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【本編完結】ワケあり皇帝のワケあり後宮  作者: 桜江


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サリー(1

 サリーは大きな鏡の前に立つ。

 中でぼんやり立ち尽くす自分と見つめあっていた。

 今日は特別な日だ。サリーの願いが叶うかもしれない日。

 あちこち膨らんだ可愛いピンクのドレスはどぎつい。

 サリーに似合ってはいるがサリーの(・・・)趣味ではない。

 

 彼女は思う。ここではない記憶が戻ったのはいつだったか。

 

 

       * * * * *

 

 

 日当たりの悪い狭い小さな家。

 この家はサリーの母親が仕事をするための家で、サリーは邪魔にならないよう、客が絶対うっかりとは入って来られない場所に閉じ込められるように育てられてきた。

 

 それは地下室。

 だけど外には繋がっていて家の真裏に出られる。だから暇な時はそこから出て通りをうろついたり、屋台を出している顔馴染みの者たちから食べるものを恵んでもらったりしていた。

 

 サリーが6歳くらいだっただろうか、母親は昼間寝ていたので、いつものように通りをうろついていた。

 いつもならしないのに、ふと川で水浴びをしようと思い立った。

 

 川にざぶざぶと入っていく。それまであった川底が急に深くなっていて足を取られた。

 慌てて体勢を立て直そうとするが上手く行かず、そのままざぶんと派手な音を立てて川に呑まれた。

 浅く流れの緩い川だったが、サリーが流され溺れるには十分で彼女は流されるままになる。

 

 がぼがぼと口に水が入ってきて、サリーは苦しくてもがく。もがくと余計に水が入り、彼女の意識は朦朧とした。意識を手放す寸前、誰かの怒鳴るような声と引っ張りあげられる感覚があったがそのまま彼女は暗闇に落ちた。

 

 そして長い夢を見る。

 生を受けたところから死ぬまでの夢。

 

 夢の中の家はサリーの住んでいる所より日当たりもよくて、何より広く2階まで付いていた。

 薄汚れた格好でうろつかなくても良く、清潔な服、たっぷりお湯の入った温かいお風呂、美味しいご飯。優しそうな両親。

 サリーはそこで初めて教育を受けた。学校で学ぶ。

 友だちができて毎日楽しいけれど、読み書きは全く楽しくない。

 

 サリーのこれまでの生活とは全く違っていた。

 そしてサリーは成長していく。勉強が嫌いでも高校生というものになれた。

 

 周りの友人に彼氏ができ始め、彼女にも彼氏ができる。

 初めて付き合った男は一言でいうとクズだ。

 歳上の男で、友人の紹介だった。後で聞けば友人の元彼らしい。そういう経緯でもうクズい。

 

 最初のうちの優しさに絆され、興味もあって身体を許してしまえば、そこからどんどんエスカレートしていく。

 

 気付けばサリーは『暗くて小さくて狭い家で仕事をしていた母親』と同じことをしてお金を貰い、それを彼氏に渡すという生活をするようになっていった。

 楽しかった学校は生活態度が良くないことで注意され、じゃあいいやと辞めてしまっている。

 暖かい家の優しい両親とは学校のこと、彼氏のことで大きな喧嘩になり、面倒くさくなって身ひとつで家出した。

 

 彼の部屋に転がり込んだが、当の彼氏から『サリーは未成年だから家出は困る』と言われ、家出はすぐにやめた。

 代わりに数日家に戻っては数日彼氏の部屋に泊まるという生活をするようになる。

 でもそんな男と長く続くはずもなく、相手のあからさまな浮気――サリーがいるのに女を連れ込んだ――であっさり関係は終了した。サリーは泣いて縋ったけれど、そこで男は単身赴任中の既婚者だと判明し、相手の妻から慰謝料を払えと言われたら困るだろ? との言葉にサリーは泣く泣く別れを受け入れ、とても落ち込んだ。

 

 彼氏のために沢山の事を犠牲にしたのに、少しも幸せになれない。

 

 そして月日は過ぎてサリーは20歳になり成人した。

 優しかった両親はとうとうサリーを見放してしまったようで会話はない。

 

 自分は何ひとつ悪くない、とサリーは思っている。

 悪いのは元彼だ。

 サリーの好きに付け込んで、要求するものが高く大きくなっていく。それに応えていたのに彼氏はちっともサリーを見てくれなかったのが悪い。

 

 学校を辞める時も、もっと両親がちゃんと止めてくれていたら今頃卒業していたかもしれない。

 

 サリーはそんな風に思っている。

 

 とにかく家にずっといるのも気が重いので、サリーは居酒屋でバイトをするようになる。

 そこで2人目の彼氏ができた。

 

 だが、このバイト先でサリーは大変モテた。

 彼氏よりもイケメンでハイスペな男に言い寄られると、そちらが気になってしまう。

 浮気はダメだ、自分もそれで傷ついたのだからと彼氏と別れ、その男と付き合おうとすれば遊びだった。

 そんなことが正社員やバイトに客としょっちゅうで、すっかりバイト先でサリーは評判を落としていたし、不名誉なあだ名まで付けられている。

 

 そんな中で考えるのは別れたことで居辛くなりバイトを辞めた元彼のこと。彼は優しかった、サリーを1番に考えてくれていたと思い直し、伝を頼ってやっと連絡先が手に入り復縁を望むが、酷く罵倒されて縁が切れる。

 

 そして落ち込んでいたサリーだが、更に不幸なことに風紀が乱れると言う理由でバイトを辞めさせられた。

 

 サリーは愛情に飢えている。優しい両親からの愛では温すぎて足りず埋められなかった。

 男たちから貰う愛でも全然足りない。彼らはサリーの身体が目当てなだけで心から愛してくれていないからだと彼女は嘆く。

 

 サリーはバイトを転々とする。どこも似たような感じになり、仕事じゃなくて男漁りに来ている、コミュニティクラッシャーだと陰口を叩かれているのも知った。

 

 サリーはもういいやと抵抗感もないので風俗でバイトをすることにした。

 そこで知り合った同僚はゲーム好きで、課金のためにこのバイトをしている子だ。

 彼女に勧められたのが乙女ゲームだった。

 初めて乙女ゲームなるものをやったが変わった趣向だと思う。

 

 悪役令嬢と呼ばれる少女が主役で、捏造された罪で断罪されるシーンから始まる。その後命を落とし、彼女のやり直し人生が始まって攻略対象者をオトしていく。

 主役である悪役令嬢の婚約者にくっついている女が本当の悪役で、彼女が断罪される元凶だ。

 なので、やり直しが始まったら対象者たちを味方に付け、あわよくば落としつつ証拠を集めて悪役に断罪を突きつける。

 

 恋愛ものなのか復讐ものなのか。サリーには内容が少し難しい気がした。

 勧めてきた同僚によると、ブームに乗って作られたものなのだと言う。

 

 乙女ゲームにも色々種類はあって、特に同僚が好きなのは敵キャラなんていなくてひたすら対象者とすれ違いやらぶらぶっぷりを楽しみ、月に2回はあるイベントのランキングに入って限定アバターを貰ったりというものだけど、サリーには悪役令嬢ものがオススメということだった。

 

 アプリをスマホに落としてやってみると『あれ?』と不思議な感覚が彼女を包む。

 

 それはまだ序盤も序盤のプロローグ、主役が断罪されるシーンで登場する真の悪役が登場する。

 

「サリー……って、え? あたし?」

 

 少女漫画の絵なのに、そこにいる主役の婚約者にべったりくっついている女がなんだか自分に見える。だからなのかとっても嫌な悪役のはずなのに嫌悪感がない。

 

 サリーはこのおかしな気持ちに訳が分からなくなりつつも物語を進めていった。

 ゲームの主役である悪役令嬢となったサリーはSNSや攻略サイト、巨大掲示板の力も頼りつつ何とか物語を進めていく。

 

 本を読まねば始まらない勉強がそもそも嫌いだから、文字を追う活字だらけの小説は読まない。だから文字を追うゲームに最初は、うっとなった。だけど自分で行動を選択する漫画だと思えばそれなりに楽しい。

  

 腹黒ヤンデレな王子様、熱血ヤンチャな騎士、内気なワンコ系な従者、クーデレ官僚、遊び人風医師が恋愛相手としてサリーを翻弄する。

 最終的に選ぶ相手は1人だけ。バッドエンドはもちろん、好感度が足りない時の友情エンドとも言われるノーマルエンド、普通のハッピーエンド、対象キャラの裏事情を知るトゥルーエンドもある。

 全員とハッピーエンドを迎えると、隠しキャラである帝国のスパダリ皇帝へのルートが開く。

 

 サリーはゲームの中だが、彼らに求められることがとても嬉しかった。






読んで下さってありがとうございます。

最後のやらかし組サリーちゃん回です。

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