令嬢達のお茶会
「……あ、えっと……リューリエ様……」
本当は名前で呼ぶべきではなかったけれど、彼女も名前で呼んできたので思わずそう返してから、口元を手で覆った。
それを見て、頬を見て、困った様にリューリエが穏やかな笑みを浮かべて、ユイカの細い肩を撫でる。
「お辛いでしょう。こちらにいらして」
優先して治療を受けさせてもらって、ユイカは今リューリエと向き合って座っている。
本当なら、ユイカの様な存在がいて酷い目に遭っていたら溜飲を下げるだろうし、勝ち誇った顔をされても見下されても文句を言える筋合いではないのだ。
けれど、リューリエから感じるのは、心配と気遣う様な柔らかい視線である。
「あの……学園では本当に済みませんでした」
思い出せばどの時も、失礼極まりない人間だし、性格も悪いと言われる行動しかしてこなかった。
その代償がこの暴力なら、軽いと思えてしまう程。
「ああ、その話は……強がりではなくてね、本当にわたくし達感謝しているのよ。確かに貴女は身を弁えずに奔放な行動を繰り返していたけれど、本来なら注意を与えて自制すべきは高位である令息達の方だったのだもの。いいえ、別に男性だから悪い、と言う訳ではなくてね。身分の高い者ほど己が身に課せられた責務について考えるべきなの」
「……でも、不快な思いをされた、かと……」
「そういう方達も居たかもしれないわね」
リューリエは思い出すように、視線を彷徨わせながら頷いた。
不愉快な言動に怒りはあったかもしれないし、誇りが傷ついた者もいたかもしれない。
けれど、婚約が解消となった者達は皆、望まぬ結婚を強いられていたのだ。
解放してくれたユイカの存在は、得難かったと思っている。
「人をやって、皆さんを呼んでいるの。貴女の怪我を見れば、貴女に同情をする筈よ。元々ね、貴女に何らかの罰を与えようなどとは思っていなかったの。ただ、あの人達を引き取って貰えれば、宜しかったのですけれど」
「そう、ですか。……こんな事になってしまいましたけどね」
笑おうとして、頬の痛みにユイカは顔を歪める。
何も分かっていなかったし、浮かれていた。
物語のお姫様になったようで、後先も考えず、享楽に耽っていたのだ。
「お庭に出ましょうか。お茶の席を用意して頂いてたの」
呼びに来た侍女の後について、立ち上がり、リューリエは優しく促した。
庭には薬草になるという植物や花が植わっていて、リューリエが優しく穏やかな声でそれを教えてくれた。
暫く歩くと、奥まった場所に令嬢達がいる席が現れる。
一様に、ユイカの姿を認めると、思わずと言った様子で眉を顰めた。
ミリアムに至っては、両手で口を押えて大きな目を見開いて驚いている。
彼女のそういう可憐な所は、作り物ではない。
きっとユイカの様に余裕を失くしても、同じように振る舞うのだろう。
最初から恋敵ですらなかったのだ。
「皆様、こんな姿で失礼します。以前は、申し訳ありませんでした」
「それをやったのは、クロウか?あの塵め……」
マルツェラが視線で殺せそうな程、怒りを露にする。
きっと、彼女なら簡単に殴られはしなかったのだろうな、とユイカは頭の隅でぼんやり考えた。
寧ろ、逆に殴られたのはクロウの方だったりして、と思うと少し可笑しい。
「最初は、無意識に手が出たんだと思いますけど、二度目は髪の毛も掴まれて殴られたので、確信犯ですね」
おどけた様に言ってみたが、痛みでうまく笑えない。
ヘイディは最初から、あーあ、と言いたげな何処か呆れたような目を向けていたが、ユイカの言葉を聞いて頷いた。
「分かりました。慰謝料ももぎ取るので、お医者さんにかかっても問題ないですよ」
「騎士団に突き出せば話は早いが生温い」
「本当に酷くてよ。こんな事をする者が騎士になどならなくて幸いね」
マルツェラの怒りの言葉に頷きながら、エステルも言葉を継ぐ。
エステルの婚約者だったレオナードだけは、ユイカ達の元へは来なかった。
彼は公爵家で、父の補佐をするという話だった。
あの宴以来、会っていないし音沙汰もない。
結局、皆恵まれた環境に居たからこそ、余裕があったからこそあんな自堕落な真似が出来たのだ。
少なくとも、リューリエの言ったように責務を理解していれば、余計な苦労を背負う事はなかったのである。
それに、こんな風にユイカの為に憤ってくれるなんて、思いもしなかった。
「痛そうですわね……早く治ると良いのですけれど」
大きな目に涙を浮かべて、子兎の様にふるふる震えるミリアムは可憐である。
自分がその横に並べるとか、越えるだなんて一瞬でも考えたのがユイカは恥ずかしかった。
次話でラストです~~




