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【本編完結】ワケあり皇帝のワケあり後宮  作者: 桜江


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EX STAGE the ”GHOST” answer (6

       * * * * *

 

 

「『碧空』は呪われています」

 

 テーブルに置かれたペンダントを手に取り、しげしげと透かし見ていたネイは、薄荷のその一言に戦慄(おのの)いて固まったあと、そうっとテーブルに戻した。

 

 渋い顔をしたノルジールと、笑顔が引きつるネイを交互に見やった薄荷が置かれたペンダントを手に取り透かす。

 

「この石の中の細工、帝国旗は当時の皇帝と王の小指の骨で作られていると言う話を聞いたことはありますか?」

 薄荷の言葉にノルジールが静かに頷くと、彼女は首を横に振った。

「……違うんです。これ()は帝国に嫁いだフィリア王国の姫のものです」

 

 ノルジールはますます渋面になり、ネイも笑顔は消えてうんざりした顔になる。

 誰の骨であろうが気味が悪いものでしかない。

 

「『時の皇帝より寵愛を得た皇后』と言われた姫ですが、事実は違います。彼女は深く皇帝を――ひいては帝国をも怒り恨み、呪いました」

 薄荷はふう、と小さく嘆息する。その瞳も揺れて落ちていた。

 

「帝国はそれと知らず姫の呪いに縛られています。()の国では目上のものや先祖の言い付けを必ず守るという慣習(しきたり)があることは有名ですよね」

 薄荷はきらきらと煌めく『碧空』をテーブルに戻した。

 

 ――ファン帝国とフィリア王国の架け橋たれと輿入れしたフィリアの姫。体の良い人質だ。

 

 その頃のファン帝国は大陸のあちこちに戦を仕掛け、あちらと同盟を結べばこちらは破棄、とにかく帝国の領土を広げることに躍起になっていた。

 フィリア王国は帝国への足掛かりとなる国。逆を言えばフィリアを落とせば更に数多の国へと攻め入る事が出来る。

 現在もそうだが、帝国はフィリアを陥落させようと躍起になっていた。

 

 現在でこそ輝ける一等星だの、不可侵だのと言われ栄華を誇るファン帝国もその昔はまだまだ野蛮な新興国のひとつ。

 今では八方塞がりのフィリア王国も当時は大陸でも指折りの歴史ある大国であり、近隣諸国とも連携を取り帝国と五分に渡り合える国力があった。

 

 だがフィリア王はそこに驕らず、帝国を侮らず、数十年数百年先を見据えた結果、フィリアの大華、フィリア掌中の珠よと名高い姫をファン皇帝の妃――正室――として嫁がせることで和平の(しるし)とした。

 

 姫もそれを十分理解した上での婚姻だったが、いざ帝国後宮へ召し上げられればそこは海千山千の女たちの戦場であった。

 

 誰が皇帝の寵を得、他を出し抜き陥れ、高みを目指し次期王を生み出すか。そればかりに腐心する女たちの中に「正室ならば確と纏めよ」と放り込まれた。

 

 時の皇帝からすれば大陸に名高いフィリアの大華。

 散らすのもまた一興とばかりに男の欲望の手前勝手な初夜を済まされ、その後は後宮(ハレム)の管理人として扱われた。

 

 フィリア王国は基本的に一夫一妻を掲げる女神の一神教。ファン皇帝が後宮(ハレム)にこれでもかと美姫を侍らせ、欲望の赴くままに抱き散らす様は皇后となった姫には醜悪なものでしかない。

 

 そんな中で皇后は女たちからの陰湿なやり口と、皇帝が己を顧みないことに憤った。

 元々自国を守るための輿入れだが、今のままでは反古にされ王国と一戦交えることになるのは間違いない。

 そこで古い呪法に手を出した。呪術呪法を扱う者を秘かに帝国内外で捜し呼び寄せた。

 

 名ばかりの皇后であり、これ見よがしに自分以外の女を呼び出し侍らせ、皇后は初夜以降一切伽に呼ばない。

 皇帝側にも理由はあったろうが、恐らく大国の姫は世間知らずで箱入りだと彼女を侮っていたか、その矜持を折り従順にさせるためだったのだろう。

 

 フィリアの大華がフィリア王掌中(・・)の珠と呼ばれた理由は彼女の苛烈な性格を隠すためもあっての事だと知らなかったのだ。

 彼女は王があえて隠し持っていた(・・・・・・・)爆弾である。

 

 周囲からは唯々諾々と己より身分の低い女たちに従い、皇帝の訪れもなくただ大人しくされるがままの人形になっていたように見えた彼女は、ある日突然の大嵐で川から水が溢れ出し、堤が決壊するように本性を晒け出し、洪水が町々を呑み込むような怒涛の勢いで帝国に牙を剥く。

 

 まず後宮(ハレム)で彼女を侮り謗り嫌がらせを続けてきた女たちを一斉に処分した。そら恐ろしいやり方で。

 

 一報を聞きつけ慌てて参じた皇帝を彼女は座らせ、自ら茶を淹れもてなした。後宮(ハレム)の管理人であり皇后という立場であることをどう考えているのか、と彼の小指と己の小指を絡めながら艶やかな微笑みを浮かべて詰った。

 

 生贄を捧げる古き呪法により、彼女は小指の誓約を成した。生け贄は後宮(ハレム)の側妃たちである。

 

 違えれば皇帝の血は途絶え、帝国は瓦解する。

 この恐ろしいやり口に痺れ褒め称えたのは、呆れたことにこれまで皇后を蔑ろにしてきた夫である皇帝だ。彼はもちろん約束を違えたらどうなるかを臣下を王国に遣わせ試すこともした。

 

 果たして臣下はたちまち息を引き取り、まるで砂のように脆く崩れ去ったと言う。

 一歩間違えば己もそうなっただろうに、彼は頓着しなかった。むしろなればそこまで、という余裕も覚悟も彼にはあった。

 

 誓約が成された時の雷に打たれたような衝撃を一目惚れによるものだと皇帝は断じ、側妃たちの返り血に(まみ)れた姿をわざと見せつけた皇后を狂ったように愛した。

 それこそが呪法によるものだったのかもしれないし、帝国皇帝にある残虐な血統が彼女の狂乱を愛しく好ましく思ったのかもしれない。

 

 こうして時の皇帝は皇后のみを寵愛し心を捧げ、呪いがいつまで続くか分からないのだから、と今後フィリア王国への侵略を一切禁じ庇護することを決めた。

 更に事の真実は次期皇帝のみに伝えられることとなり、(いたずら)に話が広められることのないよう情報は厳しく取り扱わさせた。

 

 だが、皇后がそれで彼を――帝国を赦したかと言えばそうではない。

 呪法の媒体となった石は皇后の瞳の色。呪法最後の締め括りとして、呪者であり誓約を成し遂げた自分の小指を切り落とし専門家によって石に閉じ込めさせた。

 

 更にそれこそがフィリア王国を永く護る物となるので、ある時ファン帝国皇帝とフィリア王の会談にて堂々とその石を持ち込み、皇帝の目の前で父王に詳細を語り引き渡した。

 なお、この時に『上のものや先祖の言い付けを必ず守るという慣習(しきたり)』がある(・・)とまるで最初から決められ守られていたかのように定められる。

 

「『碧空』をペンダントにしてフィリアの国宝にしたのは皇后の父王。更に呪いは帝国に対してであり、フィリアに対しては何も。だからこそ『碧空』はフィリア王家に伝わるんです。碧空の――姫の色が受け継がれるから」

 薄荷はずい、とペンダントをノルジールの前に押しやった。

 

「帝国が王国の後継を指名するのは、呪法が今も生きているから。碧空の色を持つ者に王国を任せる。それがフィリアの正統な王家の血の証でもあるんで。流石の帝国でも呪いの品をおいそれと盗み出すことは出来ません。仮に帝国に持ち込まれたとしても、瞳に碧空を継いだ者がいる限り呪いは有効です。壊すことも出来ない――忌まわしき品です」

 

「……ハッカちゃんはンなことよく知ってるな」

 ネイが視線をペンダントに固定したまま聞けば、薄荷は曖昧に微笑んだ。

「私が帝国皇帝のお抱え占術師なのはなぜかを考えれば自ずと分かるかと」

「それは姫さんが頼った専門家の……」

「……とにかく、ノルジール様が生きていることが大事なんです、フィリアだけでなく帝国としても。碧空はノルジール様が受け継いでいるんで」

 強張った表情を崩さぬままのネイに薄荷は強く言い切った。

 

 

       * * * * *

 

 

 ノルジールとネイは薄荷の先見の力――予知能力のようなもの――を元に計画を練った。

 

 その後薄荷は帝国へ。

 以降彼女からの連絡はなく安否も生死も分からない。彼女の情報は何ひとつ彼の元へ渡ってこない。

 帝国に与する貴族ですら彼女の存在は知っていても動向は知らないと言う。

 

 ノルジールはいずれ少女と出会う。

 彼女はノルジールの運命を握る子、運命の子だ。

 

 ノルジールによく似た色を持つ少女はいずれ王宮を引っ掻き回す存在となる。

 

 ――すっかり人肌に冷めた薬草と蜂蜜の入った小瓶を持ってノルジールは運命の子が眠る寝室へと向かった。 

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