Tale a7 剣術大会-本選-(5)
翌朝、純白の鎧を着た二人の試合は午前の目玉として開催される。
「グラン、私は今日この時を楽しみにしてきた。その期待に応えてくれることを願うぞ」
「全力で行きますよ」
挨拶を交わしてから、グランとレインは所定の位置に着く。
「それでは……始め!」
心なしか普段よりも溜めたように感じる審判員の合図。それが聞こえると同時に、グランとレインは睨み合った。
「おっと、両選手、互いにその場を動きません! これは相手の出方を窺っているのでしょうか」
実況席の女性が拡声器魔道具から大声を飛ばす。
グランとレインの外見は似通っているが、最大の違いは盾の有無だ。グランが有利に見えるが、実際には未知数だ。
「先に動いたのはレイン選手だーっ!」
レインは走り出していた。両手で持つ大剣を地面に向け、剣先でなぞっているのかと思わせるくらいにはスレスレだ。
しかし彼女はグランから遠ざかるように、弧を描きながら移動していた。無為に間合いを詰めない作戦だろうか。
対してグランは不動だ。レインを目で追い、万事に備えるため、聖盾が彼女の正面に来るようにだけ体を回転させる。
「レイン選手、グラン選手の背後に回ろうとしたみたいですが、まあグラン選手は警戒してますね」
結局、レインは所定の位置から半円を描くように移動したが、二者の距離と構図に変化はない。
そしてレインは、次にすり足で近づいて来る。彼女のおおらかさとは正反対の慎重さ。そんな彼女の姿を試合で見ることはやはりないからか、実況席の女性は、そして観客までもがどよめいた。
彼女の足音は、揺れる鎧の音は次第に大きくなり、
「はあッ!」
試合開始からおよそ三分後、遂にレインが斬り掛かった。
彼女の剣を聖盾で防ぐグラン。重心が乗った重みある一撃だが、レインが女性だからだろうか、本選で戦ってきた男性たちと比べても段違いな力には感じなかった。
(思ったよりも軽い……)
女性でありながら彼らと同じだけの脅威を孕んでいるということは多分に畏怖すべきことだが、大会に参加し多くの剣と事を交えてきた今のグランには感覚が麻痺しており、それが分からないようだ。
「【聖なる輝剣】!」
グランは聖盾の裏に隠し、こっそり魔力を充填していた聖剣を突き出した。
「見えていたぞ!」
そう言ったレインは剣の軌道を読んでいた。屈んで避けた先は、聖盾によりグランの死角となる場所。そこから足を払うように大剣を一振りした。
重々しい衝撃が骨を伝う。
「……流石だな」
自身の眼前に構えられた聖盾が要塞のように見えてしまうレインは嘆いた。
「こんなものではありませんよ。レインさんだって、そうでしょう?」
「ふっ、言ってくれるじゃないか」
二人は互いに退いた。会場が沸き立つ中、仕切り直しと言わんばかりに再び睨み合う。
レインは今度は真正面から斬り掛かりに来た。
調子が上がってきた彼女は、鎧を着ているとは思えない機敏さで盾に刃を立て続ける。剣の重みも増しつつある。
対してグランは押され気味か、後退を強いられていた。
(これが騎士レインの実力……。王女殿下の命を背負うだけあって、伊達ではないな)
背後を一瞥しながら、グランは防御に徹する。
「さあ貴殿はどうする、グラン!」
その瞬間、グランは大きく後ろによろけた。レインが足で聖盾を蹴り飛ばしたのだ。
「くっ……」
「品がないと思うかもしれないが、ここは戦いの場だ。私は、使える手は何でも使うぞ!」
王女を守る矜持がその台詞から滲み出ていた。
そしてレインはすかさず間合いを詰める。
「それは私も同じことです。……行きますよ!」
グランの口角が僅かに上がる。その隣で聖盾が輝き始めた。
「立て直す余裕がありながらも、わざと隙を晒したな!」
しまったと思いつつも、レインは背を向けずに距離を取ろうとする。
しかし――。
「逃がさない!」
グランの常套手段【聖なる輝盾】は既に射出されていた。
レインを打ち上げるように斜め上方を進む聖盾の複製。それに衝突してしまったレインは歯を食いしばる。
「こんなものでは終わらんっ!」
聖盾の複製体を足場に、高く跳躍してグランの正面に舞い戻って来た。
「手応えのある一撃だと思ったのだが……貴殿の守りは一級だな」
自嘲気味にレインは笑い捨てる。
「まさか足を使ってくるとは思いませんでした。私の意識から逸れた行動を取ることができたのは、やはり積んで来た経験が違うのでしょうね」
「ふっ、何を言っている……。それは貴殿にも言えることだ。その圧倒的な守備……単なる外装のせいだけではなく、それよりも強い信念が宿っていると、私は今相手して感じ取った。だからな……」
流暢に喋っていたレインが急に黙ったので、グランは腰を低くして構えた。
「……?」
「貴殿という牙城にも相応しいその守りをどう打ち破ろうか、私は考えた」
神妙な面持ちでそう語ったレインは目を閉じ、大剣を地に深く突き刺す。
そして片膝をついて、両手を組み握る。
てっきりまた攻め入って来ると予想していたので、グランは唖然とした。しかし今までとは何か雰囲気が異なる。
「我はエターニアの血を継ぐ者なり。今、この命の一部を捧げるがその代償に、我の願いを叶えたまえ」
レインの詠唱が始まると、会場は沸き立った。しかし誰もが不思議な物を見るような目をしていた。
同時に競技場の地盤が少し揺れた。それはレインの大剣がそこに突き刺さっているからなのだろうが、危機感を肌で感じ取ったグランは血相を変えて彼女を阻止しようとする。
「【掃討光弾】!」
放たれた光の球はレインに届かなかった。彼女を守るように出現した、橙色の円柱型障壁に弾かれた。
その状況下でも、レインは一歩も動かずに詠唱を続ける。
「我の願いは力。万物を貫く力なり。我に大地の加護を与えたまえ」
レインの周囲には、橙色の淡い光が舞っていた。やがて掻き消えていくと、突き刺していた大剣がひとりでに浮き、場の全員の視界を奪う発光を起こした。
「なんだっ、これは……」
目を腕で覆ったグランが体勢を直すと、そこには――。
「ありがとうございます」
誰に対してか謝意を述べるレインが、橙色に輝いた大剣を手にしていた。そして同じ色味のティアラを、いつの間にか被っているではないか。
「どういうことだ……」




