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Tale a7 剣術大会-本選-(2)

 傷の付いた胸当て。筋肉の付いた太い両腕。女の子よりも赤い髪は色違いのヘッドバンドで纏められていた。


 そして肩から覗くのはクロスした二本の剣の柄だ。


「あなたがアシュラさん……」


 グランは無意識に身構える。


「おいおい、ここはまだ戦場じゃないぜ。気楽に行こうや。ところで、娘が失礼なことしなかったか?」


「そういったことは特に」


 アシュラは娘を覗き込み、やがてサイン入りヘッドバンドに目が行く。


「そうですかい。そりゃあ良かったな」


 娘の頭をトントンと撫でる。


 娘は特に嫌がる素振りを見せなかった。


「さ、あとは歩きながら話しましょうぜ。なにせもうすぐ試合だ」


「ええ」


 グランたちは並木道を行こうとするが、数歩の直後、


「わ、私、先行ってるねっ!」


 アシュラの娘は急に走り出し、二人を置き去りにした。


「私たちに気を遣ってくれたのでしょうか?」


 遠ざかる背中を見つめながら、グランはそう言う。


「さあ……。もしかしたら、自分の赤裸々なことを目の前で話されたくなかったのかもしれん」


「話すんですか?」


「あいつはあなたに会った。それが偶然だったとしても、あいつがあなたを応援したがる気持ちは本物だ。ならば、ちょっとぐらい教えたって無関係とは言えないだろ?」


 アシュラは両腕を大袈裟に広げた。


「それでアシュラさんに同情して、手を抜いたりはしませんよ」


「ハハハッ! そんな目論見は全くないですぜ。こちとら反則手は強く嫌うもんでね」


 アシュラの娘が本当に自分のことを目の前で話されたくないと思い、逃げに転じたならば、彼女の危険察知は優れているとグランは感じた。


 実際、父親は今から娘のことを話そうとしているのだから。


 お互いに考えていることが無意識に通じ合っている。そう考えれば、親子だからこその事の展開だとも思えた。


「俺は元冒険者でね。今はラバリカって街で道場をやってるんです」


 ラバリカとは、中立領にある街の一つだ。


「つまり、二刀流剣術を生徒に教えているってことですか」


「ああ……知っていましたか。そう、生徒数は少ないですが、俺が面倒を見てます。娘もその一人なんですわ」


 アシュラは呆れた口調でそう言った。


「娘さんが?」


「危ないからやめとけって最初は反対していたんですがね、これが筋が良いんですよ……。今は何も言わずやりたいようにさせてますが、少し複雑です」


「私はさっき娘さんと話して、とても楽しそうにしていると感じました。それはアシュラさんの指導が、選択が間違っていないことの証明になると思います」


「……だと良いんですがねぇ。俺が危惧しているのは、将来、娘がその道に行こうとしていることなんです」


「つまり騎士や冒険者、もしくは道場の跡を継ぐんじゃないかと?」


「その通り。俺の経験から言えば、冒険者を続けていくのはちと過酷だ。ゴールドやプラチナといった階級に上り詰めれば安泰だが、そうでなければ見返りがしょぼすぎる」


 事実、ノーマルランクやブロンズランクの冒険者が相応のクエストをこなして得られる金額は、一日にしてその日の食費と宿代だ。それゆえ、他の用途を見出そうとすれば、そこを切り詰めなければいけない。


「では騎士団はどうかと言えば、水準が高すぎる気がしてね。それに女性が入団した例は限りなく少ない」


「跡継ぎはどうなんですか? 守備的な意見ですが、外の世界にいるより安全は保障されていると思います」


 アシュラは腕を組んで頷く。


「最も堅実的です。だが、私は道場を存続させる気はない」


「なぜ?」


「元々、冒険者の職に疲れて、思い付きで始めたことなんですわ。意外にも軌道には乗りましたがね」


「それならば、何も問題は無いように感じますが」


 歩き続けている二人だが、アシュラは足元を気にするように俯いて、大きく息を吐いた。


「二刀流は従来の型から大きく外れた剣術。体への負担もその分大きい。だからあまり広がって欲しくはないっていうのが俺の率直な見解です。それに、界隈では二刀流のアシュラなんて持て(はや)されているが、あまり良い気はしていないんだよなぁ……」


「アシュラさん……」


 グランは言葉に困った。二刀流の剣士と聞いたからどんな屈強な男が相手かと思ったら、蓋を開けてみれば目の前にいるのはブルーなおじさんなのだから。


 ある意味で精神攻撃を受けたように感じた。もちろんアシュラにその気がないのは理解しているが。


「さ、着きましたぜ。試合前にこんな話をして申し訳ない。自分語りまでするつもりはなかったんだが……」


「大丈夫です。試合では手加減しませんよ」


「もちろんですぜ」


 闘技場の正面入り口で、二人は拳を突き合わせる。そして円形の通路をそれぞれ正反対に進む。


 二人が到着したのは結構時間ギリギリだった。それから数分で競技場に姿を現した。


「さあ、続いての試合は……」


 実況席の女性は通路に選手の影が見えるのを待つ。


「予選ではトラブルに巻き込まれましたが、安定した攻守を見せつけ勝ち進んできました。王女殿下を守った姿はまるで聖騎士と謳われています、グラン選手! そして、圧倒的なまでのオーバーパワーで相手を撃ち砕く! 現在は道場主をしている二刀流剣術家、アシュラ選手!」


 二人は所定の位置に着く。


「この試合は矛と盾のぶつかり合いになりそうな予感がします!」


 女性は口達者に会場を盛り上げている。


「それでは……始めっ!」


 彼女の言葉の合間を縫うように、審判の騎士団員は開始のコールを告げた。


 両手に剣を構えていたアシュラが、開幕グランに突進する。


 右手の剣は威嚇するように鋭い先端を向け、左手の剣はまるで盾のように自分の体を守るように構えていた。


「グランさん、行きますよっ!」


 右手の剣に対し、グランは聖盾を突き出して防いだ。一撃の重みがこれまでの対戦相手と違うのを、全身の骨を伝わる衝撃から感じた。


 両足で踏ん張ったつもりだが、聖盾が押され、体も一緒に数センチではあるが動いたのだ。


(これほどまでに……っ)


 覇気ある剣幕で圧を掛け続けるアシュラに対して、歯を食いしばるグラン。


「まだまだあッ!」


 グランの右側からもう一本の剣が襲い掛かる。


「ぐっ……!」


 それを聖剣で止める。


 アシュラは後方に大きく飛び、距離を取った。そして着地したかと思えば、勢い良く地を蹴り再び急接近する。


「流石は予選の相手とは一段も二段も違う!」


 試合前の憂鬱な気分をどこにも感じさせないアシュラ。責務を背負ったような威圧感だった。


「これ以上は近づけさせない! 【聖なる輝盾(セイントシールド)】!」


 グランは聖盾の複製体を、アシュラの進路を阻むように繰り出す。


 それに対してアシュラは、


「その技を待っていた!」


 と言い、聖盾の複製体に向かって行く。


 右手の剣で殴るように斬りかかる。盾の勢いは止められたが、アシュラの剣も通らなかった。


「見た目に反してそれなりに堅い様だが……」


 アシュラは深呼吸して左手の剣を突き刺した。


「俺の攻めは他人の二倍だ! この盾も、撃ち砕いて見せるっ!」


 聖盾の複製に亀裂が走る。それから一秒もせずに盾は崩れ消えた。


「馬鹿な……!」


 グランは驚愕に震えていた。クロス・ファンタジーでも彼の守りを撃ち抜けるのは本当に限られていたからだ。


「甘く見たか、グランさん? 次はこちらの番だ!」


 アシュラの不敵な笑み。それが見えた瞬間、彼の姿は消えた。


(ど、どこに……!)


 焦るグランの心を読み取ったのか、その答えは唐突に聞こえた。


「ここですぜ。【二刀剣術・双撃】!」


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