現状を分かっていない男達と
「クビになった……」
「えっ?」
荷物を抱えて男爵家に来たオットーの言葉を、ユイカは驚きをもって聞き返した。
大きな商会の息子だったのだ。
「な、何故なの?」
「昨日の事が原因だよ。ミリアムはああいって減額してくれたけど、伯爵からも正式に抗議があってさ。家では雇えないって言われた。でもまあ、あてはあるからさ、自分の分くらいは稼げるよ」
「そう……じゃあ、クロウとオトマルの仕事も見つけてあげてくれる?」
本人達に任せてもいいのだが、どう考えてもそんな事は出来なさそうだからだ。
ルボルに至っては、日常生活も怪しい位で。
それに、一応給金は入るから無理を言って働かせることも出来ない。
もし、万が一、働いている最中に事故や何かで死んでしまえば、定期収入が途絶える上に、住む場所まで奪われかねないからだ。
それなら、家で大人しくしておいて貰った方が良い。
「うーん……分かった。あたってみるよ」
「あと、お買い物も任せていいかな?一番買い物がうまそうだもんね!」
「ああ、いいよ」
褒められて嬉しそうに、オットーは自分の胸を叩いた。
けれど、オトマルは不安そうに、クロウは不満そうに溜息を吐いていたのである。
この人達、現状を分かってるのかしら?
ユイカは思ったが、現状把握できないからこそ、こんな目にあっているのである。
自分の置かれた状況や立場を分かっていれば、最初から平民落ちするような軽率な行動はとらない。
それに、ユイカも借金を一緒に返すと約束してしまってある。
このまま家に居ても、無駄に扱き使われて不満をぶつけられるだけだし、一銭にもならない。
「私もお仕事を探しに行ってきますね」
お前らも探しに行けよ、と言いたかったが我慢した。
不満を言われても、それに言い返すのが面倒だったのだ。
ユイカはその日の内に、食堂での仕事を見つけた。
賄い付きで、朝から夜までの給仕の仕事である。
気の良い亭主とおかみさんで、友人の借金を返す為と健気に振る舞えば、すぐにも雇ってくれるというのでその日の内に働き始めた。
明るく華やかな美少女であるユイカは、あっという間に店に馴染んだのである。
夜もとっぷりと暮れてから家に帰れば。
男爵家の灯は消えたままである。
「え、何で?」
どの部屋にも明かりは点っていない。
夜逃げしたのかな?それもありなの?
そう思いながら玄関へと敷かれている敷石の上を歩いて行く。
でも正直な所、居なくなってくれた方がありがたい。
置物のようにじっとしているルボルは、いるだけで少しの収入があるから問題ないし、言えばやってくれる。
けれど、残りの二人は世話になっているという大前提を忘れた上、自分から行動しない。
クロウに至っては態度も悪い。
玄関を開けて中に入れば、大声で怒鳴られた。
「こんな遅くまで、何処に行ってやがったんだ!」
「え?私、お仕事見つけるって言いましたよね?お仕事見つかって働いてきたんですけど?」
「俺達の飯は誰が作るんだよ!」
お前は飯の事しか頭にねぇのか。
稼いで来いって言ったのに、それは忘れたのか。
そう怒鳴り返したかったけれど、ユイカはぐっと我慢する。
「今朝、言いましたよね?お金がないと食料も買えないからお仕事してほしいって。逆に聞きますけど、クロウは何をしてたの?部屋も真っ暗なままで」
チッと闇の中で舌打ちの音だけが響いた。
その後、おずおずとオトマルの声がする。
「それがおかしいんだ、部屋の明かりを点ける装置が見つからなくて」
そこからか、とユイカはため息を吐く。
「あのですねぇ。便利な魔道具がこんな小さな屋敷に備わっている訳ないじゃないですか。蠟燭とか角灯で明かりを採るんですよ。大体そういう物はそれぞれの個室や台所にあります」
言いながらユイカは台所へ向かう。
今日は月が出ているから、家の中より外の方が明るいくらいだ。
狭い家なので、難なく辿り着き、角灯に火を灯してから、蝋燭立てに一本だけ蝋燭を立てて居間に戻る。
蝋燭立ては、朝食を並べた卓の中央にとん、と置いた。
何も言葉を発していなかったルボルも居て。
苦い思いがユイカの中に渦巻く。
男三人揃いも揃って役立たずなのである。
いや、男だから女だからという話ではない。
もしも、あっさりと不要と断じて切り捨てた婚約者達ほど優秀であれば、すぐにとはいかなくても生活基盤を整えて、堅実にお金を返して行くことが出来た筈だ。
「あと、これからお食事は作りますけど、オトマルもクロウも一度は実家に帰って、必要な荷物とか持ってきた方がいいよ。売れる物があったら、お金にして生活費にしてほしいし」
「何で女にあれこれ言われなきゃなんねぇんだよ!」
いきなりクロウが喚き散らした。
ユイカとしては何もしないから、建設的な意見を言っただけなのに。
ムッとしたユイカは、思わず言い返した。
「嫌なら出て行ってください。別にこっちだって頭を下げて居て下さいってお願いした訳じゃないですよ。困っているから、どうですか?って言ったのに。実家だってもしかしたら、クロウとオトマルの事待ってて、許してくれるかもしれないんだから、とにかく今日は一度帰って」
契約の事を忘れているが、ユイカとしてはもう、鬱陶しい気持ちの方が勝っていた。
それに、約束を守らなくてもどうせ借金が増えるのは彼らの問題なのだ。
何故だか、彼女達は一切ユイカに対して慰謝料のいの字も言ってこなかった。
「ああ、分かったよ!こんな所にいられるか!行くぞオトマル」
「あ、うん、一応行ってくるよ」
二人はユイカの甘言に希望を見出したのか、忙しなく家を出て行った。
ユイカは呆れたように錠を下ろす。
ルボルは一言も発さず、置物のように座り続けていた。
いいから!!仕事してよぉ!!ルボルは傷心中。




