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Tale a5 剣術大会-予選-(1)

 剣術大会の数日前。グランは選手登録のため、王国騎士団本部を訪れた。


「グラン殿、お待ちしていました」


 今日のエルケルはカウンターの向こう側で雑務に忙しそうだ。


「駐屯所よりも立派な場所ですね。……別にあそこを(けな)しているわけではないですよ」


「分かっています。さあ、こちらの登録用紙に記載をお願いします」


 グランは羽ペンを手に取り、スムーズに記入欄を埋めて行く。


 登録する名前はもちろん『グラン』だ。これしかない。


 注意書きの箇所に『実名でお願いします』と見えた時は、二つ名でも名乗る輩がいたのかと内心笑ってしまった。


 グランは先日、自ら聖騎士と名乗ったことに、以降は自戒することを志した。


(あの時はどうしたんだろうな……。まあ、たまにはいいか)


 グランは自分から二つ名を名乗り格好つける性分ではないのだが、先日は自然とそうしていた。


「グラン殿?」


「ああ、すみません。……これでお願いします」


 残る欄を急いで埋め、用紙をエルケルに差し出した。


「はい。確かに預かりました。では体調を崩されないよう、お過ごし下さい」


「エルケル殿も頑張って下さい」






 そして大会前日。グランとエルケルは中央広場で会した。


 この日は大会の詳細事項が掲示される。そのため他の参加者と思しき人々で、広場は溢れかえっていた。


「凄い人集りですね」


「全くです。主催者側としては嬉しい限りですが」


 圧倒される二人だが、この賑わいは今に限ったことではない。遠方からの参加者や見物客も多い。近頃は王都全体が繁華街と化していた。


「そう言えば、大会の形式ってどんなのですか?」


「大会形式は第一回から変わっていません。グラン殿は初参加ですから分かりようがありませんが、あと数分もすれば分かりましょう」


 エルケルの焦らすその言葉の通り、定刻になると大会開催予告の際と同様に、騎士団員が大きな紙を貼りに大衆の前に現れた。


 しかし超大判サイズの紙にはフォントサイズの小さい文字がずらりと並んでいて、最前列まで接近しなければ読むことが敵わなかった。


 したがってグランたちがその内容を知ることができたのは、周囲のほとぼりが収まってからだ。


「大会はトーナメント形式ですか」


 トーナメント表の枝は長く長く続いている。


「これだけの参加者ですから、ブロックごとに総当たり戦をやると一体どれだけの時間が掛かることやら。敗者復活もなしの一回限りの勝負です」


「確かにその通りですね。それで、俺のブロックは……」


 数多のブロックから自分の名前を探し出すのは苦労した。


「あった……第四十九ブロック」


「ちなみに私は第三ブロックです」


「エルケル殿も参加できるのですか?」


 グランは開催者側の騎士団から出場者がいるとは予想できなかった。


「もちろんです。この大会は私たちの良い腕試しの機会にもなります。実際に剣を交えた方が色々と伝わって来ますよ」


「なるほど。ですが良かったです。同じブロックじゃなくて」


「もしそうだったら私が泣きますよ! あっ……この対戦表は厳正なる抽選の(もと)に出来上がっていますよ」


 エルケルの突然の釈明。別にグランが懐疑の視線を浴びせたわけではない。


「分かっています」


「一部、過去に上位入賞した選手が予選で当たらないようにはしていますが」


 剣術大会の予選は事前に振り分けられた六十四個のブロック内で行われる。ブロックごとに十六人のトーナメント形式で、勝者一名が本選に進める。


 グランが本選に進むには、まず四回の勝利が必要だ。


「大会、楽しみですね」


「本選でお会いしましょう」


「エルケル殿、既に勝利宣言ですか?」


「それくらいの気合いですよ、私は。第一、予選で負けてしまっては、副団長として他の参加している団員たちに示しがつきません!」


「……これは責任重大ですね」


「はははっ! まあ毎年のことですから」


 エルケルは深呼吸して気持ちの昂りを抑えた。


「そうだ……。明日の開会式でも言われると思いますが、予選は複数箇所で行われるので場所を間違えないようにして下さい。不戦敗なんて結果は誰も望みません」


「ええ。それだけは滑稽ですね」


 グランは苦笑いで返した後、大通りでエルケルと別れた。


 明日のために英気を養える豪勢な料理を胃もたれしない程度に頬張り、宿泊先に帰る。


 宿泊先は相も変わらずの高級宿。


 連日過ごして気付いたことだが、手持ちの資金にはまだまだ余裕があり、わざわざ宿を変えるのも面倒だという判断からずっとお世話になっている。


 そのためグランはVIP扱いされていた。


 宿の玄関を通れば必ず従業員が出迎え、荷物があれば部屋まで運ぼうとする。在室時に時折ノックが聞こえるので扉を開けると、愛想よく笑みを浮かべた従業員が間食のサービスを持って来る。


 従業員は今日も絶好調で、グランが明日の大会に出場することをどこから嗅ぎつけたのか、一流の整体師を呼んでいると言われた時には彼らのサービス精神の底が知れないと思った。


 ――なんだかんだ全ての施しを受けるのだが。


 整体の効果で疲労が軽減されたグランは客室に戻り、ソファーに浅く座って前傾姿勢で考え事をしていた。


(あのトーナメント表には、あいつらの名前はなかったな……)


 予想以上に多くの参加者名を前にしたグランは、元より密かに抱いていた期待が大きくなった。


 だが全てのブロックをしらみ潰しに見れば、その勝手な期待は裏切られた。


(流石に、この状況で大会に出るほど呑気じゃないよな。自分たちのことで今は精一杯だろう。それにこの世界には大陸が四つあるらしいからな。バラバラに転移していたとすると……気の遠くなる話だ)


 グランは立ち上がり、ベッドに転がった。


(明日は寝坊していられない。俺はこの大会で名前を残してみせる)


 大会に優勝し、グランの名が最低でもアルスエリア王国全土に知れ渡れば、仲間が接触を図って来るかもしれない。


 グランはナイトメア討伐の数日後に、そうやって糸口を作り出せることに気が付いた。


(そのために、最初から全力だ。明日が待ち遠しい……!)

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