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花枯らし姫

多種多様な異能を持って生まれるこの国でも、あまりありがたく思われない異能、稀有な異能を持つ令嬢が生まれたのは今から十六年前のこと。


ハミルトン侯爵家の次女フローラの異能はどんな元気な草花をも、触れるとたちまち枯らせてしまうというものだった。



「私はサボテンすら枯らせてしまう」


部屋に飾られる美しい花々、花壇や庭園の花、舞踏会等で飾られている花も触れると枯れてしまう。

人から贈られた花束も受け取れば途端に萎れてしまう度に、フローラは悲しくなった。



私は花に触れられない、私は花を育てられないと思い悩んだ。


社交界でも噂され白い目で見られてしまい、茶会や舞踏会へも招待されることもなくなっていった。


フローラはいつしか「花枯らし姫」というあだ名で呼ばれるようになって、自邸に引きこもった。


生花に触れることができないフローラは、色とりどりの布でコサージュや造花を作り、花を刺繍しては部屋を飾るようになった。


フローラの作ったコサージュや刺繍は出来映えが良く好評で、フローラの名前を出さずに「ローラ」という名義で販売されるようになると人気作家となり、予想以上に売れはじめた。

フローラに嫉妬した姉が「ローラ」の品はフローラが作っているということを令嬢らに暴露してからは、どこからも買い取ってはもらえなくなってしまった。


「花枯らし姫の作ったものなんて」と、返品されてしまう有り様で、失意のフローラは更に引きこもった。


ありがたくない異名と異能のせいで縁談話も来ず、そんな引きこもり生活をしているフローラに、ある日王家から依頼が舞い込んだ。


「そなたの異能で、ある花を駆除してもらいたい」


近頃各地に繁殖し猛威をふるう毒性の花の駆除を命じられたのだ。


赤紫の小さな百合に似たその花は、他の草花を枯らし、北部の森や穀倉地帯は深刻な被害を受けていた。


自分の花を枯らす力が役に立つのならとフローラは請け負った。


フローラの花を枯らす力は効果抜群で、駆除隊員と共に各地を回った。

半年後には撲滅することができ、王都に戻ると働きを大いに評価され労いを受けたが、フローラの変貌した姿に、皆眉をひそめた。


フローラが件の花を枯らすと、かつては銀色の髪だったものが、徐々にピンク色になり今では赤紫色の髪になっていたからだ。


花枯らし姫は今度は「花枯らしの魔女」の名で呼ばれるようになった。


「魔女だなんて酷いよな。フローラお前はよくやったよ。それにとても綺麗だ」


フローラの兄だけは褒めてくれた。だが、それもはじめのうちで、すぐに兄も恐怖するようになった。


髪だけでなくて、白い肌や青い瞳まで赤紫色に染まっていったからだ。

医師さえも恐れて診てはくれない。



仕方なくフローラは、家を出され、誰ひとりいない荒れ地の小屋に一人移り住んだ。


孤独で堪えられずに、ひとりむせび泣いた。



それから数年が過ぎ、本当に魔女のような暮らしになっていた。

生活するのが不便だったせいか、様々な魔法が使えるようになったのだ。


掃除や洗濯の魔法、料理の魔法など生活に必要な魔法は大抵使える。

感覚は研ぎ澄まされて、探知の魔法や防犯のための結界も張れるようになり、一人で暮らすには困らなくなった。


フローラの赤紫の髪はそのままだったが、肌と瞳は元に戻っていった。

髪の色を変えたりする変装魔法だけは使えなかったのでフードで隠して外出した。


花を枯らす力はいつの間にか衰えて、今では花を摘めるようになった。


「触れても枯れないわ!」


フローラは嬉しさで部屋を沢山の花で飾りまくり、花の香りに包まれた。

家のまわりに花の苗を植えはじめると、荒れ地は花畑になっていった。


フローラの植えた花は、今度は枯れることなく、いつまでも咲き誇った。


「これはこれで気味悪がられるのよね」


枯れない花のことを知られると、花泥棒が出没するようになった。日に日に花は抜き取られ、花畑は減りはじめた。


「人間って、本当にしょうもないわ」


フローラは今では「花枯らしの魔女」ではなく、「枯れない花の魔女」と呼ばれているようだ。


「魔女と言うのは余計よ!」


姫だの魔女だのどうでもよい。呼びたければ勝手に呼べばいい。


その代わり、呼ばれてもこちらは応えることは絶対にしない。


花泥棒をとっちめる魔法を放てば、魔女呼ばわりされるだけだった。


「花泥棒め、お前達は泥棒のくせに!」


人を罵りながら罪を働くとは何事か。


フローラは、花を無断で盗む者は虫になるように魔法をかけた。

顔だけは人間のままの虫だ。


「虫にされるのが嫌ならば、対価を置いてゆけ」


多くの人々が蝶や蛾に、父や母も甲虫に、姉も地を這う虫になった。


「助けてくれ!」「嫌よ虫なんて!」



なぜこの人達は謝らないのだろう。


済まなかった、ごめんなさい、もうしないと、なぜ言えないのかしら?


助けを乞う前に、やることがあるでしょ。


「戻してよ!」「やめてくれ!」「酷いわ」


なぜ、逆切れなんかをするの?


自分がやったことは棚にあげて。




フローラは虫になった人だけを狩る鳥とカエルを魔法で放った。


鳥やカエルの餌にされた人々は断末魔の声を上げた。


フローラの兄だけは対価を払い、金貨やフローラに必要であろう物資を置いていった。


兄のセンスは昔から良い。フローラの好みを良く知っていて、リクエストを尋ねるメモや時々近況を伝える手紙も添えられていた。

兄は結婚し家督を継いで、二人の子供ができたらしい。


一緒に暮らせなくて済まないと兄は謝った。


ああ、いつも侘びてくれるのはお兄様だけね。


両親がこの荒れ地に私を追いやった時も、泣いて謝ってくれたっけ。


いいのよ、一緒に暮らせなくても。今は一人が好きだから。




私はまた、新たな花の苗を植える。


花泥棒が絶えないから。



私は魔女になったつもりは全くないけれどど、魔女のようなことはしている。


私を魔女にしたのは、私以外の人達なのにね。


人間て本当に愚かね。



(了)

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