


 レインの短い声の後、空中で小爆発が幾つも起こった。またも大剣一振りがグランの策を無に帰した。


(あり得ない! ただ剣を振るだけで全ての球を破壊するのは物理的に不可能。これは魔術の力が派生しているのか……?)


「やはりこの力は私に良く馴染む。だが、それだけに……残念だ」


「……?」


 その意味を理解できないグラン。


「すまない。私の独り言だ。グラン、貴殿との試合にもっと興じたいが、全力を出さねば失礼に当たる。そろそろ決着の時だ」


 レインの鋭くなった目つきに、グランは息を呑んだ。


「行くぞ……一撃だ」


 殺気を振り撒きながら走って来るレインをどうにかして止めようと、


「近づけさせはしない、【聖なる輝盾(セイントシールド)】!」


 おなじみの能力でけしかけるが、


「その技は、今は無意味! やあっ!」


 やはり複製体は一刀両断された。


「そしてその技を連発することはできない。私はそう見切ったが……」


「……っ!」


 目を丸くしたグランを見て、


「やはりそうか」


 と小さく呟く。


「ならばこの数秒間、貴殿に私の接近を阻害する手段はもはやない」


 そう言った直後、レインは数十メートルは離れていた距離を一秒も感じさせない時間で詰め、ちょうど頭一個分の身長差のあるグランを下から覗き込んだ。


「これで終わりだ」


 そう告げられグランを襲った一太刀は――。


「……なんだとっ!?」


 間一髪割り込んだ彼の聖盾がそれ以上の侵入を許さなかった。


「この盾はある一つの世界で聖なる盾と呼ばれた、人間には生産方法も分からなければ加工も満足にできない、神が創造したとされる神聖な盾。つまりあなたは今、神を相手にしていると言っても良い。それを剣の一つで撃ち砕こうなどとは思わない方が良いですよ。たとえ、その劣等でしかないコピーを貫けたとしてもね」


 グランにはなぜか笑みが浮かんでいた。


「くっ……。こんなものでは……ない!」


 意外にも挑発に乗ったレイン。彼女の大剣の橙色の輝きが強まる。魔力が大剣の内部を膨張させるくらいに満たされていく。


「それならば、私の力もお見せしましょう。聖剣よ、私に光の加護を与えよ、【神力顕現(セイントオーラ)】!」


 グランの全身は、付随している聖剣や聖鎧も聖盾も、全てが神々しい白光に包まれた。先日の盗賊団の拠点で使った力だ。


「わ、私の力が……打ち破られるとでも言うのか? そ、そんな馬鹿な……。それでは貴殿は……あなたは……!」


 レインの声が震え、瞳が潤む。手にしている大剣には亀裂が入り、音を上げ始めていた。


「私もこの力を使う予定はなかったのですが、レインさんに敬意を表してのことです」


 グランは白光に包まれた聖剣を振り下ろす。同時に、レインの大剣の金属片が足元に散る。それでも彼女は、


「まだだ! まだ終わっていないっ!」


 諦める選択を取らなかった。王女を生涯守り抜く覚悟と、格式高い名家に生まれ育ったことよりの誇りがレインを覚醒させた。


「馬鹿な……!」


 レインはグランの聖剣を素手で止めていた。不思議と流血には至っていない。彼女の全身も橙色のオーラに包まれており、それが超人的な力を与え、体を保護しているのだと考えれば合点が行く。


「私は姫様を守るためにこの身を捧げて来た。この程度の障害、越えられねば騎士として失格だ……!」


 しかしレインは苦し紛れだ。足元の地面が削れ、隆起が発生する。全身で聖剣を受け止めるのがやっとなのだ。歯を食いしばるそのがむしゃらな顔は下を向いており、グランには見えない。


 聖剣はレインの両手に止められている。だから聖盾で横から殴った。


「うがっ!」


 当然周りの状況が見えていないレインは数メートル先に吹っ飛ばされ、地を転がった。


「私は諦めない! あなたがそう(・・)であるならば、なおさら諦めるわけにはいかない!」


 傷だらけのレインは正真正銘の肉弾戦を持ち掛けに突っ走る。


「……っ! 【聖なる輝盾(セイントシールド)】!」


 輝いた聖盾の複製体がレインを襲う。レインは拳で対抗するしかない。


「くっ……そんな……!」


 お互いに魔力で強化された力の衝突。その勝負の軍配はグランに上がった。


 レインは押されぬよう踏ん張るが、靴底が熱くなる。


「うあぁあッ!」


 転がった先でオレンジの魔力光が広い円形状に発生した。


 これはレインが試合開始直後から隙を見て、剣先から魔力を注いで作り上げた設置式の罠だったが、グランには看破されていた。彼もその餌食にならないように立ち位置には注意していた。


 そして皮肉にもレインは自分の罠に掛かった。いや、敵に利用されたと言った方が適当か。


 魔力光が収まると、レインはしばらく地面に伏していたが、


「ま、まだ……だ……」


 傷だらけの体に鞭を打ち、戦意を向ける。


 流石にこれは勝負あっただろうとグランは審判員に視線で訴えるが、同じようにレインも審判員に圧を掛け、決着はつかない。


 さてどうしようかと、グランと審判員が戸惑っていると、


「そこまでにしなさい!」


 凛々しい声が場を律した。


 見ていられない、と痺れを切らしたティアナが護衛を振り払い、選手用の通路の一つから姿を現した。


「姫……様……」


「レイン、あなたは負けたのよ。あなたがこうも冷静さを欠くのは珍しいけど、気持ちは分からなくもない。今は頭を冷やしなさい」


「承知しました……」


 ティアナはその身を呈してレインと肩を組み、競技場を後にする。


「グラン選手、決勝、頑張ってください」


 去り際に背中を向けながら聞こえた王女の声に、グランは勝利をひしひしと感じた。

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