Tale a7 剣術大会-本選-(3)
アシュラは二本の剣を、Xを刻むように同時に振り下ろす。ところが、
「お?」
その剣は咄嗟に合わせた聖剣によって阻まれた。
アシュラが戸惑っている隙に、グランは聖盾で殴るように薙ぐ。
「おっと!」
容易くかわされてしまったが。
「まさか剣を盾に、盾を武器にしてくるとは。盲点だったな」
アシュラは息を整える。
(危なかった……。次はもうないな。それにしても、さっきのは一体……)
突然アシュラが姿を消した仕掛けが分からなかった。それを解かない限り、グランはまた奇襲を受けてしまう。
睨みを利かせ合う二人。
そんな中、周囲は試合に釘付けだ。
「グラン選手、アシュラ選手の奇襲を防いだのか!? あの動きに対応できる選手は中々いません。流石はグラン選手、圧巻の守りです!」
実況と観衆に褒められている気がするが、背中を晒した挙句の悪足掻きのような対応。本人は嬉しく思わない。
(距離を取るとこっちが不利になりそうだ。二刀流とやり合うのは分が悪そうだが、仕方ない)
グランは意を決して走り始めた。
「【掃討光弾】!」
真っ直ぐ突き出した聖剣の周囲に、光の球が多数浮かぶ。限りなく魔術に近い攻撃手段だが、聖剣の力を介している点から、反則にはならないはずだ。
実際、そのような摘発はなかった。観衆も審判員も、試合の動向を集中して見守っている。
「行け!」
グランが叫ぶと、球はアシュラを目掛けて飛び交った。
「【二刀剣術・多撃】!」
球はアシュラの目に捉えられない剣捌きの前に無力化された。
だが、グランにとってはそれで良かった。アシュラは必ず攻撃を相殺する行動を取ると睨んでいた。
密かに発動した【聖なる輝盾】が、剣を振り切ったアシュラを襲う。
ちょうど硬直の時間と重なり、
「しまった……」
アシュラは目を見開いて、交差させた二本の剣を聖盾の複製の前に突き出すが、
「これは……」
咄嗟のことで刃を当てていなければ、勢いもない。押し迫る聖盾の複製体を打ち壊すことはできなかった。
やがて、競技場の端で大きな土煙が舞った。
「やれやれ、これはやらかしちまったな」
土煙の中から、アシュラが肩を回しながら現れた。
「やっぱり、グランさんの攻めと守りにまともに付き合ってると、こっちが疲弊しちまうな。短期決戦で行かせてもらいましょう」
次の瞬間、またアシュラの姿が消えた。
グランは警戒を強める。
(どこに消えたんだ……)
グランは脱力し、目を閉じた。呼吸の音一つにも機敏になるくらいに、全ての意識を集中させる。
(……そこだ!)
グランは右後方に向かって聖剣を振り上げた。そこには――。
「な……にっ!?」
驚愕に満ちたアシュラが、まさに飛び掛かる寸前の状態だった。
二人は剣をぶつけ合う。
「俺の奇襲術を打破するとは……。ここまでとは思わなかった」
「もう同じ手は通用しません。さあ、どうしますか?」
「……決まってるさ」
アシュラは大きく息を吸った。
「正面から斬り合う!」
アシュラの攻撃が苛烈になった。
聖剣と聖盾で防ぐグランだが、後退りしてしまう。
「【聖なる輝盾】!」
至近距離から放った複製体も、
「うぉりゃあッ!」
アシュラが力を込めてX方向に剣を振り下ろすと、一瞬で砕けてしまった。
アシュラは地に膝をつきかけるが、勢いは収まらない。
観客たちが均衡化した戦況に沸いている。そんな中、
「アシュラさん、さっきの話の続きです」
グランはそんなことを言い出した。
「あなたは娘さんに道場を継がせる気はないと言っていましたが、私は……」
互いの剣が高く鳴り合う。
「道場を、あなたの剣術を存続させるべきだと思います」
「……なぜそのようなことを今?」
「それは……今、こうしてあなたと剣を交えていることを楽しく感じるからです」
「俺の剣が……楽しい?」
アシュラの力が一瞬だけ緩む。それに合わせてグランは押し込むが、再び拮抗した。
「ええ、楽しいです。そんな単純な感情って、物事を続けるには十分過ぎるものだと、私は思います。アシュラさんはどうなんですか?」
「俺は……」
視線を逸らすアシュラ。それでも剣の打ち合いに手加減はしない。
「出会ったばかりの私の憶測でしかありませんが、道場に通っている生徒さんは、少なくとも娘さんはそう思っているはず。このワクワクはもっと広がるべきです!」
「……そんな風に言って貰えたのは初めてかな。いや、初めてじゃない。門下生や娘からそんな言葉は幾つも貰っていた。だけど愛想笑いで返して、自分の守備的な感情で塗り潰していた」
アシュラに少しばかりの笑みが浮かぶ。そして大きく後方に跳んだ。
「ありがとう、グランさん。俺は大事なことを見落としていたみたいだ。この礼は……剣で返しましょう!」
アシュラは加速する。強固な意志を宿した彼とその剣は、グランがこの試合中に見た中で最も脅威たりうるものだった。
「【二刀剣術・双撃】!」
「【聖なる輝剣】!」
間合いを貫いたそれぞれの剣。僅かな静寂の後――。
「……っ!」
二本の剣が地に落ちた。
「勝負そこまで! 勝者、グラン選手!」
会場が歓声に包まれる。
「大丈夫ですか?」
グランは倒れたアシュラに手を伸ばした。
「ありがとう。やっぱりグランさんは堅かったな……。でも、二刀剣術が真正面から一本の剣に打ち負けるのは、俺の修行が足りない証拠だな」
自虐風に笑うアシュラ。
そこへ、観客席の最前列で観戦していた娘が安全柵を飛び越えて侵入した。
「お父さん!」
膝をついているアシュラと同じ目線になるまで屈む。
「おいおい、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
「私はお父さんの娘。立派な関係者だよ!」
そう言って、娘はアシュラの服を捲る。
グランは痣だらけのアシュラの肩を目にした。
「やっぱり……。どうして無理してたの……」
「馬鹿だな……。これくらいはなんでもねぇ」
「嘘! 凄く痛そう……。頑張るお父さんの姿は凄く誇らしいよ。でも、道場のみんなも私も、お父さんには体を大事にしてほしいって思ってる。だって、いつも稽古が楽しみだから!」
アシュラは潤んだ瞳で娘を見つめる。
「私ね、お父さんが私に剣を教えるのに気が向いていないのは、何となく気付いてた。だけどね、私は剣を、二刀流剣術を続けたい! 剣術家として有名になって、多くの人に楽しさを伝えて行きたい。こんな剣の使い方もあるんだってことを」
「そうだな……。俺は剣の腕の前に、一人の父親として、いや人間として未熟だったようだ」
アシュラは娘を抱きしめながら、嬉し涙を流した。
そして立ち上がると、選手用の通路口へと娘を連れて歩き出す。
「グランさん、もしラバリカを訪れることがあれば、その時は道場に寄って下さい。また剣を交えて欲しい」
「もちろんです」
アシュラたちは次第に遠ざかるが、娘は一度だけ立ち止まった。そしてお礼を言うと共に深々とお辞儀をして、父親を追いかけた。




