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プロローグ

 荘厳な佇まいの城の一室。

部屋中には沢山の豪華な花々が飾られている。

 しかし、ベッドにはその花たちの元気な様子とはかけ離れた、今にも消え入りそうな姫が横たわっている。

 姫はセンマリノの王の娘であり聖女である。

 彼女を囲むように王や王妃、弟のレイが見守っている。


「姉さま、姉さま、まだ行かないで。僕の傍にいてください」 


レイは息の苦しそうな姉の手を取り、涙を堪えながら言った。


「私の可愛い弟、レイ。大丈夫、姉さまはあなたをずっと見守り続けるわ」


苦しそうにしながらもなんとか微笑む姉セレーネ。


「うぅ・・・姉さま。まるで遠くに行っちゃうみたいに、うぅ・・・言わないで」

「セレーネ、もっと生きて・・・」


 懇願する王妃のキャサリン。

 父である王ヘンリーは涙を堪えるために歯を食いしばった。


「お前はまだ16歳じゃないか。

 私が悪かった。治癒の力がいくらあるとは言え、聖女の力を使わせ過ぎた。

 お前が回復出来ない程に」


 セレーネは自分に力を施せない。

 父に向かって微笑むセレーネ。


「お父様・・・ごめんなさい。沢山の数えきれない人々が私を頼ってくれた。

 わたしに出来ることがあるのに、しないではいられないのです」


 セレーネは強い眼差しで父を見つめた。


「お前は心底、聖女なのだな」


 ヘンリーは16歳の娘の強い意志に誇りを感じるとともに、状態に気づけなかった自分に対し悔しさで拳を握りしめた。


「うっ」


 セレーネは心臓を抑えて苦しそうな声を出した。

皆立ち上がり、ヘンリーは慌ててセレーネと名を呼び、キャサリンは苦しいの?大丈夫?など声をかけ続け、レイは姉さまと呼び続けていた。


 セレーネは呼吸を落ち着かせると


「レ・・・レイ・・・私そっくりなあなた」


 レイは姉に近寄り手を少し強く握った。

 僕はここにいるよと伝えるために。

 どこにまだこんな力があったのだろうと思うほど姉さまに手を握り返されて、目をしかと見つめ返された。


「あなたはとても可愛い」

にっこりとレイに微笑むセレーネ。


「とても素直。それに優しい。あなたの顔も、髪の毛も素敵」


 レイの髪の毛を撫でるセレーネ。

 姉の声を聞き逃さないよう真剣に聞くレイ。


「色白で透き通る肌も、わたしにそっくり」

「う?うん」


 レイは褒めて貰えて嬉しいが伝えたかったことはこれか?と少々疑問に感じ始めた。


「すべて使うのよ・・・」

「え?何に?」


 レイは聞き返した。


「し・・・ようせ・・・じゅつ・・・によ」

「え?何て?」

 

 ヘンリーは青ざめた。

 セレーネは12歳のレイには聞いたことのない言葉を唱えて力尽きた。

 姉に託された「しようせじゅつ」とは何の術なのか。

 弟レイ・リンド・キングにはその言葉の意味は分からず姉が逝ってしまったかもしれないというショックで茫然としていた。

 姉の手はまだ温かかった・・・ん?いや熱すぎないか?僕の手が熱いのか?などと思い手を離した瞬間ばちっと一瞬火花が出たように見えた。

 今思うと、《男として聖女の世界に入らなければいけない》という災難の火の粉を被ったのかもしれないとレイは思うのだった。


 セレーネが倒れてすぐ医者が脈をとり息の確認をした。

 医者は「ん?」「あれ?」と言うので家族皆医者までも不思議そうにお互い顔を見合わせた。

 一体姉さまはどうなったのだ⁉レイは焦った。

 医者はヘンリーに


「陛下、セレーネ様は生きておいでです。」


 キャサリンは口に手を当て泣き出した。


「良かった、セレーネは生きている」


 ヘンリーは嗚咽をもらして言った。ヘンリーとキャサリンはレイを抱き寄せセレーネが一命を取り留めたことに歓喜した。

医者が


「セレーネ様は何とか生きていらっしゃいますが力は尽きたままです。

目覚めるのに時間がかかるかと思います。

しかし一先ずご無事でいられて何よりです。」


 ヘンリーは医者に聖女の力の使い過ぎが原因ではないのか?と聞き返した。


「はい概ねそうです。しかし辞め時が分からないという大病も患っておいでです」

「それは病気なのか?」

「病気の域に入るでしょう」


 姉が生きていることにほっとして胸を撫で下ろした時、レイは胸が熱くなった。

 いや違う胸ではなくレイの手が熱いのだ。

 

「ねぇ僕の手が熱いんだ」


 レイは父を見ながら言った。


「セレーネが生きててくれて胸が熱くなったのかな」

「いや、姉さまが存命なのはもちろん嬉しいが物理的に手が熱いんだよ」


 レイは掌を父と母に見せた。

 キャサリンはレイの手を握ってから、あなたにも心配かけたわね、とレイを抱き寄せた。


「レイの手だけでなく体も熱いわ、熱が出てしまったのね。」


 確かにぼーっとする。医者が熱を測りましょうと体温計を渡してきたので測って差し出した。


「39度も熱があります。」


 みな驚いて父も母も早く椅子に座りなさいなど心配している。

 姉さまが死にかけたのだ、そりゃ熱も出るだろうと思うが、39度とは火に包まれるような熱さだっただろうか頭が発火しそうな気分になった。

 レイの茶色の髪色は一本また一本と黄金色に染まっていく。

 レイの髪は眩い金色に輝き、聖女のみに現れる金髪となった。

 突如窓の外に閃光が走り、城の外には稲妻が落ちた。

 途端魔力の過剰供給による暴走が起き、指は雷がはい回り、出口を求めて暴れているようだった。

 さしずめ痛みは血管の中を焼いていくような痛みとなり、レイは悲鳴をあげた。

 指からは火花が散り、線が描かれるように黒くうねる線が指に巻き付いた。


「まさか・・・レイが聖女化しているというのか⁉」

「あり得ません!発現するのは女性だけのはずです」

「またこの暴走は魔力の過剰供給によるものではないかと!古文書にそのような例があります!」

「この黒い紋は何?まるで呪いのよう・・・」

 

 窓はびりびりと震えている。

 医師は前例がない出来事に驚愕し膝をついた。


 こんな痛みと熱さは初めてだと思っている内にレイは倒れた。


 レイの意識が途切れる寸前、城には今日二度目の悲鳴が響いた。



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― 新着の感想 ―
ノルウェーやフィンランドのような北欧を連想させる設定で、出だしも一波乱ありそうな予感を感じさせ、続きが読みたくなって、興味ひかせるのが上手い かなり面白い小説になりそうです どんな展開になるのか、めっ…
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