王太子、眠りから覚める
家族みんなで食卓を囲んでいる。僕たちの国センマリノ特産の僕らが好きな紅茶を飲んでいる。
いつものように紅茶にミルクを入れる姉さま。
僕もそれにたっぷりの砂糖を入れて香り豊かな紅茶と優しいミルクの香りを思いっきり吸い込んだ。
一息ついて僕は姉さまにしようせじゅつって何のことと聞いてみた。
「しようせじゅつ・・・ふふふ」笑うセレーネ。
「それはわたしが望むことなの。」
「なにそれ!答えになってないよ!教えてよ」
「それはね・・・」
答えを聞く前に目が覚めた。姉は本当は倒れてないのではないか。今すぐ会いにいかなければ。しようせじゅつも早く聞きにいかないと。
早く会いたい。
レイは何を見るでもなく天井に顔を向けながら思った。
枕元には僕らの好きな紅茶がまだ淹れたてのように香りを放っていた。
そこに勢いよくドアが開かれた。
「奥様レイ様が目を覚まされました」
大声で呼ぶ声がした。何事かと見やると、横顔しか見えないが赤髪の女の子がいた。侍女の格好をしている。
きみ、城中に聞こえるよ、と言いたいが喉が掠れて声が出ない。
彼女はカツカツと足音を立てながら近寄ってきた。顔はまだ幼く、目元がハッキリした可愛らしい女の子だった。もちろん姉さまには劣るが、となぜかレイが誇らしげに思うのだった。
「レイ様、侍女のマリーです。1ヶ月間眠っておいででした。喉が掠れているのでしょう。お水をお持ちします」
まだ幼いのに気の配れるよく出来た侍女だ。
レイは感心して水を持ってきてくれるよう頷いた。
いやいやそれより、一ヶ月も寝ていたとはどういう事なのだ⁉
レイは自分がそんなに寝ていたことに吃驚した。
マリーと交代するように部屋に入ってきたキャサリンの姿が目に飛び込んだ。
少し丸みを帯びた血色の良い母がげっそりとやつれて細くなっていた。
「お・・・おかあさ・・・ま!?」
声が掠れるが自分のことより母の様子が心配になり必死に声をかけた。
「レイ、目を覚ましたのね。本当に良かった」
キャサリンはふらふらになりながらも駆け寄ってレイを抱きしめた。
12歳のレイより身体が細くなってしまったのではないかと感じるほど満身創痍だったようだ。
すかさずマリーは「奥様」と声をかけ、水の入ったコップを差し出した。
キャサリンはありがとう、と言ってレイに飲ませた。
僕は水を飲みほしたあと「姉さまは?しようせじゅつは分かった?」など矢継ぎ早に聞いた。
「まだ寝たきりで。術も分からぬままよ」
キャサリンは残念に思う様子で伏し目になった。
やはり姉さまが倒れたことは本当だった。夢であってほしかった。
「でも救いがあって、セレーネは寝ながらたまに微笑むの。
仕事から解放されて、きっと楽しんでいるのね」
キャサリンは優しく微笑んだ。気づいてあげられなかった後悔と、自分から遠く離れたところに行ってしまった喪失感が漂っているが、セレーネはやっと自由を過ごしている、そんな安堵感を感じているようだった。
でもやはり姉は眠ったままなのだ。レイは受け入れられない気持ちになった。
数分言葉が途切れた。
レイはそれに気づき水をまた一口飲んだ。
「レイ、びっくりするかもしれないけどこれを見て」
キャサリンはレイに手鏡を差し出した。
そこに映っているのは聖女の力を強く持つ者のみに現れる金髪の髪色をした自分だった。
「ぶっ」
思わずレイは水を吐き出した。
せめて水を飲んでから鏡を差し出してほしかった。
「一体どういう事?僕の茶色い髪は?僕は寝ている間に聖女になったの?これよく見たら白髪だったってことないよね?ねぇ!!母様、よく見て!!」
「そうね、さらっさらの金色に輝く金髪ね」
キャサリンはレイの髪の毛に穴が開きそうなくらい見つめて、瞬きもせず真顔でレイを見つめた。
「ひぃ!!!」
レイは自分の髪の毛と母を交互に見つめた。
「あなたが倒れる時、髪の色が変わったの。私たちも驚いたわ。
ちなみに指にも黒い紋があった。すぐに消えてしまったけど・・・」
神妙な面持ちのキャサリン。強い力を持つ者は国の仕事だけでなく教会へも本人の意思に関わらず赴かなければならない。しかもみな女性であるという。それが頭をよぎった。
ヘンリーはいつも教会をよくは言わなかった。神聖な場所であるのにあそこは墓場だと言っていた。セレーネの聖女の力が弱いと教会に判断された時は大喜びだった。
王族の集会が4年に一度、教会が管理する土地で行われるがセレーネは聖女見習いとしてそれには参加していた。
この子はセレーネより強い力を持っているのかしら。セレーネの力を託されたのだからそうではないはず。不安が顔に出ていたのかレイが顔を覗き込んできた。
「もしかして、僕は性別まで女性になってしまったの?」
レイは突拍子もないことを想像していたようだ。
キャサリンは笑ってしまいそうだったが、レイがそーっと下着に手をかけ始めたので扇子で顔を隠し横を向いて知らない顔をした。
マリーも天井をわざとらしく見ている。
「やった!!見てこれ!!男のままだよ!!」
「見るかー!!」
キャサリンは淑女らしくない声を出して笑った。




