Tale a5 剣術大会-予選-(2)
剣術大会当日。開会式の執り行われる中央大闘技場に集まるのは千を超える出場選手。彼らを囲むのは円形に並ぶ客席を埋め尽くす観客。
ただいまより……という司会の女性の一声から始まった開会式。その雰囲気を、グランは部活動の大会に似ていると感じていた。
ルールや注意事項の読み上げを傾聴する。エルケルの言った通り、競技会場はこの大闘技場以外にも五つあるらしい。
いずれも王国騎士団の所有する修練場であり、観戦には向かないものの円滑に試合を進めるには、その使用は致し方ないようだ。
その分、本選は大闘技場だけで行われるので、盛り上がりはそちらに期待される。
(俺はこの場所での試合か)
グランの属する第四十九ブロックは大闘技場での競技だ。
「さあ、それでは最後に、本大会の競技委員長を務めていただく、ティアナ王女殿下よりご挨拶をいただきます」
グランの意識は強く、呼ばれた壇上の王女に向いた。
あの日、馬車の中にいたのは彼女で間違いないという確信を抱くと共に、自分の目的の一つを思い出す。
(情報が一つでも手に入ればいいが、まずは……接触できるかどうかだな)
【聖光の五英傑】の仲間たちに自分の存在を知らせること。
王族から召喚士に関する情報を引き出すこと。
この二つがグランが剣術大会に参加している主な理由だ。元々、参加してみたいという個人的な欲に従った結果ではあるが。
そのためには予選を、そして本選を勝ち進み、ティアナの目に留まらねばならない。
グランは意気込んで全身に力が入る。
「皆様、今年もこの大会のためにお集まりいただき、ありがとうございます。この大会に参加した目的は人それぞれ、歩んできた道もそれぞれだと思います。私は今日より目にする皆様のご活躍を心より楽しみにしています」
挨拶が終わると、大闘技場が拍手の嵐で包まれた。
当たり障りのない凡庸な内容だったが、これは王女の本心からのものだ。グランはそう感じ、彼女の優しさの片鱗に触れた気がした。
開会式が終われば選手は解散、自分たちの競技場に向かう。グランは移動する必要はないが、試合は番号の若いブロックの一回戦から始まるため、出番は数時間後になりそうだ。
(やることはないし、他の試合でも観戦だな)
勝ち進めば強豪と相手することは避けられない。ましてや敗者復活無しのトーナメント形式において、敗北は許されない。将来の対戦相手の研究をするのは悪くない選択肢だ。
また、グランの予選がこの大闘技場で行われることは、彼にとって幸運だった。賓客の席は大闘技場にあり、ティアナは休憩の時間以外に席を外すことがないからだ。
予選から存在感を示すチャンスがあるのだ。
誰も使ってなさそうな客席に腰掛け、期待を胸に寄せ試合の開始を待つ。
「さあ、記念すべき初戦、第一ブロックの一回戦が始まります!」
第一ブロックの初戦。開会式で聞いたばかりの張り切った声の女が引き続き、大会を盛り上げてくれるようだ。彼女は実況席からマイクに似た魔道具で声を飛ばしている。
声の後、円形闘技場の両端の通路からそれぞれ選手が現れた。
一人はごく普通の金属鎧と金属剣を腰に身に着けた男性。
「対戦者はカイ選手、そして……」
対してもう一人は――。
「……!」
グランは目を奪われた。
堂々とした外見の金髪を下ろした女騎士。グランと似た色彩、白いベースに金の優美な装飾を散りばめた鎧を着ている。
彼女が姿を現すと、大衆は歓声を上げた。
「前回大会覇者、レイン選手だーっ!」
今大会の優勝候補の一角であることは明確だ。
レインは観客席に何回か、礼儀正しく頭を下げた。そして最後に遥か上方に座すティアナに深く礼をすると、彼女は細やかな笑みを返した。
「これより、第一ブロック一回戦第一試合を始めます。それでは……」
審判役の騎士団員の声に合わせ、カイとレインは剣柄を握り睨み合う。カイとて、目の前の強敵を前に諦めてはいないようだ。
「始め!」
試合は十秒続いたかという程度に短く決着した。
カイのがむしゃらな突進を前に、レインが深呼吸一つすると、彼の剣を空高く弾き飛ばした。
レインの剣撃の重さによろめいたカイは心臓部に剣先を向けられた時点で、敗北を告げられた。
勝敗の判定方法には幾つかある。
一つ目は選手たちの技巧で一本と呼べるものを取ること。
二つ目は選手のどちらかが気絶や負傷などの戦意喪失になること。
三つ目は選手が大きく隙を突かれ、命を取られる危険に晒されること。
「ずいぶんとあっけなかったな……。まあ、一回戦は実力の差が大きいだろうし、当然と言えば当然か」
一方的な試合結果に苦笑いするグラン。
その後も試合観戦を続け、自分の番が近づくにつれて緊張が高まっていった。
(さて、そろそろ行こう)
自分の一回戦の相手だけ難敵だったらどうしよう。思わぬハプニングが発生したらどうしよう。……とらしくないことばかりが浮かぶ。
そんな環境下でも、課せられた使命を背負ったように、足は自然と選手控え室へと向かう。
数分前に控え室に入り、案内役の騎士団員に誘導されてグランは観客の視線を浴びることになる。
「続いては第六試合です!」
実況役の女性は飽きることなくアナウンスを繰り返している。
「まずは今回が初出場のグラン選手! そして……」
グランの対面を歩いて姿を見せたのは、彼よりは背丈が低いが細身のイケメン風の男。
出場者の中には騎士や兵士のような頑丈な武装をしている者が大半だった。残る一部は軽装で、普段着とまでは言わないが、剣で容易く裂けそうな素材でできた物に見て取れた。
グランの対戦相手もその少数派のようだ。
薄手の黒革のジャケットに、伸長性のあるスラックス。来る場所を間違えていますよと言いたくなるようなカジュアルコーデだった。
「えーっとなになに……。ノーチェルの最後の砦? なんだこれ?」
実況席の女性は手元の縮小されたトーナメント表と選手の簡易詳細が載った紙を覗き込んで、小声で困惑している。
「はい、失礼しました! グラン選手のお相手はハインツ選手!」
ハインツからほんのり感じる色気。グランはこれに類似した雰囲気を知っていた。
(ギールにそっくりだ。いや、でも髪の色は違うし、身長もギールの方が高い。それに……)
ギールとは【聖光の五英傑】のメンバーであり、キザな男のことだ。
グランはハインツの胸元に目を向ける。全開のジャケットを見て確信できた。
(ギールは必ず花を胸ポケットに入れている。意味は今でも全く分からんが。こいつは全くの別人だな)
グランは肩の力を抜いた。
「両者、用意はいいか?」
審判の騎士団員の問いかけに、二人は頷いた。
「では、始め!」
開幕と同時、グランは真っ直ぐ走り距離を詰める。
対してハインツは、
(あいつ、なぜこんなに余裕なんだ!)
グランが不気味に思うほどにヘラヘラしていた。
動きに機敏性がない選手、剣使いが荒く実力不足の選手など、これまでの試合観戦で多様な選手を見てきたが、ハインツはそのどれにも当てはまらない。
止まるべきか、走り続けるべきか迷うが、グランは後者を選択した。
距離を取らせて支配下におこうとしている可能性が過ったからだ。
そうなるくらいならば、自分の剣が届く範囲内で戦った方がより安心と言える。
(この場所から攻める! 届いてくれ!)
まだ距離はあるが、強く踏み切り、疾風の如く加速し、腕を振り伸ばした。




