表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【本編完結】ワケあり皇帝のワケあり後宮  作者: 桜江


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/68

EX STAGE 嵐を呼ぶ女(4

※直接描写はありませんが近親婚等の表現が数話続きます。

 何か言い返す事も出来ず、誤解を晴らすことも出来ず、ピエール様に命じられた伯爵家の使用人に促され邸を出た。彼らもまたお嬢様(フランソワーズ)を泣かせた元親友ということで、私にかなり冷ややかな対応だった。

叩き出されないだけマシかマシなのか。

 

 とぼとぼ歩く私の後を同じく追い出されたジョエルが追ってきたようで、少し後ろを黙ってついてくる。だけど私の頭の中はフランソワーズの非難の声がずっとこびりついていた。

 

 ――このままではマズい。

 大好きなフランソワーズに誤解され、絶交までされてしまったことはもちろんだけれど、名ばかりのデストラ伯爵家の娘が名家のジャイノ伯爵家と揉めるなんて。

 嫌な予感しかない。頭が回らない。頭は冷えているのに身体のどこかが熱い気がする。

 熱に浮かされた時のように、ふわふわする。

 

「マルタ、話がある」

 私の腕をジョエルが掴んだ。それを勢いよく振り払う。気持ち悪い。

「……やめて、私に触らないで……」

「……ごめん、とにかく少し話そう、落ち着いて」

 傷付いた声で小さく謝るジョエルは道の脇にあるベンチに私を座らせる。

 少し離れて彼も座る。

 

「……本当に手紙やカードをくれたわけじゃないのか?」

「ええ、ないわ」

 あるわけがない。フランソワーズの想い人に横恋慕なんてしない。

「なら、僕の気持ちを受け入れることは」

「ごめんなさい、無理」

 フランソワーズの想いを無視し続けるような馬鹿はごめんだ。

「フランソワーズのことがなくても?」

「なくても」

「他に好きな男が……」

「いない」

 

 ジョエルは大きく息を吐いた。

「――歩きながら冷静になって思い返せば、おかしいところはあったよなって」

 自嘲気味な声を怪訝に思って彼を見れば項垂れていた。

「いくらフランソワーズの手前とは言え、デートのひとつもしないなんてことはない筈だって」

「そりゃあ……確かにデートに私が行くはずがないわね。デートに誘ってたの?」

「ああ。手紙でデートのお誘いをしてもいい返事が来ることはなかったよ。『フランソワーズに悪いから』、『フランソワーズに知られたくないから』って」

 

 仮に私とジョエルがそういう仲だとして。

 こっそり逢い引きしようと思えば、いくらでも出来るはず。

それにフランソワーズとジョエルは恋人同士ではない。こそこそする必要は本来ないから頑なに会わないで済むように仕向けた、と。

 周囲にフランソワーズの気持ちは丸分かり。私もそう思っていたように、周囲も婚約は時間の問題と思っていた。だから『婚約者となる少女の親友との秘密の関係』という嘘は作りやすいってことね。

 

「嵌められたな、僕たち」

「……そう、なるわね。でもどうしてなのかしら」

 ジョエルがこちらを難しい顔で見た。

 

「なぜ私? そして私と手紙のやり取りをしていたってことは、ギエスタ子爵子息からの手紙はどこにあるのかしら」

「僕は君宛に送っていたよ。君からもきちんと郵便で届いていたし、封蝋もデストラ家の紋章だった」

「……デストラの紋章ですって?」

「ああ、デストラは蔦に鳥の」

「……ええ、確かにそれは我が家の紋章だけれど、もう使われていないの。封蝋するなら私が個人的に使っているマルハナの形だわ」

「マルハナ……ああ、フランソワーズが好きな花か。白くて丸い」

「そう。封蝋は……」

「砕けてしまっていて判別は付かない」

「証拠としては弱いわね」

 

 はあ、と思わず疲れた声が出た。用意周到すぎる。

 何が狙いなのか知らないが。

 

「デストラの紋章はなぜ今使われていないの?」

「……ああ、それはうちが名ばかりだから」

「名ばかりだから?」

「貧しいのよ、うち」

「ああ、それはごめん……知ってる」

「まあ『名ばかり爵』が貧乏なのは割とよくある話だから仕方ないんだけど、祖父が私の母方の実家にお金を借りているのよ」

「まさか……」

「伯爵家の印章を担保にしてる。だから私が使えるはずないの。そもそも私には弟がいて、跡取りではないから使えないわ」

 

 帝国では、紋章の入った指輪は印章と呼ばれる。

 家の跡取りに相続されるもので、身分を示す大事な財産のひとつ。市井でも大きな商会などには与えられている。

 それを私の亡き祖父は担保にしてしまった。

 母方の祖父母はそれを悪用したりはしない。しないが押し付けたいもの(・・)があった。

 

 印章を預けて借りたお金が祖父の代では返しきれない。跡取りとなった父は印章を返してほしいし借金も返し終えたい。そのために減額を願った。

その条件として提示されたのが病弱が理由で()き遅れの母を娶ること。

 だがいまだ完済されない上に母を幸せにもしていない。まあそれで怒るほど母方祖父母は()を大事にもしていなかったのだけれど。

 幸せになってほしいなら、いくらなんでも借金まみれの家に嫁に出さないはず。

 

「デストラの紋章自体は名鑑を見れば乗ってるし、私が一人娘(・・・)だと知っていれば使えると思うわよね」

「基本的に印章は偽造が可能だし、封蝋は砕ける上、差出人の名前があるから多少の違いなんてのも僕なら確認しない。筆跡は君からの手紙や書類が手元にあれば真似る事も出来る。だけど、封蝋に使う印が紋章の印章ではないと知っているのは手紙を仕分ける使用人と受け取った本人だよね」

「ええ、そうよね。封蝋は封を破れば砕けるから……模様も分からなくなる」

 

 ジョエルの声が落ち込むように低くなる。

「マルタ……嬢が、僕の手紙を受け取っていないと言うことは」

「うちかギエスタ子爵家の使用人、もしくはその両方に関わった者がいる、ということ?」

「……ああ」

「私の手紙を見たり、所持できる状況がある。でもそれは勿論フランソワーズではないわね」

「彼女は君の封蝋が何か知っているから、僕に嘘の手紙を送りつけるならそこも偽装するだろうね。それに彼女に演技が出来るとは思えない」

「私とギエスタ子爵子息を……」

「もうジョエルでいいだろ。僕もマルタと呼ぶ許可をくれ。人前ではきちんと一線引いて呼ぶから」

「――わかったわ、今はそう呼ぶわ。とにかく、ジョエルと私が本当にくっついても困るだろうから、あなたに懸想している令嬢がというわけでもないし」

「……逆だ、逆。僕を想う女性じゃない。フランソワーズを想う男だ。……僕もう一人しか思い浮かばないんだけど。こんな気の長いねちっこいやり方するの」

 

 ジョエルが頭を抱えた。

「……こんなことになるとは」

「どういうこと?」

「ピエールだろう。僕は彼にマルタを好ましいと言ったことがある」

「……私を?」

「僕たちは親しいとは言えなかったね、今まで」

 そうね、顔見知りよね。そう思ったから素直に頷いた。

「僕は、フランソワーズの気持ちを知っていたけれど困っていた」

 

 それは――贅沢ね。彼女は見た目も可愛らしく、振る舞いも美しい。名家の姫よ。

「贅沢と思ってるのが顔に出てるよ」

 ジョエルは苦笑する。

「フランソワーズのことは妹のようにしか思えない。幼馴染みだよ? 彼女が生まれた頃から知ってる。年に数回会う程度ならまだしも、僕らはしょっちゅう会うんだ、それこそピエールとも兄弟のように育ってきた。フランソワーズは例えるなら箱入りの砂糖菓子のようで扱い方が……他の子もそうだし」

 

 ああ、わかるかも。

 綺麗で甘くて、繊細って感じかな。

 

「でもね、マルタは何というか、他の子と違って……とにかく、そういうことをピエールに言ったことがある」

「それで私? ピエール様はフランソワーズにジョエルを諦めて欲しかったのよね?」

 

「そうだろうね」

 ジョエルは首肯する。

「でもそれはいずれ叶った事じゃない? ジョエルは私がいてもいなくてもフランソワーズとの未来は断っていたのでしょう? なぜ私を巻き込んだのか、がわからない」

「確かに、そう言われると……でもピエールしか思い当たらない。そんなことができるのは」

「……でも」

「ねえマルタ、君はこの地方が抱えている問題を知っているよね?」

 

 俯いたまま問い掛けられた言葉が、私を鋭く抉る。

 ええ、良く知っている。

 一呼吸置いて答えた。

 

「――近親婚ね」





※マルハナ=実際の花ではなく、キンポウゲみたいな花だと思ってください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ