残り【5日】〜別れの準備〜
昨日の夜にエリナさんが帰ってきたらしく、久しぶりに料理の勉強のため、一緒に朝食の準備した。エリナさんの顔も何故だか懐かしく見えた。
「その様子だと、旦那様との亀裂は解消したようですね」
「はい。皆さんにはご心配お掛けしました」
あの時、エリナさんの言いつけも破ってしまったので、色々と迷惑をかけた。
「別に良いのよ。私も貴方から学べることもあったし」
「私からですか?」
そんなことないと思うけれど、と私は頭の上に疑問符を浮かべた。エリナさんはやれやれといった表情で、
「普通、主人に依存してしまった子は主人の死を乗り越えられない。逃げ出すか、死を懇願するか、最悪自ら死を選ぶ子さえいるの。でも、全てがそうじゃないって貴方を見て思えた。結局のところ、私も奴隷というものを偏見の目で見てたのね」
「私の場合、偶々ご主人様に出会えたからってのもあると思いますけど」
「それでも、貴方は悩み苦しんで、最後には答えを出した。それも、苦しみながら生きていく道を。私はそれだけでもリータは凄いと思うわ」
悩み苦しんだとは言え、部屋に篭っていたのも今更考えてみれば、救いが差し伸べられるを待っていたんだと思う。誰でも良いから、私の背中を押して欲しかった。あの時ご主人様に背中を押されなければ、永遠に答えを出せずにいたかもしれない。だから、全てはご主人様がご主人様だったから、なのだろう。
「それで、リータ。旦那様が亡くなった後、どう生きていくか、考えた?」
昨日、ご主人様から亡くなった後のことも聞かされた。この家は私の所有物になるらしく、この先困らない程度のお金も用意してくれるということだった。最悪、何の仕事をしなくても生きていけるようだ。
でも、私には使命がある。元奴隷として成功したところを世間に見せつけないといけない。だから、何かを磨いて世界に発信できるような事をしないと。
「私はガーデニングを学んで、ガーデニング教室を開いてみたいです」
今の私にあって、伸ばせるものはこれしか思いつかなかった。ご主人様も私の夢を支持してくれた。
「そう。良い夢ね」
エリナさんはニッコリ微笑んで、そう言った。初めて見るエリナさんの表情だった。
負けじと私も、大きく笑って「そうでしょう」と返した。
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昨日の大雨から一転、外は爽やかな晴天だった。雲一つもないし、空気も澄んでいる。肝心の植物たちも昨日の補強の甲斐あって、大きな障害もなかった。
育ち具合も、菜園の方は小さく実をつけているものもあったりして、数日も経てば料理に使えるだろう。
「お、リータは花壇が好きだねぇ。やっぱりいた」
植物を見ていた私の後ろにはご主人様が立っていた。ご主人様も以前のように執務室に籠る必要がなくなり、残りの日々はのんびり過ごすらしい。
「そう言うご主人様はどうしてここに?」
「一応、俺はリータのご主人様ではなくなったんだけどね」
アハハとご主人様は苦笑した。確かにその呼び方はもうおかしいのかもしれない。でも、
「私にとって、ご主人様はずっとご主人様なので」
「ハハ、変なの」
私がご主人様と認めるのは後にも先にもこの人しかいない。だから、ご主人様の呼び方はこれでいいのだ。それに、今更呼び方を変えるのも照れくさいし、何と呼べばいいかもわからない。
「そう言えば、私の身分ってご主人様の何なのでしょう?」
よく考えて見れば、奴隷でない私の身分ははっきりしない。この家に住んでいるけど、使用人でもないし……。
考えこむ私に対して、ご主人様は笑って言った。
「そんな気にすることでもないけどね。一応、俺の養子のような扱いになってるよ。遺産の相続とかも家族じゃないと面倒だからね」
「よ、養子ですか!?」
ということは、私がご主人様の娘ってことになるってこと!?
反対に考えると、ご主人様がお父さん!?
驚いて挙動がおかしくなっている私にご主人様は、
「今更変に意識しなくていいよ。リータはリータのままでいてくれれば良いからさ。でも、俺はリータの父でいられる今の時間は嬉しいよ」
と言ってくれた。私もそう思ってくれるご主人様の気持ちは嬉しいし、それに応えたいけど、やっぱり勇気が湧かない。
「いつか、自信を持って……呼べるが来たら、呼び方を変えても良いですか?」
ご主人様は大きく頷いてくれた。




