第505話 16歳のイングリス・和平交渉12
「ともあれ、早く出発しましょう」
リーゼロッテがそう言って、後方に着陸している機甲親鳥の元に向かう。
今回の移動の足はこれになる。
聖騎士団の飛空戦艦は修理中。封魔騎士団の飛空戦艦は、ロシュフォールやユアやシルヴァ達が乗り込んで遠征中だ。
武公ジルドグリーヴァは飛空戦艦を貸し出してもいいと言ってくれたのだが、それはそれで足がつき目立ち過ぎてしまう。
というわけで今回は機甲親鳥での行動だ。
飛空戦艦程の積載容量や速度は出ないが、この人数ならこれでも問題ない。
速度的な問題は、ここまではイングリスの神行法で転移してきたので問題ない。
ここから暫く進んだ所にヴェネフィク側の砦があり、そこにあちら側の迎えが待ってくれているとの話だ。機甲親鳥で問題ないだろう。
連発は出来ないし行った事のない場所には転移出来ないが、緊急事態の発生時には、再び神行法で引き返す事も出来る。
「では、出発します!」
皆が機甲親鳥に乗り込み終えると、レオーネが機体の操縦桿を握る。
――しかしふわりと浮くはずの機甲親鳥は、ガタガタと揺れるだけで飛んでくれなかった。
「え……? 動かないわ――ひょっとして故障かしら?」
レオーネが首を捻る。
「おかしいですねえ。出発する前の試運転では何ともありませんでしたが……」
ミリエラ校長も釈然としない顔だ。
「動力が切れているのかも……あれ? そんな事はありませんわね」
リーゼロッテが機体の状態を確認するが、特に異変はなさそうだった。
「ええと、じゃあ機関部のほうに何か……」
ギシギシギシ……ッ
自分も不具合の原因調査を手伝おうとしたイングリスの足元の床板が、軋んで悲鳴を立てていた。
イングリスはそれを気にも留めないが、ラフィニアがそれを見てはっとする。
「あっ……! クリス、ちょっと止まりなさい!」
「? うん」
ラフィニアはぴたりと動きを止めたイングリスの身をぎゅっと抱え、持ち上げようとする。「ふんっ……! お、重い……!」
しかし顔が上気するくらい力を込めても、全く持ち上がらない。
「ちょっとクリス! あの重いの下に着てきてるでしょ!?」
「え? うん。一緒に重力も重くすれば効果抜群だよ?」
「そのせいでしょ! それで重くて浮けないのよ、きっと!」
「ああ……!」
ぽんと手を打つイングリス。そう言えばそういう事もあるかも知れない。
「もう……! そんなの脱ぎなさい! 機甲親鳥が飛べないでしょ!?」
「ひゃあっ……!? ちょっと脱がそうとしないで……! それに着てても脱いでも載せていくなら同じだし――」
「その辺に置いていけばいいでしょ!」
「えぇ!? そんなの嫌だよ、これ凄くいいんだから……!」
「い、行けません胸元が見え過ぎてしまいますよ。ま、まあ一度降りてみて、本当にそれが原因か確かめてみては……?」
メルティナが服を脱がそうとするラフィニアを止めてくれた。
「あ、ありがとうメルティナ」
「いえ、とても大きくて綺麗で見応えがありますけど……すこしはしたないですからね」
気づくと、武公ジルドグリーヴァやウェイン王子を初め、男性達は皆ばつが悪そうに視線を逸らしている。
「見てはいけませ~ん!」
ミリエラ校長も皆の前に立ち両手を大きく振って、見せないようにしてくれていた。
「あ~……ごめんごめん、クリス」
「もう。ひどいよ、ラニ……!」
流石に恥ずかしい。少し拗ねながらイングリスが機甲親鳥から飛び降りると、ドスンと大きく音が立ち地面が揺れた。
「これなら……あれ? まだダメだわ」
「本当ですわね、少しは軽くなったみたいですけれど……?」
「おぅ、まだダメか。なら……」
そう言ったのは武公ジルドグリーヴァである。
イングリスと同じく機甲親鳥から飛び降りると、同じくドスンと大きく音がした。
「あ~! ジルさんも重いの着てたんですね……!」
「ハハハハ。すまんすまん! まあ少しでも鍛えるためには重宝するからなぁ」
「それは全くその通りですね。本当にいいものを頂きました」
武公ジルドグリーヴァの意見は尤もだとイングリスも思う。
うんうんと頷き合うイングリスと武公ジルドグリーヴァに、ラフィニアがため息をつく。
「……はぁ。二人とも修行の事しか考えてないんだから」
「あ、浮いたわ!」
レオーネの言う通り、機甲親鳥は何の問題も無く空に浮き始めた。
「単に重量過多だっただけですわね。良かったですわ」
「だけど……これじゃイングリスさん達を載せて行けないですねえ」
ミリエラ校長が困り顔をしている。
「クリス~! ジルさん! やっぱり二人が重いの着てるのが原因だから、重い服は脱いで置いていって! どこかに帰りに取りに来ればいいでしょ!」
しかしそのラフィニアの指示に、地上にいる二人は首を振る。
「「いや!」」
「じゃあどうするのよ! 先に進めないでしょ~!?」
「「大丈夫!」」
また二人の声が重なる。
「構わず先に行きな! 俺達は――」
「走って行くから!」
言ってイングリスと武公ジルドグリーヴァは、通れるようになった街道の隘路を駆け出し始める。
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